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今日はどうだった?と彼女に聞くと。

私は夜遅くに仕事から帰ると、まず、奥さんにこう尋ねる。「今日はどうだった?」と。それは彼女の仕事での出来事を聞くためだ。

彼女は今、雑貨店(服や小物のインテリアとかいろんなものを売っている。)でレジのパートをしている。パートだから短時間ではあるけれども、レジに立っていると、いろんな出来事が起こるようで、その話を聞くことが、私の小さな楽しみになっている。

これは最近、聞いた話。

いつものように「今日はどうだった?」と彼女に聞くと「今日はね、レジでね…」と彼女が話し始める。(その声に笑いが少し含まれている。)

「えー?なになに??」と私は興味津々になる。(お!きたきたー!)

「レジでね、3歳くらいの男の子が、一人でじっと私を見つめているの。でも、ちょっと不機嫌そうな顔なんだよね。なんだろう?と思って、しばらく私も見ていたの。私がニコッと小さく笑っても、表情を変えないの。親もいないし、もしかして迷子?と思ったのだけど、遠くでお母さんが、”〇〇ちゃん、帰るわよー”って、その子の名前を呼んだから、あぁ、よかった、って安心したの」

「へぇ、迷子じゃなかったんだ。よかったね。それで、どうしたの?」(これで話が終わるはずがないのだ。)

「うん、それでその男の子がお母さんのところへ行こうとしたから”バイバイー”って私が手を振ったの。でも、男の子は相変わらず私を不機嫌そうに見つめたままで、でも、手を振ってくれるかな?って思っていたら…」

「思っていたら??」

「私に投げキッスしたの!」(ま、まさかの投げキッス!)

「ちっちゃな可愛い手を口に当てて、思いっ切り私にキスを投げたの!私、ビックリしちゃって”こんな小さな子が投げキッスを知ってるんだ!”って思って。それが可笑しくって可笑しくって、ずっと笑いをこらえていたの!」

こりゃまいった!今時、投げキッスとは!
なんてませた子供なんだろう。

「でも、なんで投げキッスなんだろう?テレビの影響かな?でも、テレビでも誰もしないと思うけどなぁ…」と私もある意味ビックリした。

「それでね、店の出入り口で、その男の子がピタッと止まって、また、レジの私をじっと見てるの。ずっと動かないものだから、私がまた、バイバイー!って小さく手を振ったら、また、投げキッスをしたの!もう、それが可愛くて可愛くて!」

・・・なんて。店で思いっきり笑えなかった分、彼女は、家で大爆笑していたのだった。

それにしても、何の影響なんだろうな?流行りのユーチューバーか何かかな?とても不思議だ。まぁ、それはともかく、ありがとう。彼女を随分と幸せな気分にしてくれたみたいだ。そんな彼の将来が、ちょっぴり心配になるけれど、まぁ、明るい子に育つのだろうな。(黙って彼女を見つめたまま、投げキッスをしただけの彼だけど。)

まぁ、そんなこんなで、明日も僕らは互いに仕事だ。今度はどんなことがあるんだろう?そう思いながらも、明日もきっと、私は彼女にこう聞くのだ。

「今日はどうだった?」と。

そうして僕らの忙しい一日が、ゆっくりと更けてゆくのだ。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一