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ロックとSFの関係 Deep Purple / The Mule

Deep PurpleのThe Muleという曲のタイトルと歌詞に影響を与えた、アイザック・アシモフの「ファウンデーション」と言うSF小説について、あれこれと。Apple TVで映像化された最近のメディア展開も含め、書いていきます。


ロックとSFの相性の良さ

60年代から70年代初期にかけての黎明期だった頃のロックは、ある意味SFとの親和性が高いと思っている。それは、ダンス・ミュージックだった50年代までのロックン・ロールには無かった要素だ。

ロックが、ロックとして成立する過程で、ロックン・ロールの歌詞には無かった文学性や、イデオロギー的な要素が加味される様になって行った。最初にそう仕向けたのはボブ・ディランだと思うけど、話が逸れるので割愛。

とにかく、ロックが「踊るための音楽」だけではなくなった事で、様々な可能性が開けたのがこの時代だった。そこにフラワー・ムーブメントなどの影響で「これまでにない新しい何か」を表現する事がトレンドとなって行った。オカルト、ファンタジー、SFと言った純文学とは非なるジャンルとの結びつきが音楽の可能性を押し広げる原動力であり、ツールでもあったのがこの時代だ。

ここで取り上げるDeep Purpleにも、ロックの原点というべきバンドに相応しく、SFとの親和性を感じさせるネタがある。


Deep PurpleのThe Muleについて

Deep Purpleが、1971年に出したアルバム、Fireballに収録されたThe Muleという曲がある。

この曲のタイトルや、歌詞は、アイザック・アシモフのSF小説、ファウンデーションシリーズの「ファウンデーション対帝国」の登場人物、ミュール(The Mule)の事ではないだろうか?

ミュールとはこの連作小説の中盤から登場する敵キャラで、他人の思考を操作する力を持ったミュータントだ。最も手強い敵もこの男にかかれば献身的な下僕に変えてしまう事が出来る。そんな、ある意味チートな能力を使ってあらゆる敵対勢力を配下に収め、支配力を増して行く。

そんな悪魔的な設定のキャラクターこそ、ハード・ロックの歌詞のテーマに相応しい。そう思ってネット検索してみたら、イアン・ギラン本人の発言であっさり裏が取れた。

The Muleの歌詞が「ファウンデーション」に基づいているのか?というファンの質問に、以下の様に答えている。

>> Yes, The Mule was inspired by Asimov. It's been a while but I'm sure you've made the right connection...Asimov was required reading in the 60's.

Columbia / Q&A

うん。The Muleはアシモフからインスパイアされているよ。随分前の事だから(細かくは覚えてないけど)君の見立てで間違いない。60年代にアシモフは必読だったんだ。

Columbia / Q&A

原作の概要と、コミカライズについて

このファウンデーションというシリーズ、単行本にして7冊、番外編も含めるとも10冊という大河ストーリーで、そういった体裁も含めてスター・ウォーズ・シリーズや、DUNE/デューン 砂の惑星といった作品への影響の大きさで知られている。

概要とかストーリーはリンク先で確認していただくのが手っ取り早い。ただ、SFと言っても「宇宙空間でドンパチ」と言った派手さはほぼ皆無だ。登場人物の会話や推理などを中心にしたパワー・ゲームで話が進行していく。

それだけに映像化は難しいと思っていたのだけど、何とこの日本でコミカライズ版が発刊されていた。現時点では、前述のミュールが登場するエピソードの前半までを収録した第4巻が最新刊となる。

このコミカライズ版ではミュールの造形、特殊能力の描写がとても良い。文章でロジカルに綴られた原作を上手に視覚化していると思う。それだけにシリーズ随一の心理戦が繰り広げられる次巻が早く見たいのだが。

なお、発刊元の特設サイトはこちら


真打ち?Apple TVによる映像化

なんと、Apple TVによってテレビ・ドラマ化され、第一シーズンが昨年秋に公開されている。

アクション・シーンが少ない原作をどう映像化するのだろう?そう思っていたら結構、色々な部分でストーリーの改変がある様子。とりあえずトレーラーしか見てないが、大作映画なみの費用が投じられた映像の迫力は凄そうだ。
また、原作は書かれた年代が古いからか、女性が殆ど出て来ない。そこで、昨今の風潮に倣って主要な登場人物の一人を女性に置き換えるなどの変更もある。

なお、シーズン2の制作も決定した様だ。ゲーム・オブ・スローンズ並みの大河作品を目指すと言う関係者の発言もある。昨今の世界情勢と妙なシンクロニシティを感じなくもないのだが、古典に相応しい評価とともに無事完遂する事を祈る。


ガンダム00にも影響が?

さて、少しさかのぼって10年以上前の作品だけど「ガンダム00」の基本設定にもファウンデーションの影響があると思う。

ガンダム00の主人公たちが所属するのは特定の国家に帰属しない私設の武装組織「ソレスタル・ビーイング」。そしてストーリーの開始時点で組織を設立した科学者は既に絶命している。にも関わらず、もう居ない設立者の意思がことあるごとに記録映像で再現され、あたかも生き続けているかの様に組織の運営に影響を与え続けている。

この絶命した人間の意志が、多くの人間の生死を左右する状況に影響力を持つ不気味さはストーリー前半の通低音になっている。

さらに物語の中盤からメインの組織を補完する第二の組織(トリニティ)が出てくる。この展開も実はファウンデーションと被る。

基本設定だけなら似てしまう事はあるけれど、この第二の組織が出てくる展開でファウンデーションの影響を確信した。


The Muleのイラスト

最後にハヤカワSF文庫の表紙で馴染みのあるイラストレーターが書いたThe Muleの絵を発見したのでご紹介したい。小説を読んだ時のイメージより厨二っぽい(笑)

Fin

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