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第36回 話しやすい理由

【前書き】

 今回、投稿するエッセイは2014年7月17日に水戸市の「文化問屋みかど商会」のファクシミリ配信誌に掲載されたものです。時節にそぐわない内容はご容赦ください。Native English Speaker と我々Native Japanese Speakerとでは「失礼」なことが違うんですねぇ。(著者)。

【本文】

 私は30代の初めまで、進学塾でマネージャーや講師をしていたんですが、主戦場としていたのは高校受験と大学受験でした。
 まぁ、これは英語がこの2つの受験では必須科目なので当然そうなります。数学や国語、社会、理科の担当の講師では進路指導ができない生徒が出てきてしまう。理系の講師では文系の生徒の進路指導ができませんからね。すべての生徒が絶対に逃れられない科目の講師(つまり英語の講師です)が進路指導するというのは、暗黙の了解でした。

 はじめは、先輩の講師たちに脅かされましてね。
 高校生はともかく、中学生、とくに中2以上の反抗期に入っている生徒は大変だぞ、まったくいうこと聞かないからな。
 なんてことを言われて、中2の授業を担当し始めたのですが、やっぱり早速ぶつかる。
 教室に入る。
 挨拶して、気を付け礼をして授業を始めるわけだけど、ざわざわこそこそ話し声がやまない。
 私も若かったですからね。そこで怒鳴りつけるんです。
「うるせっていってんだろうが! おれの話を聞いてんのか! 小川!」
 小学生であれば、ここでしーんとなって素直に授業を受け始めるわけだけど、中学生はそうはいかない。
「うるさいのはあんただろ! あんたはおれの話、聞かねえくせに」
 なんて、返事が返ってきて、周囲の中学生たちが不安そうに私を見る。
 普通の講師なら、ここでお前は生徒で、おれは先生だから、そんなことをする必要ない。とか、お前には授業を受ける義務があるなんてことを言ってしまうのでしょうけど、私は自分が講師の意識がないので、
「ああ、聞いてやるよ。言いたいこと言ってみろ」
 と講師にあるまじき発言をする。
 すると、
「……」
 沈黙です。なにを言っていいのかわからなくなって、ちっと舌打ちしてうつむく。
 ここでやめとけばいいのに、私も血気盛んなものだから、
「貴様、舌打ちしたろ!」
 と詰め寄ったりします。
 まぁ、ありていに言って子ども同士の喧嘩です。大学を卒業したいい社会人が中学生と同レベルになって喧嘩している。指導もへったくれもありません。
 でも、不思議なもので、こういう「叱る」のではなく「怒る」という対処は、中学生や高校生には変に評判が良くて、ぶつかった生徒ほど後になつかれて、仲が良くなりました。

 件の先輩たちは、不思議そうに若いからなつかれるんだといっていましたが、私の中では小学生だろうが、中学生だろうが、相手を見下さない、自分と同等としてみることが大切なんだと思っていて、そんな話を当時付き合っていた彼女に話したのですが、彼女はあっさり否定(笑)

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