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著作権法に違反しないDJ動画が可能なのか実際にトライしてみた


★このnoteは次の動画を再生しながら読んでください★



はじめに

DJ配信の著作権法上の問題について書いたこちらのエントリ、多くの方に読んでいただきました(DJ配信に関する法的な問題点を確認したい方は、この記事を先に読んでみてください。)。

セルフアンサーとでも言いましょうか、未来を語りましょうよということで、著作権法に違反しないオンラインDJが可能なのか、実際にトライしてみます。
誰もが自由に適法にオンラインでDJができ、そこから発生した収益が権利者にきちんと分配されるような、そういう未来になれば楽しいのではないかなと。

(今回のトライはYouTubeのContent IDを用いたものになります。Content IDのライブ配信の取り扱いには別途問題が生じますので、今回はYouTubeへの動画のアップロード(アーカイブ)という方法とします。)

※間違いやご意見があれば、私のTwitterにDMいただければと思います。特にContent IDについては疑問が残っていることが色々とありますので、必要に応じて随時修正していきます。


DJ配信を適法に行うために満たす必要がある要件とは

さて、前述の記事では、法律的なハードルをクリアしたDJの配信を適法に行うためには、
① 使用する全ての楽曲の原盤権者から、原盤権の配信での使用について承諾を得る。
② 使用する楽曲の中に著作権管理団体の非管理楽曲がある場合には、各楽曲の著作権者から、配信での使用について承諾を得る。
という要件を満たす必要があると説明しました。

Twitterなどでは「〇〇というプラットフォーム上ではDJ配信が適法にできるらしい」なんていう話が定期的に流れてきます。
このようなプラットフォームの中には、①と②の要件を正面から満たすこと(すなわち多くの楽曲の権利を有する主要レコード会社から包括的な承諾を得ること。)にトライしているものがあるようです。
しかし、特定の権利者と何らかのライセンス契約を締結したとしても、その特定の権利者が管理する限られた楽曲、ホワイトリスト楽曲とでも呼びましょうか、そこから楽曲を選んでDJをしなければならないという制約からは逃れられません。そして、多くの場合、使用したい楽曲がホワイトリスト楽曲に含まれていないと、そういう展開になってしまうと思います。

前述の記事では、この①と②の要件を満たすために、

  • 原盤権を集中管理する団体(著作権で言うところのJASRACのような団体)を作ること

  • 著作権管理団体の非管理楽曲の使用が何らかの団体への使用料の支払いを条件に(非管理楽曲の著作権者はこの団体に使用料支払いを請求できる)自由に行えるような法律(著作権法上の権利制限規定)を作ること

  • YouTubeのContent IDのような技術を利用すること

などの方法が考えられるのではないかと提案したところでした。
そして、私としては、最後にあげた方法が現実的なのではないかと考えており、今回はこの方法でトライをしてみます。

YouTubeのContent IDとは

YouTubeのContent IDとは、映像や楽曲の権利者が登録しておくと、アップロードされたYouTubeの動画にこれらが使用されていないかが判別され、使用されていた場合には権利者が当該動画をブロックするか(当該動画の公開を停止する)、トラックするか(当該動画の再生状況に関する情報を閲覧する)、マネタイズするか(当該動画から発生する収益を獲得する(分配する))を選択することが出来るといった仕組みです。
つまり、YouTubeが権利者に対し、楽曲を無断で使用された場合にとりうる手段を与えているものと言えるでしょう。
この仕組みを逆手にとって、利用者が事後的に権利者の承諾を得る手段として使えないだろうかというのが今回のトライになります。

すなわち、DJプレイ動画をアップロードし、そこで使用されている全楽曲をContent IDが認識し、そして全楽曲の権利者(著作権者&原盤権者)がブロックを選ばなかった場合、事後的に権利者の承諾があったとして当該DJプレイのアップロードが適法であると考えられるのではないかというアイデアです。

※「ブロックを選択せずにマネタイズすることを選択したこと」を「楽曲のアップロードの承諾」と法的評価できるのか、ここには議論の余地が多いにあろうかと思います。
私見としては、Content IDが楽曲の利用を検知し、これを権利者が把握し、積極的にマネタイズを選択している場合には、(少なくとも黙示の)承諾があると評価できるのではないかと考えています。
マネタイズは当該動画のアップロードを前提にするものです。とすると、マネタイズを選択した権利者がマネタイズを許すもののアップロードは許さないという意思を有するという状況が合理的に考え難いのではないかと思われるからです。
他方で、マネタイズの選択がアップロードを無条件に許容するものであるとも思えません。実際に、権利者はマネタイズの選択を後からブロックの選択に自由に変更できるようです。そのため、完全なる承諾ではなく権利者がいつでも撤回可能な承諾というような条件付きのものにとどまるのではないかと思います。
つまり、少なくとも、権利者がマネタイズを選択していた期間の利用については承諾があり適法であるいう解釈が妥当ではないでしょうか。

もう少し詳しく考えてみましょう。

ライセンス楽曲と判断できる条件とは

クラブでDJプレイをしてこれを録画し、動画をYouTubeに公開する場合、法的に問題と考えられる点と、それぞれの問題点に関する私の見解は次のとおりです。

DJ配信に際して生じる法的問題点及び権利処理方法

この私の見解を前提にすれば、

α:著作権について、著作権管理団体の管理楽曲、または、Content IDで処理できた楽曲であること
β:原盤権について、Content IDで処理できた楽曲であること

このαとβの二つの条件をクリアすれば、適法と考えられることになります。

では、この二つの条件をクリアしているかどうかをどうやって判断するか。
ここでContent IDの実際の表示を見てみましょう。

Ambivalent -「Train To Baltimore」 のContent IDの表示

この表示がどのような意味なのか、公式の詳しい説明は見つかりませんでした。
ただ、このような表示がされている場合、「;」で区切られた前の「Minus」が原盤権者(「Ingrooves」がContent IDをYouTubeに納入しているディストリビューター)であり、後の「ARESA、その他3件の楽曲著作権管理団体」が著作権者であると考えてよさそうです(公式の説明はないのですが、複数の権利者に確認したところ間違いなさそうです。)。
実際、MinusはAmbivalentがリリースしているドイツのレーベルですし、ARESAはドイツの著作権管理会社です。

このような表示がされている楽曲については、αとβをともにクリアしていると考えることにします。
ただ、問題は「;」で区切られた表示がされていない場合なのですよね。

例えば、こういう表示がされている場合、表示された権利者が原盤権者なのか著作権者なのか分かりません(原盤権者っぽいですが・・・)

Niko Maxen -「Whitebeam(original Mix)」のContent IDの表示

仮に、表示された権利者が原盤権者であり、また、楽曲がJASRAC管理楽曲であるとすれば、αとβをともにクリアしたと考えられます(JASRACはContent IDを使用していないので、ここには表示されない。)。
しかし、表示された権利者が著作権者であるとすれば、βをクリアしたことになりません。

そのため、今回は保守的に考えて、「;」で区切られて2者以上の権利者が表示されている場合のみαとβの条件をともにクリアしたとし、これらの楽曲(「ライセンス楽曲」と呼ぶことにします。)をDJプレイに使用することとします。


Content IDを用いた実験結果

このような前提の下で、実際にDJプレイを録音し、YouTubeにアップロードする実験を繰り返してみました。
十数曲を使用した動画を15本アップロードしたので、合計200曲ほどを実験したことになります。
これらの実験動画は、動画中に使用した楽曲の利用の多くが結果的に適法ではないということになるので、実験結果の判明後に削除しました。

実験の結果分かったことはこんな感じでした。

  • 楽曲の認識率は30〜40%くらい。ライセンス楽曲と判断できたのは10〜20%程度。(認識率は楽曲のジャンルなどによって大きく変わると思います。)

  • 有名曲や売れ線の楽曲はほぼ認識される(投稿者が意図しているわけではないと思いますが、売れ線の楽曲だけを使用したDJ動画が結果としてライセンス楽曲のみで構成されている場合が結構あります。)

  • 動画の投稿後、12〜24時間程度後に、Content IDの認識結果が表示される。

  • ブロックを選んだ権利者は0だった。

  • レコードで購入した楽曲は認識されないものが多かった(特にいわゆるVinyl Onlyの楽曲はほぼ認識されなかった。)。

  • スピーカーからの外音を録音したものと、ミキサーからラインで録音したものとでは認識精度が異なった(外音からの録音音源だと認識率は著しく低下した)。

  • 誤認識は1曲しかなかった(その1曲も、システムが違う曲を認識したというものではなく、おそらく冒認登録に起因するものと思われた。)。

  • 動画の概要欄には、使用楽曲の権利者情報が10曲までしか表示されない仕様になっている(管理者画面には10曲を超える分も表示される。)。


この実験を踏まえて、ライセンス楽曲が30曲程度確認できました。
そして、このライセンス楽曲のみでプレイしたのが、今皆さんがお聞きになっている冒頭のYouTube動画における私のDJプレイということになります。

動画の概要欄を見てみてください。
使用した全10楽曲について、権利者名(「;」で区切られた2者以上の権利者が表示されている)が表示されているはずです。
(本記事の公開時には全権利者がマネタイズを選択しています。)

つまり、私の見解では、この動画は著作権法に違反していないということになります。


おわりに

ここまで読んできた方の中には、結局ホワイトリスト楽曲の中から選んでDJをするという制約から逃れられていないじゃないかと、そう感じる方もいるでしょう。
ただ、Content IDは、TuneCoreなどの各種登録代行サービスを利用すれば大手レコード会社と関わっていないアーティスト個人でも自分で登録できるものであり、実際に大手レコード会社から発売されているわけではない楽曲が多数登録されています。
今後、楽曲の権利者がContent IDのような仕組みに登録するという流れがどんどん強まっていけば、プラットフォームが大手レコード会社と包括契約をしていく場合に拾えない大多数の楽曲を拾っていけることになり、その結果、ホワイトリスト楽曲が無数に増えていくということになります。
そうなると、いつの日か、実質的に制約のないDJができるようになる可能性があるのではないでしょうか。

みなさまから本記事へのご意見などいただければ嬉しいです。


※現地に来てくれた特定少数フレンドの皆さん、収録会場に使用させていただいたINVADER ONE FLAT Cafe、そして本記事にコメントをくださったT弁護士とY弁護士に感謝します。
誰にも伝わらないと思うので自分で言いますが、本動画はRTS.FMインスパイアになっています。

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