原点回帰か、レイドバックか Queen / The Works
Hot Spaceの不発で生じた迷い
何事にも過剰で程々を知らないバンド。それがクイーンだ。やり過ぎなぐらいで良しとするその姿勢は、加齢とともにレイド・バックして行く姿を想像できなかった。
そんな際どいポリシーがどこかで臨界点を迎えるのもまた必然だった。飽くなき挑戦を続けるバンドが、Hot Space(1982)で試みたファンク・ディスコ路線。それがファンから不評を買った事は、前回の記事で触れた。
そのHot Space路線の切っ掛けは「地獄へ道連れ(Another One Bites the Dust)」の大ヒットにあった。
当初バンド側は「捨て曲」と考えていのだから意外だ。それが一転してシングル・カットに踏み切ったのは、交友関係にあったマイケル・ジャクソンの強い提言を受けてだったと伝えられる。
そんな意図しないヒットだったからこそ、次は明確な意思を持ってファンク、ディスコに取り組んで見よう。そうメンバーは考えたのではないか。
だが皮肉にも、そんな意欲を持って制作したHot Spaceは市場に受け入れられなかった。さらにヒットしなかった理由が解らない事で、バンドに迷いが生じる事になる。
The Worksの二重構造
その2年後に登場したThe Works(1984)は、前回の原稿でも触れた様に、Hot Space以前の作風の復活が話題となった。前作の不評から「ファンの求めるクイーンの姿」に立ち返った、という認知のされ方だった。
だが、実際には色々な方向性が混在したアルバムだったと判る。
1. Hot Spaceで開拓したエレクトロ路線の延長にある曲
M-1 Radio Ga Ga (1stシングル)
M-5 Machines (Or 'Back to Humans')
M-6 I Want to Break Free (2ndシングル)
打ち込み手法は前作からの発展形態でありながら、不評だったR&B色は慎重に避けられている。
2. 過去のクイーン・サウンドを参照した曲
M-2 Tear It Up
M-3 It's a Hard Life(3rdシングル)
M-4 Man on the Prowl
M-9 Is This the World We Created...?
いっそ、タイトルをグレイテスト・ヒッツにしようか?とのジョークも製作中に飛んだそうで、メンバーも自覚はしていた様だ。
3. 上記いずれにも属さない曲
M-7 Keep Passing The Open Windows
M-8 Hammer To Fall(4thシングル)
1でない事は明らかだが、2とも言い切れず分類を分けた。M-8は2じゃないの?と言う方もいるかも知れないが。
無造作に投げ込まれた曲群
このアルバムを順を追って聞いていくと、クイーンの新生面を象徴するM-1 のRadio Ga Gaは良いとして、続くM-2、M-3、M-4 の3曲で困惑させられる。過去曲の焼き直し的なこれらと、Radio Ga Gaを繋ぐ線が見えないのだ。
アナログ盤では最初の4曲がレコードのA面に当たる。もし初聴の時、ここまでをひと区切りとして聞かされたと想像してみて欲しい。
これまでのクイーンのアルバムであれば、例えばシングル曲の制作が先行したThe Gameでさえ、曲と曲を繋ぐ目に見えない接着剤の様なものが存在した。そのサムシングがこのThe Worksの前半からは感じられなかったし、たったの4曲で終わってしまうあっさり感も「何かが足りない」印象に拍車をかけた。
これがCDやサブスクであったならB面冒頭のMachinesにシームレスで繋がって行くので、そこまでの違和感はなかったかも知れないが。
結局、そんな第一印象はアルバム全編を通して聴いた後も大きく変わることはなかった。正直なところ、筆者はクイーンのアルバムを聞いたという実感をなかなか持てなかった。
クイーンをクイーンたらしめたもの
そもそもの疑問として「クイーンらしさ」って一体何だろうか?それを解き明かすヒントを彼らのインタビューから追ってみたい。
ナポレオン・ヒルの著書「思考は現実化する」ではないが、強固な意思を持って自身の未来を切り開いてきたのが、フレディ・マーキュリーという人だったと思っている。
その考え方は冒頭でも触れた「やり過ぎで良しとする姿勢」にも繋がる。そんなフレディの姿勢の片鱗は映画「ボヘミアン・ラプソディ」でも描かれていたと思う。
だがクイーンをクイーンたらしめた「目に見えない支配力」が、本作では揺らいでいる様に映る。
もしや、Hot Spaceの商業的失敗がバンド内のパワー・バランスに影響したのだろうか?そんな邪推すらしてしまったほどだ。
アルバム・タイトルを拡大解釈する
そこで、このThe Worksというアルバム・タイトル。ここに若干だがヒントの様なものが仄めかされていないだろうか。
1. 文字通り「作品集」の意味。
メンバーが個々にやりたい曲を持ち寄って制作したと言われている。
2. 定冠詞(The)を外して構文として解釈できる。
意味は「クイーンが仕事をしている」
3. Worksという単語が、時計のメカニズムを連想させる。
バック・カバーのギアの画像はその暗示。
このギアのモチーフは、Radio Ga GaのMVで引用されたサイレント映画「メトロポリス」の映像に繋がる。また、当時のステージにも巨大なギアのセットが持ち込まれた。
さらに、前述の時計のアナロジーで「クイーンはまだ機能している」というメッセージとしても解釈可能だし、Hot Space以上にプログラミングを強化した本作のメタファーとも取れる。
話がやや脱線したが、ここで暗示されているのはクイーンの「バンド・マジック」「目に見えないパワー」と考えて間違いないと思う。
それは、皮肉にもこのアルバムに欠けている様に映った要素だ。
実は完璧な曲順だった?
以上を踏まえてこのアルバムの構成を再考してみよう。
アルバム冒頭のRadio Ga Gaの歌詞でノスタルジックなモチーフを援用しながら歌われていたのは、廃れつつあるラジオに向けた「まだイケてるよ」という、慈愛に満ちたメッセージだった。
だが、もしかすると、その視線は他ならぬクイーン自身にも向けられていたのかも知れない。とすれば、続く曲で過去のイメージをなぞった本作の構成も何やら意味ありげに思えてくる。
Hot Spaceへのファンからの否定的な反応。それを意識したバンドが守りに入ったとも取られかねないThe Worksの作風。
そんな見解が出てくる事を踏まえた上で、メタ的な視点からクイーンとファンの関係性を俯瞰して見せたのがRadio Ga Gaの歌詞の裏テーマであり、それに続く曲群ではなかったか?
クイーンは健在だったのか?
結局のところ、クイーンはHot Spaceまで続いたテンションを取り戻せてはいない。だが、以前の様には行かない状況を踏まえながらアルバムにクイーンらしい仕掛けを施すのは忘れなかった。
ひと昔前だったら、クイーンのそんな諧謔味をあまり意識していなかった。だが、映画「ボヘミアン・ラプソディー」で、どれだけ自分達をネタにできるバンドか思い知らされた今では、その解釈もアリだという気がしている。
Fin
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