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初個展『童心』を経て

アーティストという免許がある。
「芸事をする」というのは、その術をもちあわせた人のみ、成し得るものだとばかり思っていた。

2021年6月26・27日の土日、渋谷の一室で僕は初めての個展をひらいた。『童心』と名付けたこの催しは、僕がただ好きなもので好きな空間をつくってあそぶというもの。簡単に言えば、ひみつきちを創ろうという試みだ。

僕が自然体でいること。
来てくれるお客さんも自然体でいられること。
いろんなことを試し遊べる空間。
僕は、数十キロあろうかという量の古物を担ぎ込んで、手づくりの個展をひらいた。

『童心』に"帰れる"のは大人だからこそ

初日の午前に行った設営。まずは外観をつくるために、ありったけの古い布を思いつくままに広げ、壁を覆った。これだけで、かなり自分好みの空気が生まれる。

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ひといきつく暇もなく、開場の時刻をむかえた。早速、いつもお世話になっていた古物愛溢れるご婦人が来てくださった。
古物が所狭しと乗った大机は、まだまだ整っていない。でも、まずやりたいことは対話だ。展示即売会でもあったので、見栄えよくキレイに並べてお見せするのがよいのだろうけど、それより初の個展でお迎えした初めてのお客さんだ。これほど嬉しいことはない。僕は心からの感謝を伝え、しばらくご婦人とお話しした。決して一般的な価値があるとは言えない僕の古物たちを、丁寧に、熱い眼で眺めるその方の好奇心と古物愛を、僕は本当に尊敬する。

今回の個展では、ありがたいことにお客さんが途切れることなく、ひっきりなしに訪れてくださった。初日ご来場されたある男性と話した際、テーマである『童心』の話題になった。

幼きころ、なぜか惹かれた小石や鉄の破片。それを親に秘密でこっそり集めていたあの記憶。あの頃の『童心』を想うと、僕が表現している古物の世界観に通じるところがある、と評価してくださった。
そして『童心』に"帰れる"のは、自分が一度子どもから大人になったからこそだという話になった。

なるほど、「童心」は子ども心であるがゆえに、子ども自身はその自然体が「童心」であることを自覚していない。社会性や規範に触れて、子どもを飛び越え大人になったからこそ、あの頃の「童心」に"帰れる"のか。そこを出発点としながらも、いろんな道を経て"帰る"ことができる心。僕は大人になったからこそ、古物たちを通して『童心』が表現できるのだ。いや、大人になりきれてないから『童心』のままいられるのかもしれない。
いずれにせよ、僕にとって自然体であるということは、よりよく生きようとするうえで大切なことだ。

二日間を通して、このテーマにしてよかったと実感し、『童心』のおかげで学び多き個展となったことは間違いない。

人を呼べる空間、対話する時間

僕にとって個展は「人を呼べる空間」であり「モノや自分と対話する時間」であると感じた。この感覚は、個展をひらいてはじめて味わうことができた。

学生時代の友人や古物好きの知人、さらにはSNSでの告知が拡散して来てくださった方もいた。
知人だけを好きな空間に招くなら、自宅に招けばよい。ただ、公の場所を借りて自分の表現をしたからこそ、様々な方の意見や感想を伺うことができた。知人でさえも、僕が個展をひらくということでお祝いしてくれて、普段とは異なるちょっぴり特別なコミュニケーションをとれた感覚もある。不思議なものだ。個展をひらくことで、人が集まる(呼べる)空間がつくれるのかと学んだ。当たり前のようで、これは大きな学びだ。

僕が差し入れをいただく!なんてことも初めての経験だ。なぜみんな、あんなにセンスがよいのだろう。おいしいものを知っている。楽しいことを知っている。お洒落なプレゼントに感謝しながら、無知な自分がどこか恥ずかしいような気もした。僕は、真心の贈り物を大切にいただいた。

僕にとっての個展は、大好きな古物を介して、来てくださった方と対話し、自らとも対話する時間であった。ふぅ、と一息つく暇もなく、初日の帰路に着く頃は今まで経験したことがないような身体的疲れがドカッッッ!と来た。
気合いを入れ直さなければ、二日目に臨めぬほどの疲労を感じてもなお、心は「あぁ、今僕は個展をやっているんだ...」という未知なる感動に踊っていた。
大袈裟かもしれないが、自分が自分を表現する、そんな場の産声を味わい、ただただ感動していたのだ。
「好きなことをして生きる」なんてそれっぽい言い方をすることもできる。ただ、教育実習の時に感じた「シビレる経験の乏しさ」という僕の問題に、ひとつのカタチを刻む意味でも、とても貴重な経験となった。

物の量も、情報量としても、今回の個展には詰め込みすぎたかなと反省している。もう少しシンプルにしたいなと感じる瞬間もあった。
ただ、まずやってみることで学んだことは確かになった。そして、台風が近づく中で二日間とも全く雨の影響が無かったことや、感染症対策・じっくりお話できる時間を設ける意味でも、来場くださった人数と時間帯がちょうどよかったことなど奇跡的な運びとなったのは喜ばしいことだ。

さいごに、ご来場くださった全ての方へ感謝するとともに、会場であるnovore miniをお貸しいただいた志摩さん、個展をひらくきっかけをくださった『半・分解展』主宰の長谷川さんに心から感謝させていただきたい。

はじめての個展『童心』に帰れるように
つづけることで応えていきたい。



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