月の宝石。

こんな季節だったあの頃、”今夜の月は宝石のようです”とそんな友達からのメールの言葉に「月が宝石なんだって!」と子供みたいにはしゃいで私は、まーちゃん(当時9才)とゆーくん(当時6才)と一緒になってドタバタと急いでベランダの窓を開けてみた。

けれど・・・なぜかどこにも見つからない。

どうしてだろう?
確かあのあたりに見えるはずなのに。

「星が少ししか見えないねー」とゆーくんがとても残念そう。どうやら最近出来た大きなビルの、影になって見えないようだ。「よし、表に出よう!」と私は玄関のドアを開けた。大喜びで子供達もまた、ドタバタと私のあとに続いた。

秋の風がとても涼しい。街の音もどこか穏やかだ。「お月さん、どこにいるんだろうねー」とゆーくんがまた寂しそうにつぶやく。「もっと暗くならないとダメなのかな?」と今度はまーちゃんが残念そう。いいだしっぺの私としては、絶対に月を見つけなければと、あせりながらもあたりを探した。

「いてて!」

ゆーくんが石につまずいて、こけてしまった。あまりにも夜空を見つづけていたから、おかげで靴紐がほどけたようだ。やれやれ、半分泣きそうな顔をしている。なんてことだ。まるでいいことなしだ。

「ゆーくん、ほら、泣かないで。
お父さんが靴紐、直してあげるから」

思わずそんなふうにやさしくしてみた。少なからずも、私に小さな責任があるからだ。しゃがんでゆーくんの靴紐を直していると、なぜか、ゆーくんの形のいい坊主頭が、まるで仏様のように、後光がさしているように見えた。

なんだろう?と私はじっとそれを見つめた。

「あ!」と思わず声を上げた。
ゆーくんとまーちゃんがはっと振り返る。

そこには月がほんわりと、船のように浮かんでいた。まるで、いたずら好きな女の子みたいに、私たちをクスクスと笑っているみたいだ。

本当に宝石のように美しい。
みんな、言葉をしばらく忘れた。

「きれいだね」と、ゆーくんがやがて、小さくつぶやく。「きれいよね」とまーちゃんの声が、少しかすれてる。

私は黙って、ふたりを見つめる。

なんだ、私には、もっと美しい宝石が
ふたつもそこにあったんだ。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一