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【2024年大統領選】3度目の指名獲得 トランプ支持の基盤と本選への“課題”

 こんにちは。雪だるま@選挙です。今回の記事では、予備選で盤石の勝利を収め、3度目の共和党候補者指名を獲得したトランプ前大統領の支持基盤を分析します。「圧勝」と伝えられるトランプ支持はどう変化しているのか考えます。

 また、予備選の結果から見える本選に向けた「課題」についても見通すことを試みます。


2024年の共和党予備選

トランプvs.ヘイリー 異なる集票基盤

 スーパーチューズデーでは、14州のうち13州でトランプ氏が勝利し、結果的には圧勝しました。ヘイリー氏はバーモント州で勝利し、トランプ氏の全勝を阻みましたが、全体を通しても2人の集票基盤は異なっていました。

 次に示すのは、ノースカロライナ州で行われた出口調査の結果です。上から順に、学歴別、居住地域別、登録政党別になっています。

左が大卒、右が非大卒
左が都市、中が郊外、右が農村
左が民主党、中が共和党、右が無党派

 学歴別の結果では、大卒有権者でヘイリー氏が50%を獲得し、トランプ氏の47%を上回っています。居住地域別では、都市に住む有権者でヘイリー氏の42%に対し、トランプ氏は54%となっています。無党派層の有権者では、ヘイリー氏の49%とトランプ氏の48%が拮抗しています。

 トランプ氏の登場以後、大卒/非大卒で有権者の投票行動は大きく分かれています。大卒有権者は共和党から民主党に、非大卒有権者は民主党から共和党に移動する動きが観察されています。
 また、同様に都市部では民主党が勢力を強め、対照的に農村部では共和党が勢力を強めています。

 共和党予備選の出口調査からは、都市と大卒の有権者でトランプ氏が支持を落としていることが明らかになっています。共和党と民主党の中で潜在的に浮動票となる層での弱みであり、これを示すように、無党派層でもトランプ氏の支持は低下しています。

 これに対し、非大卒、農村部、共和党員の間ではトランプ氏の強さが際立っています。また、キリスト教福音派や保守派でも圧倒的な支持を見せています。

キリスト教の福音派などかどうか
左が保守派、右が穏健派/リベラル派

 この状況をまとめると、トランプ氏の支持基盤は共和党内で圧倒的であるものの、以前に比べると縮小傾向にあるとみられます。トランプ氏は大統領経験者としては異例の出馬で、「準現職」の立場です。

 本来、現職相当の候補者がいる場合には予備選が競争力を持つことは少なく、実際にトランプ氏は2020年の予備選では多くの州で9割以上の票を獲得して圧勝しています。

 浮動票や無党派層に相当する穏健な有権者層が離脱する一方、農村部や非大卒の有権者は熱狂的にトランプ氏を支持し続けており、これは「支持基盤の縮小」と表現するのが適切でしょう。
 また、都市や大卒の有権者など、無党派寄りの層から共和党内での支持基盤が融解しているとも捉えることができます。

態度未定層はどう動いたか

 出口調査の結果からは、終盤に態度を決定した有権者がトランプ氏とヘイリー氏のどちらに投票したかも明らかになっています。

左が1週間以内、右がそれ以前に投票先を決定
ノースカロライナ州の出口調査

 ノースカロライナ州の結果では、投票日まで1週間以内に投票先を決定した「態度未定層」では、ヘイリー氏が33%、トランプ氏が62%を獲得しています。これに対し、それ以前から態度を決定していた層では、トランプ氏が77%を獲得しています。

左が1週間以内、右がそれ以前に投票先を決定
ヴァージニア州の出口調査

 ヴァージニア州の結果では、投票日まで1週間以内に投票先を決定した「態度未定層」では、ヘイリー氏が70%、トランプ氏が27%を獲得しています。一方で、それ以前から態度を決定していた層では、トランプ氏が69%を獲得しています。

 スーパーチューズデーではトランプ氏の圧勝が確実視されていたことを踏まえると、終盤にヘイリー氏支持が勢いを増したことは、態度を決めていない浮動票にあたるような有権者の間では、トランプ氏の支持率がやはり低下していることを示します。

 このような有権者は熱意が低く、そもそも投票に来ない可能性があり、直ちに本選挙に向けてトランプ氏の打撃になるわけではありません。しかし、予備選でこのような動きが見られたことは、トランプ氏にとって懸念材料の1つであり、克服すべき課題が浮き彫りになったといえるでしょう。

3度目の本選へ トランプの戦略と課題

トランプは保守派なのか

 予備選の分析からは、トランプ氏が保守派から根強い人気を誇る一方、穏健派や無党派層での支持率に課題があることが示されました。
 しかし、トランプ氏の主張や立場は必ずしも保守派と一致していません。

 例えば、トランプ氏は中絶権を制限する共和党保守派の姿勢が「選挙に悪影響を与えている」と批判し、自らは中絶権制限の程度に関して曖昧な態度を示しています。

 また、社会保障についても「手を付けない=削減しない」方針を堅持しています。伝統的な共和党保守派は、小さな政府を掲げて社会保障などの削減を主張してきましたが、トランプ氏は繰り返し社会保障の維持を主張しています。
 インタビューで社会保障の削減に言及した際は、バイデン陣営からの批判に対して即座に反論し、2期目でも引き続き社会保障の維持に取り組む姿勢を示しました。

 中絶権については、キリスト教保守派の中からも一部でトランプ氏の主張に反発する声は出ていますが、トランプ氏が保守派の最高裁判事を3人任命したことや、トランプ氏の圧倒的人気を前に、反発は顕在化していません。

 トランプ氏が掲げる「保守的な」政策・立場と、共和党内の「伝統的な保守派」の間には、イデオロギー的には隔たりがあります。
 しかし、トランプ氏が保守派の中で圧倒的な人気を誇っていることは、もはや共和党内の保守は「MAGA=Make America Great Agiain か、MAGAでないか」という軸に変貌しつつあるともいえるでしょう。

副大統領候補の選定

 夏に予定される共和党全国大会では、トランプ氏の指名とともに副大統領候補が正式に決まります。ペンス前副大統領はトランプ氏不支持を表明し、トランプ氏は新しい副大統領候補を選ぶことになっています。

 最も重要なのは、トランプ氏から離れた無党派層への求心力を回復することですが、名前が上がる候補は「女性」や「黒人」の政治家が多く、MAGAの支持層に配慮しつつも、無党派層を獲得できる狙いが反映されています。

 また、同様に必要なのは「トランプ氏を制御できる能力」です。無党派層には2021年1月の議会襲撃事件など、トランプ氏の暴走に対する懸念が深く浸透しています。
 トランプ選対には「トランプ氏を制御し、第2次トランプ政権は予測可能だとアピールする」ことが求められており、副大統領候補は政権幹部としてトランプ氏を制御する能力と力量を示すことが必要です。

 女性の政治家では、トランプ氏に近いエリゼ・ステファニク下院議員やクリスティ・ノーム知事(サウスダコタ州)の名前が挙がります。
 ステファニク氏は、2016年の予備選ではトランプ氏に懐疑的な穏健派でしたが、その後トランプ氏に急接近しました。両者とも、2024年の予備選ではトランプ氏を早い段階から支持し、第2次トランプ政権への入閣が取り沙汰されています。

 黒人の政治家では、ティム・スコット上院議員が挙がっています。共和党予備選に出馬しトランプ氏と指名を争いましたが撤退し、今年1月にはトランプ氏支持を表明しました。
 保守派の政治家で、宗教保守からの信頼も厚いスコット氏ですが、分断の時代でも対立を煽る攻撃な政治姿勢を好まず「敵が少ない」ことでも知られています。
 バイデン大統領への支持が揺らぎつつある黒人層に向けたインパクトを考慮すると、スコット氏も有力な候補に挙がっています。

 ヘイリー氏は女性でインド系、無党派層からの支持に強い候補者で、副大統領候補としても有力だと目されていました。しかし、予備選後半で「反トランプ」色を強めたことから、現在では副大統領候補に選ばれる可能性は低いとみられています。

3割の「ヘイリー支持」はトランプに戻るか

 共和党予備選では、全体の約3割がヘイリー氏に投票しました。この3割を取り込めなければトランプ氏の勝利は不可能で、最優先の課題となります。

 ヘイリー支持の有権者が本選でどのように動くかについて、米選挙分析サイトのFiveThirtyEightは次のように分析しています。

 この記事は、ヘイリー氏に予備選で投票した有権者には、多くの民主党員や民主党寄りの無党派層が含まれていて、トランプ氏に投票する可能性が低いと分析しています。そのため、共和党内の情勢をみる上で、ヘイリー氏の得票をそのまま用いて考えることは難しいと考えるべきでしょう。

 また、過去の予備選では共和党員であれば、指名を獲得しなかった候補に投票した有権者も、大半は本選では共和党候補に「結集」したことが明らかになっています。 

 しかし、今回はトランプ氏が現職扱いの候補であり、ヘイリー氏への投票は現職への「造反」に相当する投票行動です。これを踏まえると、過去の予備選と同様に、指名を獲得したトランプ氏に支持が結集するかどうかは慎重に検討する必要がありそうです。

献金集めの不振、法的リスク

 トランプ氏は集めた献金の額で、バイデン氏に大きく後れを取っています。

2024年2月の献金額
バイデン氏が2130万ドルに対し、トランプ氏は1090万ドル
手元にある資金
バイデン氏が7100万ドルに対し、トランプ氏は3350万ドル

 トランプ氏は献金がバイデン氏に比べて不振であり、さらには予備選で活動費を消耗したため、手元資金でも差をつけられている状況です。

 その上、トランプ氏には巨額の訴訟費用がかさみます。トランプ氏はNY州やジョージア州、連邦レベルでも複数の訴訟を抱えていて、訴訟費用も高額になっているとみられています。
 資金の不足は最終盤での追い込みを含め、トランプ氏の選挙戦にとって大きな課題となり始めています。

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