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第43回 なぞるだけじゃ……

【前書き】

 今回、投稿するエッセイは7年前の2014年9月11日に水戸市の「文化問屋みかど商会」のファクシミリ配信誌に掲載されたものです。時節にそぐわない内容はご容赦ください。7年たって、今回のケンジ君のような人はどんどん増えていると思います。欧米的なマネージメントが必要になってるなと頓(とみ)に思いますねぇ。(著者)

【本文】

「ちょ、ちょっと待った」
 徳田は、プレゼンテーション資料を見て慌てて声を上げた。終業間際、もう帰ろうとして、最後の仕事として明日の資料をチェックし始めたところだ。
「これはいったい?」
 プレゼン用の製本ファイルに入れられた書類をめくる。
「これどうなってんの? ディック?」
「え? どうしたの?」
 徳田は、手元の一冊をディックに渡した。
 とたんにディックの顔がひき攣る。
「これも、これも、ああ、全部同じものだぁ」
 徳田はデスクの上に用意されている全資料をチェックした。
「これ、ヘッダーとフッターが入ってないし、ページ番号も入ってない。しかも、この図表……」
 数字の入ったエクセルの表が、そのまま紙面3分の2に載っている。残りは真っ白だ。なんという判りにくいプレゼン資料。次のページをめくるとどんっと社長の顔写真が入っていた。しかも、左下にはホームページから拾ってきたのがばればれのURL付き。ここまで来ると、ある種芸術的ですらある。
「ディック、これディックが作ったものじゃないよね?」
 徳田はディックに一応確認した。
「徳さん、すいません。じつは、これケンジに頼んだんです」
「ケンジに?」
「だって、ケンジがパワーポイント使えるって言うもんだから。それに今日ちょっと忙しかったからつい」
「え? ケンジってPC音痴じゃなかったけ?」
「そうだけど、できるって言うから」
 事態の大きさに、ディックもしどろもどろだ。
「どの程度できるって聞いた?」

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