雨雲の憂鬱と小さな出会いと。

画像1 まるで草木たちが電柱を真似しているかのようだ。面白くも不思議な風景に、私は夢中になってシャッターを切った。この写真を撮っているときに、一台の軽トラが狭い道を、私の横を通り過ぎずに目の前で止まった。車の窓を開けて、60代くらいの男性が私に声を掛けてきた。「何の写真を撮っているのですか?」たぶん地元の人なのだろう。写真を撮っていると、たまにこんなふうに声を掛けられることがある。不審者だと思い警戒しているのだろうと勝手に想像した私は「この電柱です」と素っ気なく返事をした。
画像2 すると男性は私に言った。「私も写真を撮るんですよ」とまるで少年のようなやんちゃな笑顔で。その笑顔に慌てた私は「ここの風景はとてもきれいですよね」と言って互いに小さく笑った。なんだか悪いことをしてしまったと少し後悔をした。やがて軽トラは私を過ぎて行った。どんな写真を撮っているのか、あの人に聞けばよかった。そう思いながらも、私はこの写真を撮った。
画像3 雨雲の暗さは憂鬱になるけど、でも、その憂鬱さが美しさに変わるときがある。ありふれたこの電柱と電線が私に語り掛けてくれる。勝手な思い込みではなく、そのひとつひとつをこぼさぬようにと。私は心して雨雲を見上げた。確かに受けた証として。小さな出会いもその一つとして。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一