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【詩】言葉

漠然とした思いに思いを馳せ
無意識を通り過ぎてゆく
言葉は波より多い
無数の言葉の中を
彷徨い 紡ぐ一行
しかしどれをとってもしっくり来ない
淀む詩行

不完全なままの午後
昼食後の分まで飲んだ薬の袋
止まったままのレコードプレーヤー
飲みかけの紅茶が入ったカップ
少しシワがある部屋干しのシャツ
部屋は雑然としている

言葉の中を漂っていたが
ふと方角を変えて
遠い過去の記憶を
辿ってみることにした
すると 子供だった自分
少年だった自分と
想念の中で邂逅した

 君は何を想い
 何のために生き
 誰を愛していたのか
 
過去の自分の想いを
手元に手繰り寄せる
言葉から自由になり
懐かしい思い出が
ピクチャレスクな一枚の
写真のように甦る

 ある雪の降った朝
 尼崎のアパートの前で
 れいこちゃんと
 りょうこちゃんらとはしゃいで
 雪だるまを作って
 そして記念写真を撮った
 ある冬の寒い日だった

美しい過去の思い出を
つまびらかになぞり
言葉にすることが出来た

言葉を取り戻せるかも
そう手応えを感じ
もう少し過去を徘徊してみた

 中学一年の運動会
 選出されたスウェーデンリレー
 重要なアンカーだった
 走るのは400メートル
 敵は五組の高島だった

 もう銃声が鳴る
 勢いよくスタートしたのはいいが
 たちまち追い抜かれる
 畜生 この日までどれだけ練習をしてきた?
 無我夢中で全力疾走
 気が付くと高島を追い越していた
 逆転勝ちだった

 割れんばかりの歓声
 僕はゴールするや否や
 倒れ込んだ
 よくやった、英治
 先輩が声をかけてくれた

あれは思えば僕の最初の
成功体験だった
過去の自分よ ありがとう
よく頑張ったな
僕もまた言葉の下で頑張るよ

過去の自分よ
僕は綺麗に磨いた言葉の下に
今帰っていける気がするよ
君と対話して一気に言葉を取り戻した

ことば コトバ 言葉
過去の自分と別れた僕は
素敵な言葉との邂逅を夢見て
心を入れ替えて
今日も言葉を綴る
想念は巡る
過去 現在 未来

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