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『半・分解展』 東京 2021

「あぁ、帰って、子どもたちとあそぼっ...」

14日間の個展を終えたその人は、
開口一番そう言った。
僕は心で微笑んだ。

意外な言葉に感じるかもしれない。
しかし、僕にとってはこの一言こそ
氏が教育者たるを表している。
そう感じるのだ。

パパは鉄人

『半・分解展』の会期中、僕は受付をしながら関わらせてもらったが、長谷川さん(主宰の長谷川彰良さん)がまともに食事している姿を見ていない。
食べているものといえば、長谷川さんのお兄さんが差し入れてくださった蒟蒻ゼリーとめかぶ。とてもそれで2週間生き延びれる食事とは思えなかった。
長谷川さんがご自身のYouTubeで「感動は食べ物」と言っていたことを思い出し、あぁこの人は本当に感動を食べて生きているのか?!と感嘆した。

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「長谷川さん、晩ご飯、いつたべてるんですか?」ある日の帰り際に訊ねると、「あぁ、僕はお風呂入りながら食べてます。」と返ってきた。長谷川さんが帰宅する頃には、お子さんも奥さんも寝ている。きっと、そぉ〜っと忍びながら寝床につくのだろう。さらに、朝起きて家族の朝ごはんを長谷川さん自らがこしらえた後、展示に通っているというから驚いた。長谷川さん曰く、これまでの『半・分解展』は命懸けで嵐のように駆け抜けていたが、今回の『半・分解展』は家族との時間・生活を大切にしながら運営できた、という。

100年前の感動を100年後に伝えるために生きる。半分に分解した旧き衣服を標本にして、着心地や内部構造に迫る。「傾き」や「抑揚」など、自らの言葉で、愉快に実演し伝えるその姿は眩しい。「反身」の説明では、長谷川さん自ら、身体を何度もギュイーンとそりかえす。そんなパパが、それで家族を養っているのだと考えると、尊敬を超えてなんだかおもしろい。

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続けていくこと

僕が今回の『半・分解展』で学んだこと。
それは、続けていくことだ。
長谷川さんのお兄さんが、受付を手伝いに来てくださった際、僕は「お兄さんから観て、長谷川さん(弟である彰良さん)のどこがすごいと思いますか?」と聞いてみた。

お兄さんは、
「そうだねぇ。続けていること、かな。」
「"続いて"いる、じゃなくて"続けて"いることね。」
と弟のすごさを語る。

さらに詳しく伺うと、なにかを始めたその流れで、のらりくらり"続いて"いるのではなく、長谷川さん自らが意志をもって挑戦をし、表現を"続けて"いることがすごいと。お兄さんは、長らく協力する中で、弟の「続ける」という強い意志、選択の連続を身近に観てきて、すごいと感じられているそうだ。
僕は、長谷川さん兄弟の澄んだ関係性をその話に観るうえ、教育者としてシビレずにはいられない。

14日間在廊し続けること。
あししげく通ってくれるファンの方にも、なにかのきっかけで『半・分解展』の存在を知り来てくれた新規の方にも、長谷川さんは丁寧に向かっていた。

物珍しさは興味を惹き、感動の解説は心を打つ。
でもそれは、自らの興味を探り、自らの感動を掘り下げているからこそ為されるのだ。自分で自分を問い続ける機会をもつ。自分で自分を表現し続ける機会をつくる。そして続ける。あらためて、大切なことだと感じた。

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かける言葉

僕は『半・分解展』に臨む数日前、とあるお店に履歴書を出していた。求人募集をしていて、店内の雰囲気も扱っている品も、僕が好きな世界観だったからだ。

一年前に失業して以来、「好きな仕事」をもとめてさすらう流浪の人間にとっては久々に来た大勝負。どこかで働けりゃいいやなんて、ふつうの就活はしていないから、不安がつきまとうのは当たり前だ。来月生きていけるのか。そんな不安と共に暮らして、もう一年になる。

「面接する方にのみ、後日連絡をいたします」を待ちながら迎えた『半・分解展』の受付。結局、期限の2週間を過ぎても待っていた連絡は来なかった。直接お店に履歴書を持っていって、お手紙も書いたけど。こちらの条件もよかったはず。自分のなにが合わなかったのか。「これが社会だ」なんて説得、僕には通じない。

肩を落としながら、僕は
「結局ダメだったみたいです...」
と、長谷川さんに就活の結果を報告する。

すると、長谷川さんは
「なにも気にすることないですよ。谷さんは素晴らしい人ですから。」
「これからいい縁を半・分解展が運びます。ご安心を。」
と激励してくれた。

僕に、どれほど響く言葉か。
どれほど温もりのある心か。

思えば会期中、長谷川さんは
「いやぁ、谷さん、ありがとう。」と
ことあるごとに、感謝を言葉にされていた。
とても自然に、僕をめがけて伝えてくださるので、しっかりと心に届く。
それは、パターンやサンプルを購入されたお客様にも、荷物を届けてくれた配達員の方にも、手伝ってくれたお兄さんにもお義父さんにも届けられていた。
「ありがとうございます」
「ありがとう〜」
「ざぁ〜っす!」
その人の関係性に合った言葉で、長谷川さんの心が届けられる瞬間を何度も見た。

受付をしながら観察していると、衣服標本を縫う時と同じく丁寧に、人との縁を結んでいる長谷川さんがいた。

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手づくりの温度

不安に対する姿勢。失敗への向き合い方。
そんなところに、その人たるものが表れる。
『半・分解展』の特別イベントが終わったある日、長谷川さんは自らの失敗と必死に向き合っていた。

自由と責任は表裏一体だ。個展をやるということでも、会場の手配から展示品の配送、什器の確保から配置、お金の管理、受付、設営から片付け等あらゆることを自らの手で運営する。
長谷川さんがお客さんの対応だけでなく、業者や事務所と連携する姿を、僕は会期中なんども見かけた。責任を果たすという側面だ。
自分がやりたいことをやりたいようにやる。その事実があるというだけで、僕にとっては尊いことだ。シビレる。自由を果たすという側面だ。

長谷川さんは僕も含め、通じ合った人との関係をとても大切にされる。発想も豊かで、『半・分解展』でも多様な分野のスペシャリストを招いて、特別イベントを企画し催している。
だからこそ、他者との綿密な連絡や確認は、運営において重要なことだ。今回はその確認不足により、長谷川さんでも頭を抱える一幕があった。

僕は、自分と向き合い悩む長谷川さんを間近で観ることができた。長谷川さんは、なんでもできちゃうスーパーマンなんかじゃなくて、はるかに人間的だと感じた。真摯に自分の失敗と向き合う姿勢は、僕に手づくりの温度を伝えた。自分の責任で自分の自由を展く。『半・分解展』は舞台裏にも人間らしい温度があった。

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『半・分解展』のうち三日間、会場内の一角をお借りして、僕は自分の世界観『ふるい』を展示した。
とある日の帰り際、長谷川さんから「会場内のスペースが一部空くので、谷さん、なんかやってみます?」と提案をいただいた。それをきっかけに、急遽、僕の展示をさせてもらえることになった。毎日進化する展示として、僕は三日間、私物を持ち込み自分の世界観を展開した。「自分から表現する」その体感と経験が、新たな僕を拓いた。

そして、2021年6月の最終土日、26日と27日に、渋谷のビルで、僕は個展をひらくことにした。
(詳細は下記)

『半・分解展』の学びを経た
僕の手でつくる、僕の展示会。

会場は、もうおさえた。
さてなにをしようか。
どんな世界を創ろうか。
えもしれぬ緊張とワクワクが交じるこの感覚。
当事者としてのシビレ。

長谷川さんはやっぱり
僕にとって教育者だ。

教育的関係は、そう。
自立を前提とした依存なのだから。

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個展の詳細

et.bolero初個展『童心』
(展示即売会、入場無料)

26日(土)13:00〜20:00
27日(日)10:00〜19:00

渋谷「novore mini
東京都渋谷区桜丘町17-9-403号室
JR線南改札すぐ 渋谷駅西口より徒歩5分
東急線 渋谷駅32出口より徒歩5分
井の頭線 渋谷駅中央口より徒歩6分

お問い合わせは各種SNSのDMか
et.bolero@gmail.com まで。

※感染症対策のため、入場制限をさせていただく可能性があります。また、当日体調の優れない方はご来場をお控えいただきますようお願いいたします。
換気、消毒など随時対策をしながら開催します。

雨の予報も出ておりますが、
一村雨のあまやどりに。
お待ちしております。


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長谷川さんと僕のご縁(過去記事は以下のとおり)


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