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分配議論の忘れ物(第49回衆議院議員総選挙の日に思うこと)

あっという間に総選挙の日がやってきました。 米国の著名な評論家にインタビューした時に彼はこう言ってました。「アメリカの大統領選挙は長すぎて、お金がかかりすぎる。日本の総選挙は短すぎて、候補者本人が誰だか分からないままに終わってしまう」。私はその時「いいえて妙だな 」と 感じたものです。

 私の選挙区は自民党前職と立憲民主党の元職の一騎打ちですが、 その人柄など知る由もなく、 約12日間でどちらに投票するかを決めなくてはいけません。今回の各政党の公約は「分配」がキーワードになっています。 分配を言うのであれば、分配はどのような基準で行うか、それを実現するのにどのような手法を用いるかが、明確にされていなければ、その違いをはっきりと認識できません。

 例えば、分配の基準であれば公正、平等の二つの基準に照らして、どこまで格差(不平等)を認めることを、公正と考えるのかを明確に定義することによって、その政党の立ち位置や哲学が明確になるはずです。

 もう一つ、「どのような手法で」だということも、私から見れば、でも重要なポイントだと思います。なぜなら、公正で平等な分配を実現する大前提として、何が本当に援助を必要としていて、誰が本当にさらなる負担をなし得るかを、特定していかなくてはなりません。そのためには各人がどれほど稼いでいるかという所得を正確に把握しなくてはなりません。


 日本の場合、所得を正確に把握することができる仕組みが出来上がっているのですが、それをどう運用してるかついて、大きな穴が開いているのです。その仕組みというのは誰もが知っているマイナンバー制度です。

マイナンバーを給与、株式売買取引、不動産売買取引などに付与すれば、「名寄せ」をするのはとても簡単で、その人が1年間にどれくらいの所得が得たかを正確に把握できるはず、ところがです。所得把握の要となるべき預金口座への附番が未だに義務化されていないのです。それどころか、昨年11月には「マイナンバー制度、口座ひも付け義務化見送り 普及進まず政府が決断(東京新聞 tokyo web )」してしまったのです。

以前、マイナンバーの担当者に「なぜ銀行口座が大事なのですか」と質問したことがあります。その答えは「預金口座の増減を調べるのが、その人の所得の動きを把握するのに一番効率的で正確なんです」というものでした。

 考えてみれば当たり前のことですが、ある年に株式取引で数千万円の利益を上げたとします。証券会社からマイナンバー付きの売買報告が担当の税務署に行われる一方、売買代金を預金口座に振り込まれます。株式の売買に見合ったお金が増えていなければ、お金の動きが不自然だということになります。もちろん自宅にドカンとでかい金庫をももち、何億円も現ナマで持っている人がいるかもしれません。それはそれでどうして預金が増えていないのか、現金の出どころが疑われることになるのです。

  所得の把握と医療保険、年金などの社会保障番号が共通になれば、 現在その人がどのような経済状況にあり、それに対してどんな社会保障を受けているかが、簡便に全体像として捉えることができるようになります。つまり、こうした基礎データがあってこそ初めて、公正で平等な分配を考えることができるようになると思うのです。

 野党はといえば、プライバシー保護を金科玉条に、マイナンバー制度についてはずっと反対をしてきました。私から言わせてもらえば、所得格差の是正を目指す野党こそが、マイナンバーの推進者にならなければ、論理があいません。 確かに、公文書を書き換えるような公務員達にこれほど重要なデータを任せることはできないという気持ちがわかります。しかし、野党が論じるべきは、マイナンバーの不正利用に対する罰則、 ハッカー対策及び万一データが流出した時の対策を含むプライバシー保護のあり方ではなかったのでしょうか。

私の基準から言えば、今回は合格の政党はいません。ただし、消去法しか残っていないとしても、とにかく選挙には行きます。なぜって?その方が延々と続く選挙報道を少しは楽しく見ることができるから。


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