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BADBADNOTGOODが『Talk Memory』に辿り着くまでの10年

僕にとってBADBADNOTGOOD(以下BBNG)はよくわからないバンドだった。そもそも最初の頃はいわゆるフリー・ダウンロードみたいな文脈で語られることも多く、”センスが飛びぬけて良いインディーロック(or ラップ)・リスナー向けの生演奏ヒップホップ系バンド”みたいなイメージでだった。そんな立ち位置のバンドは他に存在しなかったのと、(カナダ出身ということも関係あるのかもしれないが)アメリカのバンドと比べるとジャズ度やゴスペル度が低くて、他ジャンルとの相性が良かったのもあり、様々なジャンルのメディアにも取り上げられたし、様々なコラボも生まれることになった。

個人的には初期は横目で見ていた感じで、ゴーストフェイス・キラとのコラボ辺りから関心が強くなりはじめて、その次の『Ⅳ』で一気に気になる存在になった。演奏に対するモチベーションが変わったのかも、と感じるようになったからだったと思う。それまでの勢いとアイデアでやっていた感じから、演奏それ自体も聴いてて気持ちいいと感じさせる場面が現れるようになった。

それにそれまではなんだか取っ散らかっている気がしていた。その散らかり具合の絶妙なバランスが魅力のグループではあったのだが、ちょっとピアノが浮いている気がしたり。ただ、『Ⅳ』では全体のサウンドが調和していて、明らかに変化したのは感じていた。どうやらレコード好きでもあったピアニストのマシュー・タヴァレスのアイデアから始まったサイケ&ファンキー&オーガニックなブラジル音楽路線で全体のサウンドがまとまったようだった。そこにはブラジル音楽にある洗練や習熟を取り込もうとしたバンドの意識の変化もあったのかもしれない。

そこからマシューが脱退し、マシューはジャズ路線のアルバム『Visions』を発表し、その違和感の正体がはっきりした。一方で残ったメンバーによる『Talk Memory』もバンドの方向性が一致していて、変化後の二組がいい形で先に進んでいた。『Talk Memory』については以下のインタビューを読んでもらいたい。今のバンドがいい状態でクリエイティブにできていることがよくわかる。

その『Talk Memory』や、BBNG脱退後のマシューの『Visions』などを聴いてから過去作を改めて聴き直すと、そこに至る伏線的なものが過去作にあったことに気付くことができた。当時はよくわからないと思っていたことも近作から遡ると腑に落ちることもいくつかあった。

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