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絵の中へ、旅をした。

 旅した場所が描かれた絵を見て、不思議な気持ちになったことがある。あの絵の中の世界に、私はいたんだと、感慨深く眺めた。今回は、旅と絵の話。

絵の中のロンドン

 大学の卒業旅行で初めてイギリスを訪れた。その数年後、今度はイギリスに住むようになっていたMihoko(このnoteのメンバー)を訪ねて、二度目のイギリス旅行を体験した。季節は春。4月のイースター休暇の時期だった。
 1日だけロンドンの街を歩いた。Mihokoおすすめのティールームへ行き、アフタヌーンティー。サンドイッチにスコーンにケーキ。とても食べきれず、ケーキを持ち帰った。

 赤茶色の煉瓦造りの美しい建物が並ぶ通りを歩き、八重桜の下で写真を撮った。まだ葉が落ちたままで枝だけの木々の向こうに、夕暮れの空が広がる。青い闇が落ちてくる頃、ビッグ・ベンと呼ばれる時計台のそばに出た。
 ライトアップされた時計台とテムズ河を眺め、橋を渡る。川の向こうにウェストミンスター寺院の尖塔が見える。次第に辺りが暗くなっていき、時計台の文字盤が闇の中に浮かび上がる。橋の上で、Mihokoに写真を撮ってもらった。

 それから何年か経って、ある日、自宅に長年飾られていた絵を見て、驚いた。この時目にしたテムズ河沿いの風景が描かれていたのだ。
 ずっと目にしてきた絵だというのに、長いこと気づかなかった。ガイドブックでも見たはずだし、旅で実際に目にしたというのに、帰ってきてからも気づかずにいた。
 長い間目にしてきたこの絵の中に、私はいたんだと思うと、不思議な気持ちになった。

サンテミリオンの街並みと葡萄畑

 旅した場所と、絵で再会したこともある。フランスのワイン産地を描いた画家の方の展示販売会がデパートで開かれると知り、見に行った。絵を買うつもりはなかったのだけれど、描かれた風景に興味があった。数年前にワイン産地を巡る旅に参加したので、訪ねた街の絵を見てみたかった。
 この時の旅で印象に残っている街の一つがサンテミリオンだった。世界遺産に認定されている美しい街で、ボルドーの上質なワインが生まれるワインの産地。実際に目にした街が描かれているのを見て、懐かしくなった。整然とした緑の葡萄畑、畑の向こうに見える街並み。あの時見た風景が、絵の中にあった。

 サンテミリオンは日帰りだったけれど、いまだに街の美しい佇まいが印象に残っている。いつかまた、再訪したい場所の一つだ。

ギリシャの島にロンドンで再会

 子どもの頃に読んだ『オデュッセウス物語』に夢中になり、ギリシャに行きたいと思うようになった私。オデュッセウスの故郷、イタキ(イタケー)島は、首都のアテネから離れていて、時間に余裕がないと行けなかった。
 2004年にギリシャを長く旅した時に、Mihokoに付き合ってもらって、イタキへ向かった。私にとっては、まさに聖地。島に船が近づくだけで感慨深かった。

 数年後、再びイギリスへ行った時に、ロンドンのマーケットをいくつか巡った。イギリス最大のアンティークマーケットといわれる「ポートベロー・マーケット」では、ガラスの小瓶、ティーカップやスプーンなど、さまざまなアンティークの品を眺め、写真を撮った。
 通り沿いにある店の一つに入ってみると、古い絵や地図などを揃えた専門店だった。そこで私はギリシャの島、イタキの絵を見つけた。

ITHACAはイタキのこと

 この時は買わずに帰ったのだが、Mihokoとも「いい記念になるよね」と話し、後日、再び店を訪ね、その絵を購入した。せっかくだから額に入れて飾ろう、そう思って何年経っただろうか。今も眠ったままの絵。そろそろ飾るために額を探しに行きたい。

いつかまた、絵の中へ

 先日、和田誠さんの展覧会を見に行き、和田さんが手がけた週刊文春の表紙がずらりと並ぶコーナーで、懐かしい風景を見つけた。白い教会の向こうに青い海が広がり、猫がいる。きっと、何度か旅したギリシャのサントリーニ島だ。

 絵の中を旅したり、旅した場所の絵を見たり。そんな出会いを、また繰り返したい。

(Text:Shoko, Photos:Mihoko&Shoko) ©️ elia

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