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世界は、広いので「英語のそこのところ」第90回

【前書き】

 今回、投稿するエッセイは7年前の2015年9月3日に水戸市の「文化問屋みかど商会」のファクシミリ配信誌に掲載されたものです。時節にそぐわない内容はご容赦ください。
 自分の当り前は、他人の当り前というのは日本的な甘えなんですねぇ、気を付けたいものです。(著者)

拙著「英語の国の兵衛門」のkindle版を出版しました。

2008年に株式会社メディア・ポートより上梓され、その後同社の解散により入手不可能になり、みなさんにはご迷惑をおかけしておりましたが(一時は、古本が2万3万ぐらいで取引されていたようで。いやはや、私には一銭も入りませんが_| ̄|○)、kindle という形で復活させることが出来ました。
これを機にぜひお手に取ってみてください。

お待たせしました! 最終巻発刊!  
「英語の国の兵衛門」「英語のそこのところ」の作者 徳田孝一郎の作った英語テキスト「English Sentence Maker 実践英語・英会話力養成テキスト10 基準を設定して比べる=比較表現」販売中!

 前巻の「形容詞とその仲間たち2 関係代名詞・関係副詞」で文で名詞を飾る関係代名詞・関係副詞のスキルを身に着けていただきましたが、今回は、「何かと同じぐらい」や、「何かより上」、「一番」ということを伝えたいときに使う比較の表現です。
「その塔は30階建てのビルと同じ高さです」
「フットボールを観ることはフットボールをするのと同じように面白い」
と言った日本語を英語にする手順をすっきり身に着けることができます。

【本文】

「ああ、もうやんなっちゃう」
 オフィスに帰ってくるなり、Catherineはそういうと自分の席に着いた。PCを立ち上げてキーボードを叩き始める。グループウェアの報告書に出先での業務内容を打ち込んでいるのだが、いつになくキータッチが激しい。バチバチバチッと雨が屋根を叩くようだ。しかも大粒の雨、いつ屋根が壊れるのか、いや、キーボードが壊れるのかと心配になる。
 徳田は、顧客からの返信メールを打つのを中断すると、隣のRichを見る。
 Richは口をへの字に曲げて肩をすくめる。
 徳田は片方の口角だけを上げてそれに応えた。
『今日はどっちに来るのやら』
 という意味だった。

 徳田の勤めている英会話スクールで、徳田は法人営業のマネージャーをしている。
 企業からの要望を受けて、それに合ったレッスンを提供できる講師を見繕って紹介する。最初の段階で、要望に合わせた講師を紹介しているので、レッスン内容などに関してクレームが出ることはまれだ。顧客の満足度は高い。
 むしろ、問題が生じるのはNative English Speakerの講師のほうだった。企業研修となるといろんなカルチャーショックを受けることが多いのだ。日常生活では感じなかったビジネス文化の違いに遭遇してびっくりしたり、腹を立てたりする。
 そういう時がマネージャーの徳田と講師管理のRichの出番だった。ふたりともひょいっと話しかけやすい雰囲気を持っていて、業務をしていると講師たちがPCのディスプレイの向こうに座っていたりする。
 切りのいいところで、徳田が目線を上げると、
「ねぇ、徳さん、ちょっといい?」
 などと言って、話が始まるのだ。
 声をかけられるのは、Richの時もあり、徳田の時もある。徳田はRichがどんな相談を受けているのかは知らないが、徳田の場合は圧倒的にカルチャーギャップの相談が多かった。
 なんで、食事をする際に割り勘なのか、とか、この暑いのにスーツを着なければならないのはなぜなのか、日本人は『質問はありますか?』と訊いたときにはなにも言わないのに、なぜあとで質問に来るのか? というたぐいの相談だ。

 スコールのようなタイピングの音が止むと、徳田の後ろの席にCatherineが座る。
 ちらっと徳田はCatherineの使っていたキーボードに視線をやった。壊れてはいない。歪んでいるような気もするが。
「ねぇ、どうして日本人は、一言足りないの。あたしは、モノや動物じゃないのよ」
 徳田が聞く態勢に入ったのを察したCatherineはいきなり話し出した。
「なに? どうしたの?」
 徳田は椅子をまわしてCatherineのほうを向く。
「四菱物産のレッスンに行ったのよ」
「ご苦労様」
「あ、ありがとう」
 するっと出てくるねぎらいの言葉に、Catherineのトーンがやや下がる。
「で、そこでなんかあった?」
「レッスンは上手くいったわ。みんな熱心だし、アサインメントもやってくれるしね」
「ああ、結果も出てるから、この前、契約更新の話があったよ」
「あ、そうなの。よかった」
「で?」
「レッスンそのものは問題ないんだけど、問題はエレベーターなの」
「エレベーター?」
 意外な言葉に、徳田は首を傾げる。
「エレベーターというより、エレベーターに乗って来た人ね、問題は。ああ、今でも腹が立つ」
「はぁ?」

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