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世界の終わり #3-9 ハンター


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 施設までの帰りのドライブも、怖いくらい順調やった。陽が落ちる前に到着したおれらを見るなり、カンバヤシが驚きの声をあげたくらいなんで、過去の記録を塗り替える最速タイムを叩きだしたんやなかろうか。なんて感じの、くだらん妄想思考はさておき、以前はブランド店が入っていた敷地内南西に位置する店舗跡の前にトラックをとめて、荷台にのった約二〇人の不法入国者どもを、ウディとともに担いで店舗内へ運び入れた。片耳がなくなっとるやつ、出目金みたいに両目が腫れてふさがっとるやつ、血で固まった包帯を首にぐるぐる巻いとるやつ、連中は必ずどこか怪我しとって、鉄臭い嫌な臭いを発しとる。数人、目を覚ましとったヤツがおったけど、棒状タイプのスタンガンを使って黙らせた。ついでに眠っとるヤツにもスタンガン攻撃。隙を見て逃げだそうとか、おれらに襲いかかろうと考えて、眠ったフリをしとるヤツがおったら危ないからな。
 ところで、運んできた不法入国者のほとんどは二〇代と思しき男性やった。顔立ちからしてアジア諸国の難民や思うけどハッキリしたことはわからん。わからんいうか、ちゃんと見たわけやないし。連中、日本に行けるよ豊かな暮らしができるよとかいわれて船に乗ったんやろうけど、まさか伝染病に感染させられて廃墟となった店舗に監禁されるとは夢にも思っとらんかったやろね。可哀想やなぁ、とか思うべきところなんやろうけど、それ以前に言葉がつうじへん相手やから、いまいちどう考えればええんか、どう受けとめればええんかわからんいうか、実感もわかん、そんな感じ。や、ちゃうな。そんなんやのうて、非道やいわれそうやけど、なんや、アレや、こういうのってあんま考えんのが正解やと思うねん。わからんいうか、わかろうとせんいうか、やっぱ嫌やん、こういうのって。嫌なこと考えて憂鬱な気分になってまうんなら、思考を放棄しようって誰でも思ってしまうやろ、普通。
「ファン! 全員、降ろしたか」と、カンバヤシ。
 なんや、めっちゃ離れたところから大声で訊いてきよる。感染するのが怖くて近寄れんクセに威張るなやアホが。そんなでかい声ださんでも充分聞こえとるわ。うおぉおおぉーい、全員降ろして店ん中に入れましたでー、と、おれ。だったら、そこはウディに任せて、お前はトラックを洗ってこい、とカンバヤシ。おいおい、いまから川まで洗いに行ったら、帰りは真っ暗やないか思うたけど汗でベタベタ気持ち悪かったので、わかりましたて返事してもうた。まぁええわ。これからまた長いこと水浴びでけん日が続くのやから行けるときに行っておこう。そんでおれはウディが着ていた防護服と川の水を汲みあげるマシンとブラシ&ホースを積んで少々離れた川へ向けてトラックのタイヤを転がすのである。BGMはNINを爆音で――とはいかない辛さ。周囲に自衛軍がおらんことを祈りつつ、注意しながら運転せなあかんしね。

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