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【イベントレポート】フィンランドとデンマーク生き方文化講座ー「人」がいて「社会」があるという視点から再考する「わたし」

2021年3月22日(月)にオンラインで行われたイベント、「フィンランドとデンマーク生き方文化講座~「エラマ」代表と「はぐくむ」代表の対話から~」には「今人生の分岐点にいる」、「これからの自分の生き方について考えてみたい」という思いを胸に、学生から社会人まで幅広い世代の方々約30人ほどが参加しました。

この講座では、フィンランドとデンマークそれぞれの国の考え方や文化に造詣が深い株式会社はぐくむ代表の小寺毅さん(たけさん)と、エラマプロジェクト代表の石原侑美さん(侑美さん)の対話を中心として進行していきました。

前半は侑美さんとたけさんのこれまでの人生の歩みのお話を通して、フィンランドとデンマークを比較し、後半は参加者同士の対話の時間が持たれました。

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小寺 毅 氏
株式会社はぐくむ 代表取締役
東京生まれ、ソ連、アメリカ育ち。
ファミコンもコンビニもなく過ごしたソ連時代。モノに溢れていたアメリカ社会の両極を体験して戻ってきた日本で、何の為に、何を目指して生きるのかを考え始める。
大学3年時に、ひとりひとりが可能性にフタをせず実現したい未来へむかって生きられる社会を目指して起業を決意。
2006年、株式会社はぐくむを創業。ただ漠然と働くのではなく、何のために働き、何のために生きるのかを問うコーチングや、利益の最大化の追求だけでなく関わる人たちの生きがいのある経営を目指す研修、コンサルティングを実施。
関心テーマは、業績も関わる人たちの幸福度も高い経営と、子供がイキイキと育つ教育。

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石原侑美
フィンランド生涯教育研究家、Elämäプロジェクト代表 株式会社Live Innovation代表取締役
過去に、(一社)自立学習推進協会の理事として従事。
教材制作、教育関連イベントのプロデュースや運営に携わり、家庭環境が教育業界に明るいことから、フィンランドの教育事情に詳しくなり、フィンランドとの接点も多くなる。
2017年にElämäプロジェクトを立ち上げる。
現在は、Elämäプロジェクトを「ライフロングラーニング(生涯学習)」として「フィンランドから学ぶ人生の道を描くワークショップ(述べ200名以上受講)」や、フィンランドツアー、飛騨高山ツアーの開催など「豊かで幸せな生き方」を様々な切り口から発信し、自ら探究している。
「フィンランド式生き方キャリアデザイン講座」を大学、高校の授業で臨時講師を務めたり、その他全国でフィンランドの生活、SDGs、教育について講演活動を行なっている。

草の根レベルから社会を変革する〜たけさんの自己紹介

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幼少期からソ連とアメリカで過ごし、世界から見た日本を意識することの多かったたけさん。お父さんが外交官だった影響もあり、当時は政治家になることを目指していました。しかし、いくつかの経験を通じて、職業としての”政治家”ではなく、起業家としての社会づくりの道を模索し始めたそうです。

たけさん
「大学生で就活期を迎え、これから自分はどの様に生きていきたいのか、何をしていきたいのか改めて考えた時、政治家ではなく草の根レベルからでもいいので、起業家として世の中に必要だと思うものを形にしていく生き方にチャレンジしたいと考え、株式会社はぐくむを設立しました。
はぐくむでは『社会をよりよく変えていく』ために、『教育』『経営』『まちづくり』という3つの分野で活動しています。コーチングスクールや、ライフデザインスクールといったスクールや、自主自立型の組織をはぐくむ経営コンサルティングなど、1人1人が社会の中で自分の生き方を体現できるような働きかけをしています。デンマークとは、この様なはぐくむの活動がきっかけで出会いました」

人生は3D。どの方向にも行ける〜侑美さんの自己紹介

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国語の授業などで解答が出されても、その答えに納得がいかないと先生に抗議しに行くほど物事に対して強い探求心を持っていたという侑美さん。しかし、そんな侑美さんにとって学校は「なぜ」という気持ちを受け止め、満足いくまで問い続けられる場ではありませんでした。
侑美さんは探求したいのに「大人から嫌がられる」生徒だったそう。

侑美さん
「『学ぶより丸暗記』というような環境の中で、当時のわたしは次第に学ぶことをやめてしまいました。でも、根っこの部分は変わらず、一時はディープなアニオタだったことも(笑)。大学院卒業後には株式会社を立ち上げ、寝る時間も削って仕事に没頭する『起業家』としての生活が始まりました。
自分を追い込んだ生活は7、8年続き、それは身体だけではなく心にも影響していきました。そのため、当時のわたしの言葉にはトゲがありました。わたしは言葉で相手を傷つけ、同時に自分も傷ついていました。わたしがフィンランドと出会ったのはその頃です」

「僕の幸せはこの椅子で本を読むことなんだよ。」
これは侑美さんがフィンランドに視察をした際にフィンランド人の方から聞いた言葉です。
「わたし」の幸せを素直に表現する言葉、そして、その言葉を実際に体現するフィンランドの人々の生活や文化は、侑美さんがそれまでの人生で経験した様々な圧迫感によって自分の中に押し込められた「わたし」を開放するような出来事でした。

侑美さん
「自分の幸せをさらっと言葉にするフィンランドの人々との出会いは、わたしにとって『生き方のシフト』でした。この体験を通して、自分は今まで社会や自分で決められた階段を上っていく、『2D』な生き方を歩んでいた事に気が付くと同時に、人生はどんな方向でも行ける3Dであるという事を知りました」

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デンマークとフィンランドそれぞれの特徴

つづいて、侑美さんから今回の講座で取り上げられるデンマークとフィンランドの基本情報を紹介していただきました。

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世界幸福度ランキングにおいて、北欧の多くの国が名を連ねる中でも特に上位に位置することの多いデンマークフィンランド。産業の分野では、デンマークは風力発電をはじめとしたエネルギー事業において世界的に注目されており、フィンランドにおいてはIT産業に力を入れています。

両国とも観光業が盛んな印象が強くありましたが、こうして見るとそれぞれの国の強みや特徴は異なり、それを活かしてその国ならではの産業が発展しているということが分かりますね。

また、その社会に暮らす人々の考え方や生き方が大きく反映されるのが「政治」です。デンマーク、フィンランドの風通しの良い政治とそれに対する人々の姿勢は、日本のそれと大きく異なる点であるかもしれません。

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たけさん
「投票率が非常に高いデンマークでは、小学校から社会の授業で「模擬投票」があります。これは実際の選挙が行われる時期に合わせて行われ、投票権を持つ前から子どもたちは政治について関心を持っています。また、実際の政治も社会に対してオープンで、議員たちの連絡先はHP上などでオープンにされていて(!)、そこから議論が生まれることもあります。
実はデンマークが再生可能エネルギー大国になったのも、このような人々の暮らしと政治の距離が近いことが大きく関わっています。僕自身もデンマークという国を知って、政治と国民が手を携えるということは、社会をよりよい方向に向かわせる力があると知り、勇気づけられました」
侑美さん
「フィンランドでも小学校から模擬投票があります。フィンランドの場合は実際の選挙を学校の中で投票し、大人の投票結果と比較してその違いを見るなど、生徒たちの『対話』も重視されています」

このデンマークとフィンランドの政治に関する学びはまさに「自分たちの暮らしに直結するもの」として政治があるという人々の認識が表れています。それでは、なぜここまで人々の政治に対するフラットな姿勢が見られるのでしょうか。その根底には日本とはひと味違う「あたりまえ」な感覚がありました。

たけさん
「デンマークの人々の考え方から言えるのは、『自分が何者で、なにができるのか』ということが生き方の基本として大事にされているということです。だから教育においても一人一人のペースは当然違い、それぞれの意思が尊重されているといえます」
侑美さん
「フィンランドの『上も下も、斜めでも、どの方向にだって選択肢はある』というような生き方にも共通することですね。ただし、これには選択したことの責任は自分が持つという厳しさもあります。でも大人が自然に余白のある人生を送っている社会であれば、子どもも真似て学び、早い時期から『生き方』を考えられるんですね」

一人一人の生活と距離の近いデンマークとフィンランドの政治のあり方は、「わたし」であることを大切にするという生き方の本質を捉えた教育があるからこそ成り立っているようです。


「市民の声」を聞く政治


たけさんと侑美さんの対話の後、参加者も含めた質問タイムがあり、デンマークとフィンランドの「政治」を中心にたくさんの質問がされました。

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質問
デンマークでは副業で国会議員になる人もいるほど「政治家」のハードルが低いということを聞いたことがありますが実際はどうなのでしょうか。また、わたし自身、日本の政治の草の根活動をしていますが、「これが本当に上に届いているのかな」という不安があります。

たけさん
「その通りです。特にデンマークの市議会議員は金銭的な報酬はなく、無給です。そして政治家になるときにも多額の資金は必要なく、政治に参加するハードルは低いと言えます。
でもその代わりに署名活動をしたり、人々の賛同が重要ですから、それこそ『自分たちの街や社会を良くしたい』という本来の政治家の在り方が生きているのだと思います」

質問
デンマークでは、国会議事堂に政治家の連絡先がオープンに掲示されているということですが、誹謗中傷などが起こるのではないですか?

たけさん
「日本だとそういう危惧がありますよね。でも、『誹謗中傷ばかり』は『当事者である』という意識が薄いことが一つの理由なのだと思います。デンマークでは、『Common』という、みんなで一緒に考えようというような意識がベースにあります。だから、ひとりひとりが『自分は何ができるのか』という視点を持っていて、個人に対する批判に終始する批評家スタンスにはあまりつながらないのだと思います」

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侑美さん
「デンマークのオープンな政治はフィンランドの『デザイン力』という視点と共通点があります。フィンランドのある図書館では、利用者が気軽にその図書館の感想をフィードバックできるアンケートマシンが設置してあります。そして、その意見が反映されて図書館は改善していくんです。こうして市民の意見を取り入れるということはフィンランドの『ブランド力』とも言えますが、人々と政治が近いということが分かりますよね」

「わたし」だからできること

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「では日本ではどのように実践できるのでしょうか?」
これは登壇者のお二人によく寄せられる疑問です。このような「日本ではなかなか難しいのではないか」という感想を抱いた方に向けて、最後にたけさんと侑美さんからこのようなコメントがありました。

たけさん
「デンマークの事例を日本でどう活かすのかという問いを持ったときに大切なのは『人との連携』です。『デンマークではできるけど、日本では…』と日本を卑下するのではなく、『日本の強み』を人と人が連携しながら探ることができたら良いのではないかと思います」
侑美さん
「まさに『横のつながり』ですね。『わたし』ができることを一つ一つ重ねていき、ちょっとした個性同士がつながることで、結果として社会の変革が生まれていくのだと思います」

一見すると「社会」や「政治」という大きなテーマのように見える内容でしたが、デンマークとフィンランドの暮らしを軸に深掘りしていくと、そこには「わたし」という本質を見出す教育があり、それを一人一人が日々の歩みの中で体現していくという人々の生き方があるということが分かりました。

「こうでなくてはいけない」のではなく、「自分にはこれができる」という視点が大切。一人一人が自分の可能性を見つけ出してつなげていくことが、最終的にはその国の「社会」をよりよい方向に変え、どんな「わたし」も心地よく生きられる環境に変化していくのかもしれません。

どんなにばらつきがある者同士でも、お互いに足りない部分を補っていけばきっと可能性は広がっていく。そんな視点を与えてくれるイベントでした。

Text by さつき

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