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はじめての膣錠【更年期】萎縮性腟炎

更年期の症状である女性ホルモン減少で萎縮性腟炎の診断を受け、婦人科で処方されたのは【エストリール膣錠0.5mg】。

生まれて初めて目にする薬である。

調剤薬局で使用方法の説明を受けても、ピンとこないままに帰宅した。

夜も更け、入浴を済ませた私は薬剤師さんの指導どおり、寝る前に準備をする。

いつ使ってもよいけれど、膣に入れたあと溶けて吸収されるまでの間、抜け落ちてしまわないように、寝る前に使うのがベストとのこと。なるほど、と素直に実行する。

手も洗って爪もチェックして、シート状になっているアルミシートを1錠開封した。

大きめのサプリメントくらいの大きさで、飲むには大きく、入れるのなら小さめ?くらいのサイズ。

てのひらの乗せて観察しながら、私はちょっとした葛藤と対峙していた。
対峙、というよりも不安と向き合っていた、のほうがしっくりくるかもしれない。なにが不安って、私はこの46年間、自分の指なぞ膣に入れたことがなかったからだ。


46年間独り身。
出産経験もない。性体験もない。ついでに性欲がないので自慰行為もない。

「その気にならなかったから」という理由で単純に生きてきた結果がこうであった、というだけで、それについて深く考えたこともなかったりする。

いまどきの言葉を借りて言うと、アセクシュアル(他人に恋愛感情を抱かない・性的欲求を持たない)に当てはまるのかもれない。

性行為自体には嫌悪感はまったくなく、人の話や映像、創作であろうと何も思わない。なんなら下ネタも嫌悪感がない。興味がないからだ。

すべて他人事になってしまうし、生物に起こる事象、事実として頭が処理しているけれど、心としては共感もなく、自分自身と重ならない。

若い頃に女性としての性被害にあったことがある。結構ひどめの。
その事件に対しての認識は暴行、暴力に遭ったと認識している。
嫌だったし辛かったし、トラウマになっている。被害にあったのだから当然だと思う。けれど、何故か自分が女性だからこんな目に遭った、と思えないところが自分でもおかしいと思っていたりする。男でも被害に遭う人もいるし、人間が人間に害を及ぼす理由のひとつで、第三者が自分に対して正滝欲求をおぼえるはずがないとどこかで強く思っているらしい。
ここに認知の歪みがあるのは自覚しているが、直そうとは思ってない。

そんな私は自分の女性としての体に興味もなかった。

とはいえ女性であることに対して不満や違和感は持っていない、そういう【種類】に分類されているだけだという感じ。持って生まれたカタチはちゃんと受け入れているけれど、興味はないのかもしれない。

閑話休題。

ようするに入れる場所がイマイチよく分かっていないのだ。

月経があった頃にタンポンを使ったことはあれど手探りだったし経血の助けがあったから、意外にもすんなり使えていた。

頻度も寝る時の補助、もしくは長時間トイレに行けない事情がある時だけで、頻度も低かった。まあまあ慣れてはいるけど、アプリケーターつきのものしか使わなかったし、指で念入りに確かめる必要もなかったのである。
なんとなく出来てしまっていたから、問題にならなかった。

そんな私にとって、いくら小さいとはいえ錠剤を指で挿入するとなると難易度は相当高かった。
しかし症状は出ているし辛いし、れっきとした治療行為。迷っていても仕方ない。

チャレンジするほか選択肢がない。

とりあえずここだろうと当てをつけ、人差し指に錠剤を乗っけて、ぐいっと指先をあてがう。

乾ききっているため、張り付く。そして落ちそうになる。

慌てて手のひらで受け止め、おそるおそる他の指で探る。

このへんだと思うところを再度確かめ、少し指先を入れてみる。

痛い。

怯む。

やめたい。

いや、だが、入れるしかないのだ。

治療法があるのに試さないまま、辛さに苦しむのは嫌だ。

再度指先に乗せ、ぐいぐい押しつけると、今度はうまく入口に張り付いたっぽい。

「行けそうだ」と勢いのまま突っ込むと、ラッキー!第一関節くらいが錠剤とともに入った。

が。

「いった、いたたたた、いってぇ!」と、また叫んでしまった。

くっそ痛い。めっちゃくちゃ痛い。びっくりするぐらい痛い。

内診の痛みアゲインである。

指先だけでこんなに痛いのだ、そりゃもっと太い器具が入ればあれだけ痛かったのは当然だ。

その時、脳裏に浮かんだのはモナカの皮だった。

口の中がカラカラのときに、モナカを食べると舌が張り付き、水分が奪い取られて不快になるやつ。

アレとすごく似ている。

深夜の自室で初めての行為に涙目になる46才。

「これ以上、奥には入れられない、無理」と指を抜いた。

どうか、このまま入っていってほしい。

浅いところに辛うじて引っかかってる違和感が、ありありと下半身から伝わってくるが、無理なものは無理だった。勇気が出ない。

慌てて下着を上げ、足を閉じ、ごろりと布団に飛び込んだ。間抜けな姿だが、必死に下着の上から押さえながら、下半身をぎゅっと縮まらせる。

「頼む、入って!」と祈りながら。

初めてタンポンを使った高校生のときでも、こんな思いはしなかったというのに。アプリケーター入りの薬だったらよかったのに。


様子をみること数分、幸いにも小さな白い粒はそのまま奥へ行ってくれたようで、出てきたりはしなかった。

ほっとしたものの、一息入れる間もなく次の苦難がアラフィフを襲う。

痛みの第二波。

溶け出した錠剤からの刺激で、かーっ!と内部が熱くヒリヒリし始めたのだ。

限りなくズキズキに近い、沁みる感じの痛みだった。

乾燥して痒みが出た肌を思わず掻きむしり、そのあとメントールの入ったクリームを塗ったらこうなるやつ。

アレと同じ現象が内部で起きたら、そりゃあ痛い。

もしかしたら、昼間に少し傷ついていたのかもしれない。

とにかくもう、めちゃくちゃ沁みるのだ。

予想していなかった展開に、また涙目になった。

出来ることはただ早く溶けて吸収されることのみ。

つまりには耐えてやり過ごすしかないわけで、丸くなってしばらく身悶えていた私は、いつの間にか力尽きていた。

疲れていたので、意識を失うように眠ってしまえた。眠剤を飲まずに寝られたのは、久々だった。

決して良い入眠ではなかったけど、このときは幸いだった。


翌朝、痛みは残っていなかった。違和感もなかった。

トイレに行って確かめたら、念の為につけていたシートに結構多めの血がついていた。

しくしくした下腹の痛みはあったけど、以前子宮頸がんと子宮体がんの検査後は数日こんな風だった、という記憶があったので、不安はなかった。

不安はなかったけれど、身体ダメージは結構あったようで(以前と違って加齢の影響や、閉経していることもあると思う)翌日と翌々日は寝込んでしまった。

少し微熱も出た。回復が遅くなってるなぁとしみじみ感じた。


さて、処方された膣錠は2週間分。

あと13回で変化は出るのか、痛みはなくなっていくのか。


考えても仕方ないけど、しんどいなあ、年を取るって。


そんな鬱々とした気持ちで、萎縮性腟炎とのお付き合いが始まったのである。





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