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ジェンダーレスAI「Q」ってどんな声?

2020年3月14日に開業し、“スマート・ステーション”として話題になった高輪ゲートウェイ駅。つい先日も、ウォークスルー型の無人決済店舗の効果がITmediaで紹介されていた。

ほかにも、QRコードを読み取る自動改札機、迷子や不審者を係員に通知する警備ロボット、自律移動型の掃除ロボットなど、構内にはさまざまなテクノロジーが活用されている。

しかし、開業当時最も話題になったのはAI女子駅員「さくらさん」だろう。

未来の場所に、過去の価値観

東洋経済ONLINEが3月16日、レポート記事 「AI女子駅員が大活躍『高輪ゲートウェイ』の衝撃」を公開するやいなや、SNSでは批判・疑問の声が噴出。

記事によると、AI駅員は「いたってまじめな印象」の男性タイプと、「アニメキャラクターで会話の最中に髪の毛を触る仕草をするなど、かなり凝った作り」の女性タイプの2種類。この表現から、AIのジェンダーバイアス問題に言及する人が続出したのである。

AIさくらさんは、Web・AI制作会社「ティファナドットコム」が開発したAI接客システムだ。高輪ゲートウェイ駅のようなサイネージのほか、ヘルプデスク、サポートデスク、AIコンシェルジュ、問い合わせ対応などさまざまなシーンで活用されており、「渋谷109 SBY」「プライムツリー赤池」ほか導入実績は300社を超える。

そのため、AIさくらさんに嫌悪感を表す人々に対し、以下のような批判コメントも投稿された。

ただ、300社以上に導入されているとはいえ、約382万社ある日本企業では0.007%ほどだ。また、導入先は、駅やホテルのような地域が限定されるもの、従業員向けや事業者向けなど利用者が限定されているものも多く、社会的認知度はまだ途上段階といえるだろう。

何より、「おかしい」と思ったときに「おかしい」と声を上げることは間違いではないし(もちろん伝え方は考慮されるべきだが)、それを「前からあった」と批判するのは、個人的には論点がずれているのではと感じる。

さらに、今回の問題は、AIさくらさんだけでなくAI男性駅員も含めたジェンダーバイアスについてであり、それが「未来をイメージできる駅」を掲げられた公共性の高い場所に設置されていることが問題だったのではないだろうか。

もはや世界的な問題に

AI音声アシスタントのジェンダー問題は、実はすでに世界中で議論されている。

UNESCO(国連教育科学文化機関)は2019年、デジタル教育におけるジェンダー格差解消のための戦略レポート「I'd Blush If I Could」を発表。Siriを始めとするAI音声アシスタントには女性性(従順さ、若さなど)が投影されており、それがジェンダーギャップに繋がっていると問題視している。

また、ジュネーブで開催された「AI for Good Global Summit 2019」では、ITU(国際電気通信連合)事務総長のホーリン・ジャオ氏が、AIが解決するべき課題として「男女平等(ジェンダー平等)」があるとスピーチ。これは2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」に則ってのことである。

高輪ゲートウェイ駅のAIさくらさんは、世界的に議論されているAIのジェンダー問題について、日本国内でも議論するきっかけになったのではないだろうか。

ジェンダーレスな声が誕生

上記のような世界的潮流を受け、VICEのクリエイティブ・エージェンシー「VIRTUE」はジェンダーレスAI「Q」を開発した。男女計4600人の声のサンプルを融合し、ジェンダーニュートラルな声を作り上げたという。

その実際の声がこちら。

言語ごとに音域は若干異なるため、ユーザーの母国語によるところもあると思うが、確かに男性の声と言われれば男性の声、女性の声と言われれば女性の声に聞こえる(ただ、日本人には男性の声寄りに聞こえるかも?)。

Qは、それ自体がおもしろい試みであると同時に、一足飛びには前進しない傷みだらけの社会のなかで、それでも悲観するべきではない理由のように感じた。

問題は依然として山積みだが、世界を見渡せば、社会を前進させるためにテクノロジーを使おうとする人がいる。テクノロジーだけでなく、さまざまな研究者や活動家がそれぞれの分野で、専門知識、情熱、人生の時間を費やしている。それはどんなに心強いことだろう。

私たちはきっとこれからも「この時代にまだこんなことを言ってるの?」と呆れること、諦めたくなること、そして傷つくことにたくさん遭遇するだろう。そんなときにも決して悲観せず、社会を前進させるための議論にエネルギーを使いたいと思う。


▼参考資料
・東洋経済ONLINE「AI女子駅員が大活躍「高輪ゲートウェイ」の衝撃
・ティファナ「AIさくらさん
・MoreBiz「AIは働き方をどう変える?導入実績300社「AIさくらさん」提供企業が予想する、働き方の未来
・朝日新聞DIGITAL「『未来イメージできる駅』 高輪ゲートウェイの内部公開

 Top Photo by Kate Hliznitsova on Unsplash