2022 011:ジュリアス・ロドリゲス - Let Sound Tell All
ジュリアス・ロドリゲスは2022年時点で23歳のピアニスト。名門ヴァーヴから『Let Sound Tell All』を発表した。ジュリアードで学んでいたが、ハイブリッドなジャズ系バンドのオニキス・コレクティブの活動に加わり、エイサップ・ロッキーのツアーに出るようになってから、大学を辞めたとのこと。まだ若いが、すでに華やかな話がついて回る程度には以前から業界内でも注目されていた逸材だった。そもそも2020年からシングルをリリースしていて、各種プレイリストに取り上げられたりしていた人だったので、ようやくアルバムが出た、といった印象さえある。
ジュリアスが最初に自主でリリースしたのがアルバムにも収録された「Blues At The Barn」。これがまたずいぶんオーセンティックなピアノトリオで驚いてしまう。マッコイ・タイナー影響下の匂いもする60-70年代のピアノトリオかなってくらいの曲調と演奏なのだ。ただ、イントロはコンサートホールの音をざっくり拾ったような雑音たっぷりの(まるで質の悪いブートレッグのような)不鮮明な音で始まり、それがドラムの一音を合図に焦点が一気に合ったかのようにしっかりとマイキングされたスタジオ録音の音に自然に切り替わる。なかなか面白い仕掛けから始まる辺りにただのジャズ・ピアニストではないことは表明されていた。
次のリリースは『butterfly』。ハービー・ハンコックの「butterfly」はロバート・グラスパーもやっている定番曲で21世紀のミュージシャンだなって印象だが、「prisner」はどうやら1930年代に書かれた「Prisoer of Love」のことなので「butterfly」と対照的にずいぶん古いスタンダードを引っ張り出してきたなって印象だった。
この「Prisner」を丹念に編曲したコンテンポラリージャズなアレンジでやっていて、その最後にはエフェクトを施したオルガンやエレピを重ね、更に空間的なミックスを利かせて終わる。「butterfly」も同様で中盤はオールドスクールなスタイルのスウィングするアレンジだが、シンセを重ねたり、かなり過激なミックスを施したり、ベースの低音を突如過剰に太く低くしたりしている。この辺りはオニキス・コレクティブとの交流があるミュージシャンだなと思わせるサウンドでもある。一部での低音の使い方はトラップ以降の音域と言った感じで、こういう低音を使うのはBIGYUKIなどを除いてはジャズでは珍しく、耳を引く。
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