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月響(げっきょう)6


私はかなり早めに家を出た。

いつもはギリギリの時間に家を飛び出しチャリをガンガンこいでなんとか約束の時間五分過ぎに到着~ってカンジだったけど、今日は歩いて小平のバーミヤンを目指す。

半年前から一緒に受験勉強をしてきた小平のバーミヤン。今日は二人だけで打ち上げの予定だった。

目的の地までは自転車で十分、徒歩だと二五分かかる。

今日はメチャクチャ寒い。

ゆるく束ねた後ろ髪の乾ききっていないのがピチピチはね返って首筋を冷やすのでなお寒い。

三月に入って暖かい日が続いていたのでコリャー相当身体にこたえるナァとか、レッグウォーマー流行ったのナイスだナァとかいろんなコトをつぶやきながら足早に歩く。

私は国分寺から北上、マー坊は東村山から南下して来る。

ちょうど半分の地点に小平のバーミヤンは在った。



歩いているとやっぱり涙が出てくる。

涙はスゴクあったかい。

涙って本当はカラダ全体を駆けめぐってからやっとあふれ出てきてるってコト、今日初めて分かった気がする。

小平市に入ると涙の量はどんどん増えてカラダも溶け出しそうなほど熱くなってきた。

人通りが少ないから思いっ切り泣けるせいかもしれない。



バーミヤンの前にはすでにマー坊が待っていた。

携帯の液晶を見るとまだ三時になっていない。

お互いいつもよりちょっとだけ回転速いみたいだ。

「マー坊!」

とぼんやり濁った空を見上げているマー坊に声を掛ける。

私の声は泣き声だった。

振り向いたマー坊のその顔もやっぱり泣いていた……跡が残っていた。

「ミツミ早えの!」

と云ってマー坊は私の肩を抱く。

優しくされるのに馴れていなかったから少し驚いたけど、私がウグウグッとかってしゃくり上げんばかりに大泣きしてたから仕方なかったのかもしれない。

いつものバーミヤンなのに店員は全員底意地悪く見えるし、他の客も私のコト怪訝そうに振り返ったりするもんだから、ドリンクバーで長居をキメ込んだつもりが十分も経たずに店を出てしまう。

歩いてすぐの所に在る玉川上水の遊歩道にダラダラ流れる。

私の涙も相変わらず顔中をダラダラ流れている。

玉川兄弟によって作られた不自然な自然だけれど、玉川上水のまわりを囲む木々達がバーミヤンの店員よりずっと上手に私達を受け入れてくれた。

ずっと黙っていたマー坊が突然「脚が、脚がガクガクするぅ」とかスットンキョウな声を上げながら腰を落として両脚をくねらすからビックリしていると、「あーあそこのベンチに行こー早くー」とか云いながら相変わらずくねくねと十メートル先のベンチまで難ギそうに歩いて行くので私は走ってマー坊を追い越すとベンチの前で振り返り、やって来るヤツをガシッと抱きとめてやった。

マー坊は「ミツミーありがとー」と泣き笑いのような表情を浮かべながらベンチに座った。

私は隣に座ろうかと思うけど思い切ってマー坊の膝上に飛び込んで膝枕してもらう。

サッカー部だったマー坊のパツンパツンの太モモが私をチョットだけ元気にしてくれる……とか云ってる場合じゃなくて、さっき脚にキテたのを思い出した私はとび起きるとマー坊を膝枕し直してやってなんとか一対として落ち着けた。

マー坊は顔を上向いておっきな手で顔面の九二%を隠してヒクヒクしてたけど涙は全くあふれてこない。

モノ凄いチカラで顔面を押さえつけているせいかもしれない。

私は腕を後ろにまわすと背もたれのないベンチのヘリをギュウウと掴み、マー坊の頭を膝に乗せたままボーボーと鼻水を加え迫力を増しながら涙を流し続けてる。

三月アタマ。

木々はゼンゼン芽吹いてない。

自分も好きな人も半分壊れてただ流れる水音に身をまかすのみ。


ザァッ。


次葉へ


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