音楽における作品のあり方は、絵画作品とどう違うか

 音楽における作品のあり方について、絵画とどのように異なるか論じる。
 まず、鑑賞のしかたに違いがある。我々が音楽を鑑賞する際に1番に使うのは聴覚である。もちろんコンサートに行くなど視覚的に楽しむ方法もあるかも知れないが、どんな曲なのかを知るには聴くことが1番大事だと考える。これに対し、絵画を鑑賞する際に一般的に使われるのは視覚だ。百聞は一見にしかずということわざがあるが、美術館に行って実物を見たり解説に目を通すと、その時代の生き方の模範となる考え方や、その画家の絵画表現を生で感じることができる。
 次に、作品を公開するプロセスに違いがある。絵画の場合は、作品を作る行為そのものが完成に直結するので、製作者が完成と言えばそのまま公開することができる。しかし、音楽作品の場合は、楽譜が完成したとしても誰かが演奏をしなければ鑑賞することができない。例えば演奏者がバンドだったら、ギター、ベース、キーボード、ドラム、ボーカルがいなければ形にならない。オーケストラの曲であれば、楽団が必要になる。
 また、音楽と絵画では著作権が異なる。音楽作品の場合、大きく分けて2種類あり、著作権と著作者人格権がある。著作権は死後50年保護される。他人の楽曲をカバーして演奏・録音などをする際には、著作権者やJASRACなどから許可を得る必要がある。しかし、楽曲をカバーすることで作曲者とアレンジを加えた人の間で揉めることがある。例えば「大地讃頌事件」では、作曲者の佐藤眞が、PE‘Zのカバーが著作権法上の編曲権と同一性保持権を侵害したとして東京地裁に訴えた。クラシック音楽的な文化規範とポピュラー音楽的な文化規範の間で摩擦が起きていることがわかる。美術作品の場合、著作権は死後70年まで持続する。美術業界においてはオマージュと盗用の線引きが曖昧である。オマージュの有名な例としてはエドゥアール・マネの《オランピア》が挙げられる。これはティツィアーノが描いた《ウルビーノのヴィーナス》の構図を参考にしている。盗用については、東京オリンピックのエンブレム問題が話題となった。美術の世界においては、鑑賞者や評論家の意見で盗用にもオマージュにもなりうる。
 最後に、鑑賞をする環境の違いだ。音楽グループのライブやクラシックなどのコンサート、そして美術館に行った時のことなどを思い出してほしい。前者では演奏中は黙って聴いているかもしくは演奏中でもボルテージを上げ騒いだりし、最後はみんなで大歓声、スタンディングオベーションをして皆で昂った気持ちを身振りや手振り、声で激しく表現する。一方美術館では皆静かに鑑賞している。その場で何か感想を表現したいとしても静かに表情と手振りを動かして表現する。当然大声など出したりはしない。このことから違いは、音楽はタイミングは守らなくてはいけないが思いのままに感情を出せる。絵画は落ち着いて鑑賞ができるという違いがある。
 以上が音楽における作品のあり方と絵画の違いである。

〈参考文献〉
増田聡 「音楽を「所有」することーー「大地讃頌」事件と著作権制度」『聴衆をつくる 音楽批評の解体文法』青木社、2006年、157ー180頁。

https://www.jasrac.or.jp/park/whats/

http://jaspar.or.jp/copyright_law

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