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カシミールでお茶を#1_ピンクチャイ・リサーチ

【カシミールのピンクチャイ】

きっかけは忘れてしまったが,以前チャイについて調べていた時に "Pink chai" や "Kashmiri tea" または "Noon tea"と呼ばれるなんともキャッチーなお茶文化があることを知った.名前の通り,苺ミルクのようなピンク色.さらにピスタチオなどのナッツを砕いて載せるのも定番らしく愛らしさを増強している.

カシミール,といえばインド・パキスタン・中国にまたがる複雑な地域を指すが,少なくともインドとパキスタンの双方でこの名称は通っているようだ."Noon chai" なんていうくらいだからお昼時に飲むのかと思ったけれど,ここでの"noon" は”塩”を意味するらしい.嗜み方はスタンダードなチャイと同様に,単品で朝ご飯にしたり軽食とともにちょいと一服したり.眉目険しいオッチャン達も,麗しいピンクチャイでホッと一息ついたりするんだろうか.

次期タピオカ候補たりうるインパクトだが,基本的に塩味なので『ミルクティー=甘い』を刷り込まれている日本ではちょっとハードルが高そう.とはいえ,当地でも最近は甘くして飲む人も増えているらしく原宿あたりでカシミールの名が飛び交う日も遠くはないかもしれない.きっとその折には,仕上げにホイップクリームがこんもり載ることだろう.

【ピンクチャイはどう作る?】

最大の特徴は紅茶ではなく緑茶を使うこと,そして重曹を入れること.
”Kashmiri teaまたはGreen teaを使う”と書いてあることも多かったが,Kashmiri tea が通常の緑茶とどう違うのかはイマイチわからない.日本の緑茶で作っている人もいるので,少なくとも色味の点に関しては大差ないのかもしれない.
重曹を入れるということでpHの変化が重要なことが想像される.実際に作っているところを見てみる.煮出した緑茶に重曹を加えると徐々に色味が鮮やかな緑色から褐色へと変わっていく.水分を飛ばしては水を加える作業を繰り返し,もはや真っ黒とも言える濃さにしてからミルクを加えると,マーブル模様の向こうから鮮やかなピンク色が立ち現れる.動画ごとに発色が結構違うので,ちゃんとピンクになるのか…!?と毎回ドキドキしてしまう.


【ピンクチャイはなぜピンク?】

"お茶の色"ときいて想起するのは,有名な”緑茶も紅茶も烏龍茶も,実は一緒なんですよ!”という話かと思う.
チャノキ(Camellia sinensis)の葉に含まれるカテキン類をそのまま含むのが緑茶,微生物の酵素によってカテキン類がくっついて[酸化/縮合して]赤色のテアフラビン類やテアルビジン類になったのが紅茶や烏龍茶.(ちなみにカテキンは無色で,緑茶の緑色は野菜と同じクロロフィルに由来する.てっきりカテキンが緑色かと思っていた.また,ウーロンテアニンの反応経路はもっと複雑らしく,色についての情報は得られなかった)

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ピンクチャイに使われているのは緑茶なので,もともと存在するのはカテキン類.これらは冷水には溶け出しにくいが,高温では水に溶け出しやすくなる.カテキン類は酸化しやすく,放っておいてもテアフラビンが生成する.
また,赤色色素のテアフラビンはアルカリ性に傾くと色が濃くなる.(逆に,レモンティーのように酸性だと色が薄くなる.)

【綺麗なピンクチャイを作るには】


緑茶に含まれるのはカテキン,その特徴は上述の通り.また,いくつかのサイトには途中で加える水について冷水が推奨されていた.これはおそらく,アイスティーを作るときに悩まさせられる,カテキンとカフェインの結合による濁りの発生(通称”クリーム”の沈澱)を防ぐためと思われる.

加えて,現地レシピ動画では鉄鍋を使っていることが多かった(これは料理全般そうだが).テアフラビンは鉄イオンとも反応して色が濃くなるので,もしかするとこれも成功の一端を担っているのかもしれない.

以上をまとめると,ピンクチャイ成功のコツは次のものが挙げられる.

カテキンは水に溶け出しにくく,熱水には溶け出しやすい
→Point 1:熱水でよく緑茶を煮出す

カテキンが酸化して縮合すると紅茶と同様の赤色色素テアフラビンができる
→Point 2: かき混ぜてよく空気と触れさせる

テアフラビンはアルカリ性で色が濃くなる
→Point 3: 重曹でしっかりアルカリ性にする

冷却がゆっくりだと色が濁る
→Point 4: 途中で加える水はしっかり冷やしておく

テアフラビンは鉄イオンとも反応する
→Point 5: 鉄やステンレスの鍋を使う(?)

さて,せっかく調べたので近々ぜひ検証します.またはやってみた方,情報提供いただけると嬉しいです.
あとは,テアフラビンがあればいいならそもそも紅茶でいいのでは…?の思いも.Kashmiri teaの正体と合わせて,宿題です.

情勢が複雑でなかなか足を伸ばしにくいカシミール,いつか行ってみたい.最近ひょんなことからパキスタンの方と少々お話を聞けた(そしてクッキーのお裾分けもらった)ことから,当地のスイーツも気になっている.

地道に "動かない旅" を続ける東京マサラ部室も今月はカシミール月間.ティータイム班としてがんばりたい.


【参照サイト】

https://en.wikipedia.org/wiki/Noon_chai

↓パキスタン側でのKashmiri chaiについて
https://jadediary.exblog.jp/4382833/

↓お茶の色について
https://www.nvlu.ac.jp/food/blog/blog-058.html/

↓カテキン類の構造変化について
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1995/40/4/40_223/_pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/40/8/40_8_513/_pdf

https://www.catechin-society.com/qanda.html

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