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返事をしろって、私。

つくづく私は、人と話をするのがとても下手だなぁって思った。

ある日、ちょっとした用事があって、見知らぬ人と4人で車に乗ることになった。ドライバーは30代の男性。後部座席には20代の女性と40代の女性。そして、ドライバーの横に私。

ドライバーはとても明るい人だった。(サザエさんの世界で言えば「カツオ」と言ったところか。)

「今日は天気がいいっすよねー」とカツオ(仮名)が言う。私はいつものように「はぁ」と言葉少なく、静かに返事をしようと思ったけど、今日は自分を変えてみたくなった。

「そうですね、これが仕事じゃなくてドライブだったらいいですよねぇー!」とやたらハイテンションで返事。自分の中で設定を、無理やり「タラちゃん」モードにした。

「青木さんって、ドライブとか好きなんですかぁ?」と後部座席から20代のポニーテールの似合う女性が聞く。(同じハイテンションの流れだ。)

「えぇっと、そうですねー・・・僕は・・・あのう・・・」てな具合で、急に私は気持ちがしぼむ。(波平の誘いを断れない「マスオ」さん状態になる。)言葉で説明することが、途中で面倒になってしまうのだ。

文章では、すらすらと書けるのに、いざそれを声に変換しようとすると、まるで違った漢字に変換されたかのように、うまくそれを言葉に出来ない。あえてここには書かないけれど、そのあと私は突拍子もないことを言ってしまい、その場の空気が波のように、サーって引いてゆく様が肌で感じられた。(やっぱりあえて書いてしまえば、突然私は、昔のアニメの話をしてしまい、それは最後にはドライブの話に、直結するものだったけど、そこまで辿り着けなかった。)言わなきゃよかったと思うけど、声で言ってしまった言葉は取り消せないから恐ろしい。

それから私は3人の明るい話題を黙って聞いて気付けばそこにいたみたいな、おとなしい人に徹していた。(いつもの私のパターンだ。)

そういえば奥さんからも時々、こんな具合に叱られてしまうことがある。テレビを見ていた奥さんが「俳優の〇〇さんって結婚したのかなぁ?」と私に聞いていることを、私は十分理解しているのだけど、私は何も返事をしない。

数秒の沈黙のあと、奥さんが怒る。
「また無視して!もうっ!」

はじめて私は”あぁ、そうか、返事をしなきゃいけなかったんだ”と気づく。私はその質問を聞くだけで十分だと思ってしまっているのだ。それにその俳優さんのことなど、まったく興味がないので完全に頭がオフラインになっている。

めんどくさいなぁって思う。返事をしようっていう気が起きない。(書いていて、なんて嫌なヤツなんだと思う。)別に機嫌が悪いわけじゃないんだけれど、すべての問いかけに、すべて答えるなんてことが、私には果てない作業に思える。

特に何かをしているときに、聞かれると困ってしまう。その世界に入ってしまっているので、外部情報は脳に届いても言葉までは届かない。

・・・こう書くと、正当な理由があるように見えて実はただ、ぼんやりしているときも、返事をしないときが多々あるから始末に負えない。

私の後頭部に、電光掲示板で「オフライン」ってわかりやすく表示が出れば助かるんだけど。(そうすれば、奥さんも”あぁ、今はオフラインなのね”って納得してくれそうな気がする。)

どうして私は、うまく人と会話が出来ないんだろう。
どうして私は、うまく返事をすることが出来ないんだろう。

・・・とこれを書いていたら、
奥さんが私に何かを尋ねている。

どうして私は・・・

いや、だから返事をしろって、私。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一