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ぼんやりの効用「英語のそこのところ」第137回


【前書き】

 今回、投稿するエッセイは7年前の2017年6月22日に水戸市の「文化問屋みかど商会」のファクシミリ配信誌に掲載されたものです。時節にそぐわない内容はご容赦ください。
 UKやUSでご法度になっていて、日本では全然かまわないものの一つに屋外で呑むことがあります(最近の支部やあたりだダメっぽくなってきましたが)、それがなぜなのかをNative English Speakerと考えたお話です(著者)

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英語嫌いだった私の英語・英会話マスターへの道 
VERSANT スコアアップ法を大公開

 英語なんて好きでもないし、得意でもない。ていうか、むしろ嫌い。でも、仕事で英語を教えなきゃならなくなった! さあ、こまったぞ、どうする? 
これは作者の15年にわたる英語との格闘をギュッと濃縮した英語スキルアップ物語。
英語・英会話習得、VERSANTスコアアップの詳しいやり方、学習期間がわかって、ふつふつとやる気が湧いてきます。

拙著「英語の国の兵衛門」のkindle版を出版しました。

 2008年に株式会社メディア・ポートより上梓され、その後同社の解散により入手不可能になり、みなさんにはご迷惑をおかけしておりましたが(一時は、古本が2万3万ぐらいで取引されていたようで。いやはや、私には一銭も入りませんが_| ̄|○)、kindle という形で復活させることが出来ました。
これを機にぜひお手に取ってみてください。

映画や小説の台詞を英語にして英語力を鍛える「ESM Practice 実践英語・英会話力トレーニングドリル17」発売中!

 English Sentence Maker 実践英語・英会話力養成テキスト(全10巻)で、英文法を網羅しましたので、「ESM Practice 実践英語・英会話力トレーニングドリル7」以降では、様々なコンテンツの名言、名台詞を英語するより実践的なトレーニングをやっています。
 この「ドリル17」ではロバート・A・ハインラインの「夏への扉」 を題材に英文を作っていきます。

わがピートは、人間用のドアをあけろとせがむ場合は、遠慮会釈なくぼくの手を煩わせたが、それ以外は、ふつうこの自分用のドアを用いた。
ただし、地上に雪の積もっているあいだは、絶対に自分のドアを使おうとはしなかった。
彼は、その人間用のドアの、少なくともどれかひとつが、夏に通じているという固い 信念を持っていたのである。
夏への扉を探すのを、決して諦めようとはしなかった。
そして一九七〇年十二月三日、かくいうぼくも夏への扉を探していた。

おい兄弟。そのホタテガイをおれに押しつけないと約束すれば、おまえにホタテガイ 分のチップをやろう。
おれのほしいのは注文したものだけだ。それと受け皿とだ。

英語でどう言うのでしょうか? 
このテキストを使えば、きっちり身に付きます。お試しください。

【本文】

 また、今年もじめじめした季節がやってきましたね。暑いだけならまだしも、こう湿度が高くなると不快指数も上がってしまって思考力も低下しちゃう。すぐにエアコンのお世話になることになります。でも、今はいいですよね。どこのアパートの部屋を借りるにしたってエアコンは標準装備でついている。私が初めて借りた吉祥寺の部屋は17㎡ほどのワンルームだったんですが、エアコンはありませんでした。貧乏だったんで、もちろん自分で買うお金はない。夏は地獄でしてね。窓を全開にしてたってそんなに涼しくならない。おお、これが東京の熱帯夜かなんて言えているうちはいいんです。でもね、ベッドのマットレスが汗で濡れてくるぐらいになると、そんな余裕もなくなって、むっくり起き上がる。眠れないから、仕方がなく近くのデニーズに涼みに行くんです。一応本は持って行くんだけど、デニーズのあまりの快適さにすぐに意識を失って熟睡です。いやぁ、あの頃はコーヒー一杯でずいぶんお世話になりました。

 そんな可愛い頃もあったんですが、通っていた大学が悪いのか、私の性格がおっさんなのか、すぐに暑い中でビールを呑むというのが気持いいということに気づいちゃいましてね。夏は、これだよねぇっとTシャツに短パンをはいて、ビールを夕食代わりにして過ごしたものです。
 この暑い中呑むってのが、私はどうも癖になっていて、今でも夏の暑いときにはできればオープンテラスで呑みたい。なので、イングリッシュ・パブなんかに行っても、冷房の効いている屋内じゃなく、わざわざ外の道路に作られた太陽の照り返しで熱っつい立ち呑み席で、キューーーっと冷えたエールをやってたりする。
 まぁ、付き合ってくれる人はめったにいないですが(笑)
 大学からの友達がこの間近くに来たんで、そうやって呑んだんですが、お前、ふざけるなよ! って半分本気で怒ってさっさと屋内に行ってしまいました。そいつだって、おれの吉祥寺の部屋でよく暑い中一緒に呑んだんですが、大人の呑みかたがあるってことでしょうかね。なんだか私は置き去りになっていて、成長が止まっているのかなと寂しい気分の出来事でした(笑)

 そんなこんなで、暑い中の野外呑みというのは、私にとって好物だったりするんですが、こういう呑みかたを意外に喜んでくれるのが、Native English Speakerの友人たちだったりします。

「え? 徳さん、ここで呑んでいいの?」
 坊主頭のDickがなみなみと注がれた1パイントビールグラスを手にきょろきょろとあたりを見回した。
「いいに決まってるじゃん、一応テーブルらしきものも置いてあるし」
「え、いいの? 本当に?」

 Dickが改めて周囲を見る。遊歩道の端にビール樽が3つほど置かれていて、テーブルになっている。向こうからは制服姿の高校生たちが歩いてきていて、遊歩道の一部であることは間違いないが、店の一部と言えなくはない。

 徳田は手前のテーブルに陣取ると戸惑うDickのグラスに自分のグラスをぶつけた。
「Chrees!」
 徳田がビールを呑むと、釣り込まれるようにDickもビールに口をつけた。
 Dickは高校生たちの存在が気になるのか、ちらちらとそちらを見たが、何事もないように彼らは通り過ぎていく。
「なに? 高校生がめずらしい?」
「いや、こんなところでビールを呑んでるとヒンシュクなんじゃないかと思ってさ」
「ヒンシュク? なんでさ?」
「だって、野外でお酒を呑むのってアメリカでは法律で禁じられてるんだよ」
「ええ!」
 徳田は目をぱちくりさせて驚いた。
「なんで?」
「まぁ、いろんな理由があるんだろうけど、ひとつは外で呑むことを許しちゃうとトラブルが絶えないからだと思うね」
「はあ?」
「たとえば、こんなふうにお店の前で呑んでるとそうでもないかもしれないけど、公園とか路上とかで呑んでると、呑んでる者同士でケンカになるに違いない」
「縄張り争い的なこと?」
「いや、そういうギャング的な人たちじゃなくて、もっと普通の人たちがケンカを始めるね」
「はぁ?」
 Dickの返事はいまいち要領を得ない。なんで普通の人が外で呑むとケンカを始めるんだ? 仲良く呑めばいいのにと徳田は思ってしまう。
「開放的になっちゃうんだろうね。お酒呑んで、日常の押さえつけられている不満をぶちまけちゃうんだよ。しかも、家まで帰って呑むのが待てなかったり、店に入って呑むのが待てなかったりという人たちだろうから、相当の不満を抱えてるのさ」
「ああ、なるほどね」
 Dickが言いたいことは、かなり不満を抱えている人たちしか、外で呑みだすようなことはないので、自然にトラブルになるということらしい。
「日本では、そういうことはないなぁ」
 徳田はまたビールをぐびぐびと呑む。
「そうなんだよね。日本って、外で呑んでる人が大きな不満を抱えてる人ってわけじゃないよなぁ」
 安心したのかDickも1パイントビールをぐびぐびやり始めた。
「ああ、いいねぇ、暑い中で呑むとすっきりするな」
「だろ?」
「自由の味だ」
「ちょっと日常から逸脱して、ほっとするしね」
「そうそう。それに大きな不満を抱えてケンカを吹っ掛けるような奴もいないし。日本は本当にいい国だなぁ」
 Dickがしみじみ言う。
「でも、なんでアメリカやイギリスにはそういう人たちがいるんだろうねぇ。やっぱり血が熱いからかね?」
「低○なのさ」
 ビールで気が緩んだのか、Dickにしては品のないことをいう。
 徳田は苦笑して、首を振る。Dickは言い過ぎたと気がついて肩を竦めた。
「でも、逆に訊くけど、日本人はなんでそんなに大きな不満を抱えた人たちが少ないんだろう?」
「そうねぇ……」
 徳田は首をかしげる。
「欲深くないからかなぁ? みんなほどほどのところで満足できるから」
「でたな、徳さんのNative Japanese Speakerはすぐ満足する説」
「まあ、絶対だとは言わないけど。人間は相当DNAに支配されるから」
 日本人は、欧米人に比べて快楽物質のドーパミンを受け取る能力が高いので、ちょっとしたことで満足しやすい。だから、ほどほどで満足するということを日頃から徳田は言っていた。
「おれ、最近思うんだけどさ。それって、本音と建前の使い分けがいい方に働いてるんだと思うんだよ」
「へぇ」
 Native English Speakerの毛嫌いする「本音と建前」をアメリカ人のDickが擁護するつもりらしい。
「どういうことさ?」
「たとえばさ、日本人って仕事で嫌なことがあっても、本音は嫌だけど黙ってそれを受け入れてやるでしょ?」
「まぁ、普通はそうだね。上司の命令を本音では馬鹿にしてても、建前ではそれをやんなくちゃならないわな」

「でも、そういう時っておれたちNative English Speakerは異を唱える」
「いいじゃん、風通しがいい」
 Dickと徳田は同時に苦笑した。話があべこべになっていることに気がついたのだ。DickがNative Japanese Speakerの擁護を、徳田がNative English Speakerの擁護をしている。
「そうすると、徳さんも知っての通り理屈立てて説得されるんだよ。なぜなら、~~~で、~~~なのは○○という根拠があるってね」
「いいじゃない。現実を見据えてよりよい結論が導かれるんじゃない?」
 そういうより良い結果を求めるための勝ち負けでない「話し合い」こそ今のNative Japanese Speakerに必要なものだと思っている徳田は強くうなづいた。
「そうねぇ、確かに理屈ではよりよい結論が導かれるけどさ」
「けど?」
 徳田は身を乗り出した。

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