メタモルフォーゼ・カレー#1_固形カレー
カレーの定義とは何か?というのは答えのない禅問答だと思う.しかし私は非常に物質的な人間なので,形而上学的な思考を苦手とする.そこで,手を動かして「形から壊す/疑う」というアプローチを取ってみることにした.「形から入る」という言葉があるが,ちょうどその逆のことをやってみるわけだ.
どこまで形を変えてもカレーと言えるのか?どこまで行くと非カレーとなるのか?
これを試行錯誤で探っていく.また,その過程で生まれるであろう形を変えてなおカレーたるカレー,メタモルフォーゼ・カレーを記録していきたい.
【カレーの固形化】
カレーは液体,まずはそこから崩してみる.実は降って湧いたアイディアではなく,元ネタはこちらの商品.ブランドとしては優しげ穏やかな印象を醸し出しているが.その実なんとも攻めている.
エナジーバーは甘いだけが取り柄じゃない。時にはピリッと、時にはエキゾチックに。
(中略)
もはや誰もがインドカレーに親しむ時代です。
NATURE THINGの得意とする、フルーツとスパイスの組み合わせで、
南インドの味を生み出しました。
ローストしたひよこ豆(ローストチャナダール)やドライオニオンなどの
食感がしっかりと残り、歯ごたえのあるココナッツの優しい風味に酸味もしっかり効かせた、爽やかな南インドへのカレートリップ体験です。
【原材料】
デーツ、カシューナッツ、ローストチャナダール、アーモンド、
ココナッツオイル、ドライオニオン、クミン、コリアンダー、
イエローマスタード、アムチュール、フェヌグリーク、ココナッツファイン、
チリパウダー 、カルダモン、ターメリック
このパワーバー,原材料はほぼカレーそのもの.これが携帯式カレーとして成立しているなら,「カレーとは」論に1つ新たな風穴が開くんじゃなかろうか.
是非食べてみたいがどうやら公式には卸しか取り扱ってなさそう.これは,作るしか!
【材料】
原材料表記をもとにスーパーで調達.ナッツにドライフルーツ,うーん高原価.
このほかスパイスなどは自宅にあったものを使ったが,それらも含めると相当な原価になる.商品化しているのが驚愕だ...
【下ごしらえ】
今回は参考にしたパワーバーをもとにナッツやフルーツメインとする.アーモンドとカシューナッツを選り分けて炒り,フープロで砕く.プルーン,ドライイチジク,レーズンを刻む.
キッチンにこうばしい香りが漂う.フープロだと一部粉状になってしまうので,叩いた方が良かったかも.
原材料通りだとデーツのところを高価なのでプルーンに.カレーにはあまり入れないフルーツだが,ねっとりして繋ぎにもなりそうなので採用.
繋ぎの粉はチャナパウダー.ダルを乾煎りし,スパイス用にしているコーヒーミルで粉に.余談だがこの時の香りにものすごく嗅ぎ覚えがあり、何かと思ったら小布施堂の栗落雁だった.繋ぎにはこのほか,アタ粉とココナッツファインも.
栗の香りに似てるのかと思ったが,小布施堂の落雁はうぐいす豆の粉を使っているらしい.なるほどな豆繋がり.
ここまでは普通に美味しそうなフルーツバーだが,次が肝心.いでよフライドオニオン!
ちょっと攻めすぎた.こいつがどう味に効いてくるか,予想もつかない.
さらにこちら.イエロー&ブラウンのマスタードをテンパリング.
ココナッツオイルとか使うとそれっぽのだろうけど,そこまで手が回らずサラダオイルを使用.
パウダースパイスは以下の通り.チリ控えめのちょっと贅沢カレー,ぐらいの配合.
コリアンダーパウダー:大さじ2
シナモンパウダー:小さじ2
クミン:小さじ1/2
ターメリック:小さじ1/2
カイエンペッパー:小さじ1/2
ブラックペッパー:小さじ1/2
カルダモンパウダー:小さじ1/2
ジンジャーパウダー:小さじ1/2
【成型,焼成,完成!】
あとはこれらを混ぜて焼くのみ.
まずはナッツとフルーツに粉類を馴染ませる
繋ぎのオリゴ糖シロップと溶き卵,テンパリングしたマスタードを加えて混ぜる.
結構固めな生地で,均質に混ぜるのはなかなか疲れる.
四角いケーキ型に詰める.角まできっちり.
焼きは200℃のオーブンで10分.完成!
なかなかな焼き色!型から外してもしっかり固まっていた.
【実食】
焼き立てで柔らかいうちに,パワーバーっぽく細長にカット.冷めると表面がカリッとするので切るときに砕けてしまいそう.
完成形.密度高め,ドライフルーツが多いため冷めても中はしっとりもっちり.SOYJOYのイメージ.
食べた直後に書き出したの感想メモが以下.
・カルダモンとコリアンダーが果物に引き立てられてる
・甘味のためか、入れた量が少ない割にチリを強めに感じる
・フライドオニオンが深みを足してる
・コーヒーに合いそう
・普通に美味しいカフェメニュー
そう,「普通に」美味しかった.肝心の「これはカレーか?」に対しては...微妙なところ.かじった瞬間に緑豊かな中庭のあるカフェの光景が浮かんだので,ちょっと違う気がする.
【再試】
カレーバー第1弾は美味しいものの物足りず,もう少し攻めたver.も作ることにした.第1弾(カフェver.と呼ぶ)はナッツ中心で繋ぎをプルーンやオリゴ糖に頼っていたが,第2弾(攻めver.と呼ぶ)は甘味を抑え,トマトペーストを投入.さらにフライドオニオンも増量.
カットトマトの水分を焦げ付く寸前まで飛ばす.
基本的な材料はほぼ同じ.トマトが入ると見た目のカレー感が急に増してくる.
先ほどと同様に成型,焼成して完成!
攻めver.はトマトのせいでちょっと赤っぽい.
プルーンを減らしてオリゴ糖シロップを抜いたため,カフェver.よりガリッとした質感.それはともかく.オーブンを開けた瞬間の香りがもうですね...カレー!やはりトマトの旨味感と,ちょっと青臭く田舎臭い感じが圧倒的に効いている.スパイスの香りも,カフェver.では爽やかなコリアンダー/カルダモンが際立っていたがいい感じに渾然として何かわからない.この感覚はカレーです.私はそう認識します(雑).
【カレーとは】
今回の試みでわかったカレーの境界線がいくつか.もちろん私見ですが,以下の通り.
・香りの得体のしれなさ
食べた瞬間に何が入っているのかわからない,徐々に解像度が上がってくる感覚.材料やスパイスの一体感と,互いに引き立て合い「すぎない」こと.トマトの有無は大きく,旨味と酸味の主張でスパイスの個性を押さえ込んでいるイメージだった.
・旨味のブースト
上記と相反するようだが,旨みに関しては相乗効果があった方が深みが出る気がする.今回だと,フライドオニオンとトマト.
・田舎臭さ
第1弾がカレーっぽくなかったのは,オシャレ味すぎたからでは,と思う.どこかに洗練され切ってない風味があると,グッとカレーメーターが上がる.
なんだかトマトが全てみたいな書き振りになったけど,従来カレーで言うともっと広い手法が当てはまると思う.例えば,香りの混沌とした様はホールとパウダーの使い分けや投入のタイミングが効いてくるだろうし,旨味は肉や豆,野菜が効かせてくる.田舎臭さに関してはちょっと説明しづいらいけれど,油でニンニクやショウガ,玉ねぎを炒めた時の香りがそれに近い気がする.
とはいえ,上記にあげたのはあくまでカレーの必要条件(しかも不完全).食べた瞬間キリッと香りの輪郭が勃つカレーがあるかもしれないし,旨味も田舎臭さもないスタイリッシュカレーもありかもしれない.しかし少なくとも,「液体である」ことはカレーの必要条件でも十分条件でもないことはここに提示したい(勝手に).
以下,忘備録までにざっくりレシピを記します.
[カフェver.]
ドライフルーツ(ドライイチジク,レーズン,プルーン):刻んだもの,1掴みくらい
ナッツ(アーモンド,カシューナッツ):乾煎りして砕いたもの,大さじ3
チャナダール:乾煎りして挽いたもの,大さじ3
アタ粉:大さじ3
ココナッツファイン:大さじ2
パウダースパイス:以下を混ぜたもの,大さじ2
コリアンダーパウダー:大さじ2
シナモンパウダー:小さじ2
クミン:小さじ1/2
ターメリック:小さじ1/2
カイエンペッパー:小さじ1/2
ブラックペッパー:小さじ1/2
カルダモンパウダー:小さじ1/2
ジンジャーパウダー:小さじ1/2
フライドオニオン:玉ねぎ1/4個分
マスタードシード:イエローとブラウンをサラダ油でテンパリング,大さじ1
オリゴ糖シロップ:大さじ3
溶き卵:1/2個分
[攻めver.]
上記にトマトペースト大さじ3追加,オリゴ糖抜き,フルーツ少なめ,フライドオニオン3倍量
焼きは共に200℃10分
【加筆:2021.11.27】
「カレーのメタモルフォーゼ」のコンセプト先行で書いた記事,固体以外は更新できずにやがて1年が経とうとしている.そのあいだにTwitterで見つけたこちら,イドゥリバーの試みを申し訳程度に付け足し.
気体編/液体編は構想のみ進行中...
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