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ゆるゆる、ハワイ

  デビュー当時から、吉本ばななさんの大ファンだ。ばななさんはハワイのリピーターで、ご自身もハワイのダンス「フラ」を習い、小説にもエッセイにもハワイが頻出する。
 そんな中でずっと印象に残っているのが「ハワイの風は甘い」という言葉だ。どの作品に書かれていたかは思い出せないのだが、「甘い」というハワイの風に吹かれてみたいと、ずっと思っていた。そんな長年の夢を、ついに2019年9月、叶えることができた。このnote仲間のShokoとの2人旅で。

 あちこち出かけるのではなく、部屋から海を見てただゆっくりしたい……。これが私の最大の願いで、懐事情と相談しつつ部屋選びにはこだわった。オーシャンビューで、さっと買い物に出られるように街中がいい。これまで旅行には、「発見」「刺激」を求めていたが、正直、今回それは二の次。あわただしい日常から逃避して、頭と体をゆるめたかった。

 ハワイに到着し、ホテルの部屋からの眺めに、歓声をあげた。バルコニーからは、広い広い海。水平線。高層階に部屋がとれたので、ビーチにいる人々が豆粒のように見える。

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 翌日は早起きして、ダイヤモンドヘッドのふもとで開催される、ファーマーズマーケットに向かった。
 トロッコ列車のように解放感あふれるバスからの眺めは思いの外素晴らしかった。朝のさわやかな風を顔に受けながら、街路樹としていたるところに植えられた椰子の木と、風にそよぐ椰子の葉、朝日を背にきらきら輝くダイヤモンドヘッドを見ていると、自然に顔がほころんでくる。まるで世界に祝福されてるみたい……そんなことを思った。

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 ファーマーズマーケットでは、Shokoと手分けして行列に並び、青いトマトをフライにしたものや、大きなソーセージがジューシーなホットドッグを買って、芝生のようなところに座って食べた。

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それから、ハワイに咲く花からとれたはちみつを試食したり、おいしそうな海塩をちょこちょこ買ったり。普段は大急ぎで食料品をカゴに突っ込むような買い物ばかりなので、こんなに楽しい買い物は久しぶりだと思った。マーケットを満喫してホテルに戻ったがまだ昼前。朝食ビュッフェがまだ開いていたので、おいしいコーヒーをゆっくりと飲んだ。

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 午後は昼寝。シャワーで汗を流し、エアコンの効いた部屋で、真っ白なベッドにもぐりこむ。ふと起き上がって窓の外を見ると、青い海。これ以上幸せなことがあるだろうか。
 結局この旅では、午前中はビーチ、ハイキングと予定をいれ、ランチのあとは部屋でのんびり、気が向いたら買い物、夕方早めに食事に出かけるというスケジュールで過ごした。


 少し日が傾いたころ外に出ると、椰子の葉ごしに、ほんのりピンク色に染まった空が見える。日中はじりじりと肌を焼いていた強い日差しもやわらぎ、湿り気のない風はふんわりと頬をなでていく。すれ違う人たちもみんなにこにこしている。心地よさに思わず微笑んで、また、空を見上げる。「風が甘い」、そうか、こういうことか。気持ちもゆるく、やさしくなるから風が甘く感じるんだ。天国ってこういうところかもしれない。本気でそう思った。

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 そして、楽しかったのが、「バルコニー飲み」だ。早めの夕飯からの帰り道、ABCストアでワインとおつまみを仕入れてホテルに戻る。夕焼けの名残が残る空を眺めながら、Shokoと取り留めのない話をしつつワインを飲んだ。空は広いし海も広い。そのとき考えなければならないのは「明日、何食べようか」ということくらい。頭の先からつま先まで、とろけそうにゆるんでいった。

修正ハワイ_ベランダ_ワイン


 かつてこんなに何もしなかった海外旅行はあっただろうか。若いころの私なら、もっとあれこれ予定を詰め込み、このようなスケジュールだと物足りなく感じただろう。いや、あちこちに日本っぽさのあふれるハワイそのものに、物足りなさを感じていたかもしれない。吉本ばなな作品に描かれるハワイに憧れを抱きながら、ハワイを旅先に選んでこなかったのも、多分、そのあたりを見越してのことだろう。
 だからこそ、いい時期にハワイと出会ったものだと思う。滞在しているときから「また来ようね」と言ってしまうほど、ハワイが大好きになったのだから。
(text : Noriko photo:Noriko&Shoko) Ⓒelia




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