FDM方式3Dプリンターで平歯車を作る
FDM方式3Dプリンターでの構造物の強度
Fused Deposition Modeling方式3Dプリンターは垂直方向(積層方向)の強度が他の方向を下回る傾向があり、プリントアウトした物には異方性が生じます。
具体的には、割れる時に積層面同士が剥がれるケースが多くなります。
OB・OG・おやじ参加可能なオープン大会にて最初のキックオフで相手ロボットのFDM方式3Dプリンター製の外装を割ってしまった事(2018モデルにて)がありました。
また、仕事で使っていた業務用3Dプリンターのモデルも強度不足の印象があったので3Dプリンターを用いて構造物を作るイメージはありませんでした。
初期投資が小さい
2009年にFDM方式の特許期限が切れたことにより、FDM方式プリンターへの参入が増えて、20万円を切って家庭用と言われたFDM方式プリンターの価格は下がり続けて、私が購入したNeptune 3 Proは2024/10/5現在¥27,999です。
ELEGOO Neptune 3 Pro 購入|あるちざんラボ (note.com)
この価格帯になれば、相当普及していると思われます。
フィラメントの進化
ハードが普及すればソフトが充実するのは世の常です。
"フィラメントがソフトか?" は置いておいて、造形温度が低く失敗が少ないが脆いと言われたPLAにABS並みの強度がある改良型のPLA(2021発売PolyMax PLA)が出てきたり、フィラメント側の改良も進み、2018年の頃とは別物の印象です。
スライサーの問題
レーザー加工機による部品製造の場合はFusionのCAMにてレーザーの刃幅を考慮したツールパスを得る事で±0.03mm程度の精度が期待できます。
FDM方式プリンターのツールパスを生成する " スライサー " はちょっと様子が違うようです。
穴などの内側寸法が小さくなる傾向があるようです。
CADデータをそのままプリントすると、6.0mm幅の溝が5.7mmになりました。
CADデータ側を6.3mm幅に変更して、プリントすると6.0mm幅に仕上がりました。
比率ではなく、一定の寸法内側にずれる感じです。
このあたりは、色々なモデルをプリントして傾向を把握する必要がありそうです。
このモデルにて、Infill Densityの設定15%、80%の2種類でプリントしてみました。
実測重量とスライサーのシミュレーション結果は相関しています。
以降の検証はスライサーの結果を信じて良さそうです。
このモデルは172×62×3mmと積層方向に低くビルトプレート面に大きくなっています。
スライサーはビルドプレート面と天面には空隙を作らないので、このように薄っぺらいモデルではInfill Densityが作用する比率が小さくなります。
実際に積層回数23回のうちInfill Densityが働くのは3回になってました。
では、積層面に高いモデルではInfill Densityの効果が大きくなるのか見てみましょう。
こちらは、積層回数232回のうちInfill Densityが働くのは212回となり、効果は大きくなっています。
PolyMAX PC
PolyMax PC(旧名 PC-MAX)は、炭素繊維強化系フィラメントより強いとの噂で話題になりました。
元機構設計のエンジニアとしてのCF強化樹脂の取扱い経験から、必ずしもCFの含有比率の高いペレットが強度が高いとは限らない事と、0.2mmのノズルから押し出すFDM方式で許容される炭素繊維長はペレットの制限より厳しく " 効果は限定的では? " と思ってます。
樹脂とCFの界面の問題とCFの含有量が増えると、樹脂が元々持っている利点が薄れる事になります。
炭素繊維強化熱可塑性樹脂のデータシートからグラフを作成しました。
10%から30%に向けて強化の効果が鈍化しているのが分かると思います。
この様な認識から炭素繊維強化系フィラメントには手を出しませんでした。
無垢の樹脂で絶大な強度があるなら試すしかありません。
早速入手して、ELEGOO Cura Ver:4.8.0 の " Generic-PC " にてプリントしましたが、反りが大きすぎて確実に失敗します。
早速、条件出しを行いました。
スライサーがノズル径や積層寸法を考慮して寸法の丸めを行っている様子なので、モジュール0.5は諦めてモジュール1の歯数16を作成しました。特に、" Fan Speed 0% (停止) " が反り対策の効果として大きかったです。
反り対策として " Speedを下げる ” がセオリーの様ですが、遅すぎるとプリント精度が下がる様です。
何とか条件出しはできましたが、スライサーの寸法丸めの影響で歯車のインボリュート曲線が崩れています。
レーザー加工の結果と比較して頂くとわかると思いますが、谷が狭く浅くなっています。
レーザー加工ではFusionの " FM Gears " が描く基準円が接するように歯車の軸間距離を設計すれば問題なくギアボックスが仕上がりましたが、少し軸間距離を離す方向に調整する必要があります。
また、歯車同士のかみ合いにおいて接触面での擦れを最小にする為にインボリュート曲線が用いられている事を考えると、摩擦の増大(効率の低下)は避けられません。
今回のモデルは、仕様としてアクリル板をレーザー加工したギヤで充分強度だったのですが、デバッグ中に可動限界で仕様不明のギャードモーターが思いの外パワフルで歯欠けが発生した案件に対してPCの耐衝撃性に期待したものです。
PolyMax PC製のギヤに交換してアクリルギヤが歯欠けした状態に危なげなく耐えたのでアクリルより強度が必要な用途に使えそうです。
まとめ
PolyMax PCのNeptune 3 ProとELEGOO Cura Ver:4.8.0の組合せにおける設定
・プリント温度 260°
・ビルドプレート温度 100°
・印刷速度 50mm/s
・Fan OFF
平歯車のインボリュート曲線が崩れる
" スライサーの寸法丸め " を抑制する術を見つけるまでは、FDM方式3Dプリンターで平歯車を造るのは、衝撃特性が必要な用途限定になりそうです。