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東京に泊まる

わたしはロンドンに住んでいるので、年に一回は日本に帰る。
だいたい3週間ぐらい帰省する。
その際は実家のある浦和に帰って、両親と寝食を共にする。
もう人生の半分を両親から離れて住んでいるので、年に一回の親孝行とはいえ、親と暮らすのは難しいなと思ったりもする。

2年前に帰ったときに、ひとりで築地本願寺に2泊したんだけど、浦和からだと電車で行ける距離の東京に宿泊するという、そのことがとても新鮮だった。
大学も職場も都内だったし、父母は東京出身なので、頼めば都内の親戚の家に泊まれたりもするし、だから都内の宿泊施設にお金を払って泊まるとか考えたこともなかった。
日本にいたころは、東京に「住む」ということすら考えたことがなかった。

東京にひとりで泊まる、今ごろ知ったその愉しみに、在英が長いゆえの外国人的まなざしも加味されて、糸の切れた凧状態でふわふわする。

非常に愉しい。

築地本願寺に泊まったときは、朝は必ず築地市場へ行って朝食を摂り、あとは銀座やその界隈をぶらぶらして、すきなものをたべ、飲み、東京の街なかにステイするおもしろさに浮かれた。
浮かれながらも、本願寺のお堂で朝の勤行に参加したりして、ココロをしーんとさせて脳のなかにぐわーんと入ってくるようなお経を聴いて心身清まったような、そんなことも日本一時帰国の体験としては申し分なかった。

去年の帰国の際は、3週間のあいだに新潟と台灣に行ったので、都内には泊まらなかった。
でも、今年はまた泊まりたいなと思っている。
今度は思い切ってどこかのスナックとか割烹みたいなお酒を飲みながら肴をつまむことができる、そういうところにひとりで行ってみたい。
歩いて帰れる距離のところに宿をとって、飲んで帰って即寝る(贅沢)。

わたしは日本人だから日本に帰って日本人に混ざれば、わたしは集団のなかに埋もれる。
人生の半分ぐらい生きた英国と、自分が生まれた国と、どちらにも所属しないような自分には、東京でひとりで過ごす夜ならば、日本人に紛れながらも孤独が極まるような奇妙な感じがするだろう、などと今、ロンドンの午前2時に思うのだった。





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