善き羊飼いの教会 #2-11 火曜日
〈鈴鹿亮平〉
* * *
スマホを手に取り、メッセージを確認する。
返信はない。目が届き、手も届く場所に置いていたのでわかっていたことではあるが、改めてその事実を確認して、鈴鹿の気持ちは数センチ降下した。メッセージを送信したのは夕方の五時すぎ。送信から四時間近くが経過しているのになんの反応もない。
自身が送信したメッセージを表示し、気分を害してしまうようなことを書きこんでいたのではないかと心配して、何度も文章を読み返す。
【伯父から電話がありました】
文末に〝!〟をつけるかどうか、迷ったことを思いだす。
【紹介してくれた樫緒科学捜査研究所の人と、明日、会うといっていたので、警察も動いてくれているみたいです】
事実は半分のみで、もう半分は希望だった。
筒鳥署で働く伯父から電話があり、明日午前中に樫緒科学捜査研究所に行くという話を聞いた。ただし、訪問目的までは聞いていない。
『早速、家の建つ場所をつきとめたそうじゃないか』
その口ぶりから傍観者然としているのは明らかだったが、虚栄心から偽りを記した。
【警察も動いてくれているみたいです】
称賛を受けたくて。
頼りにされたくて。
【明日はおれも樫緒科学捜査研究所へ赴く予定です。スルガという調査員から電話があり、夕方くらいに研究所にきてくれということでした】
このことに関しては事実だが、次に続く言葉を探すのに苦労した。調査の進捗状況は会ったときに話すといって、スルガは電話を切ったからである。折り返して尋ねようかとも思ったが、その前にメッセージを送れるアプリを起動させた。一分、一秒でも早く報告して、〈DORMOUSE〉で働く楓乃と繋がりたかったから。
柿本、東条、雛岡の三人が行方不明になっていることを鈴鹿が知ったのは、日曜の夜。楓乃から送られてきたダイレクトメッセージを読んではじめて知った。
【鈴鹿くんの親戚に刑事さんがいるっていってたよね?】
楓乃からの問いに暴れまわる心臓をおさえながらすぐさま返信し、三人を探す手伝いをしてほしいとの頼みに、ふたつ返事でOKした。
話の展開上、願ってやまなかった楓乃のアドレスを入手し、身体が燃えだすのではないかというくらい高揚したまま早速、翌日に筒鳥署を訪ねた。
――期待されている。
――期待に応えなくては。
【明日の夜には満足いく結果がお伝えできるかと思います。楽しみにしていてください】
鈴鹿はアプリを閉じて大きく息を吐きだした。
送信してから四時間近くが経過している。
反応がほしい。了解の二文字だけでもいいのに、まだ返信は届かない。
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