見出し画像

2022.11.11 - 地域CL:浅間×沖縄

introduction

今年も全国地域サッカーチャンピオンズリーグの時期がやってきた。全国9つの地域のリーグ王者と、10月に行われた全国社会人サッカー選手権大会で勝ち残った3チームの計12チームにより、JFL昇格を賭けて争われる国内屈指の過酷な大会である。昨季はこの地域CLを勝ち抜いた上でJFL下位チームとの入替戦に勝利しなければ昇格できないという、地域リーグ側にとって非常に厳しいレギュレーションだったが、今季は決勝ラウンドの上位2チームがJFLに自動昇格可能となっている。

本日は大会の1次ラウンド初日。1次ラウンドは11〜13日の3日間での3連戦となっている。本日は平日であるが、急遽仕事の休みをとって現地観戦することに決定。開催地はAグループが群馬県前橋市のアースケア敷島サッカー・ラグビー場、Bグループが新潟市陸上競技場、Cグループが徳島県鳴門市のポカリスエットスタジアムとなっている。関東在住としてはやはりAグループが第一候補となるが、個人的に観てみたいチームがBグループに固まっていたこともあり、思い切って日帰りで新潟へ行くことに決めた。

朝の通勤ラッシュに揉まれ、大宮から上越新幹線に乗り込み新潟へ。平日の下りだし、そこまで混むことはないだろうと高をくくっていたが、思いのほか指定席は完売寸前でかなりの盛況ぶりだ。新潟に着いてからはすぐさま越後線に乗り換え、1駅で現地最寄駅の白山に着く。駅から歩いて10分ほど東へ歩いていくと、かつてアルビレックス新潟の本拠地でもあった新潟市陸上競技場の照明塔が目に入ってきた。

既に第1試合の選手たちがアップを進めている様子だが、メインスタンドの入口が閉まっているので県協会の運営と思しき方に訊いてみると、メインスタンドは一般観客には開放しないとのこと。感染対策を含めた運営上の理由なのだろう。メインスタンドを関係者以外に開放しない運営はパンデミック以降特に増えた印象で、観戦者の立場としては少しモヤッとさせられるが、無料で観戦させてもらうのだし文句は言えまい。

このスタジアムは初めての訪問だが、新潟市陸上競技場といえば、23年前の1999年11月21日に行われたJ2最終節、FC東京がクラブ初のJ1昇格を決めた地としてオールドファンには知られている。個人的にも一度来てみたかった場所だ。J1昇格が決まった際に東京ファンがピッチに乱入した現場付近を徘徊するなどの不審行動をとりつつ(笑)、試合開始を待つ。

第1試合は、北信越1部リーグ優勝のアルティスタ浅間と、九州リーグ優勝の沖縄SVの対戦。今季は地域リーグをほとんど追えていないため各地域の実力関係は詳しく把握できていないのだが、今大会に関しては全社枠も含め3チームを送り込んでいる九州勢の前評判が高い様子。今日観戦するBグループに関しても、ハイレベルな九州リーグを無敗で制覇した沖縄の実力が抜きん出ていると見る向きが多いようだ。浅間もJAPANサッカーカレッジと福井ユナイテッドFCとの白熱の優勝争いを制して今大会に臨んでいるが、北信越からは2010年にAC長野パルセイロをJFLに送り込んで以降昇格チームが生まれておらず、「冬の時代」が続いている。今大会はどうなるか。

晩秋に差し掛かる時期の新潟での試合ということもあり、寒さ対策を万全にして観戦に臨んだが、天気はスッキリとした快晴。バックスタンドの日向であれば、コートすら不要なほどの暖かさの中での試合となった。

1st half

試合の立ち上がりは、浅間がやや押し気味に入る展開。4-2-3-1のシステムを採用し、1トップの髙貝が前線で待ち、縦のロングボールをきっかけに2列目の選手がサポートをして相手陣地内でゲームを動かしていこうという狙いに見える。やや大雑把なサッカーではあるが、この大会の初戦ということを考えればリスクの低い形で様子を見るのはある意味定石といえるだろう。

しかし沖縄がこの受け身の時間帯を凌ぐと、鋭い牙を剥く。7分、中盤でボールを回収した大城が中央をドリブルで持ち運ぶと、アタッキングゾーンで右サイドからサポートした一木にラストパス。エリア内に侵入した一木がニアハイにパワーシュートを叩き込み、早々に沖縄が0-1と先制。自分が座っていた沖縄側のスタンドのファンからは、喜びというよりは安堵にも近い「よし!」の歓声が上がる。形としてはあっさりしたものだったが、やはりこの1点は大きいということだろう。

さっそくのリードを許してしまった浅間は、ここから大雑把な空中戦だけではなく、地上戦を増やしていく。中盤から鋭い縦パスが前線に入り、ダイレクトで横にはたいて味方が回収するのを意図した組み立てが増えていく。

しかし29分、沖縄に追加点が入る。左サイドでボールを受けた安在のクロスに対し、エリア内で競り勝った一木がヘディングシュートをゴール左隅に叩き込み0-2。浅間は攻撃ではまずまず良い形を作れているものの、守備では沖縄の一木と安在の両翼に何度も突破を許しており、かなり対応に苦慮している様子だ。

37分、今度は右サイドからのクロスに対し、左からエリア内に入ってきた安在がヘディングシュート。これがゴール右隅に突き刺さり0-3。またしても沖縄のサイド攻撃が実り、更にスコアを突き放す。

前半にして大勢が決しつつある難しい場合となってしまった浅間だが、このまま終わるわけにはいかない。やることはブレず、中盤からの楔のパスやサイドチェンジなど手数をかけた攻撃を何度か繰り出すが、沖縄も中盤の守備が堅くチャンスを作れない。結局、0-3のまま前半終了。勝敗はなんとなく見えつつあるが、決勝ラウンドへの勝ち上がりを考えると得失点差も重要となってくるだけに、後半沖縄がどう出てくるか注目される。

2nd half

後半も先にスコアを動かしたのは沖縄だった。58分、右CKを安在が左足で蹴ると、インスイングとなったボールが浅間のゴールに向かっていく。両チームの選手が雪崩れ込むようにしてスクランブル状態となるが、ボールは直接ファーサイドのゴールネットに収まり0-4。場内では山田の得点とアナウンスされたが、実質上安在の高精度のキックが生み出したといえるスーパーな得点だった。

後半も先手を取られた浅間は、選手交代でシステムを4-1-2-3に変更。より高い位置でボールを奪えるようにという狙いかもしれないが、高いプレス能力を誇る沖縄の中盤にはほぼ効果が見られない。

一方の沖縄は、73分に選手としてベンチ入り登録もしている兼任監督の髙原がピッチへ。沖縄SV創立にも携わった日本サッカーのレジェンドの一人ともいえる髙原のプレイが見られる時間もそう長くはないだろう。投入直後には左サイドからのクロスに髙原が頭で合わせる決定機を迎えるが、シュートは僅かに枠の右。髙原が天を仰ぐが、沖縄の優位はなおも変わらない。

76分には、この日何度も良い潰しを見せていたボランチの新井が中盤でのボール奪取からロングシュート。ゴールマウスを空けていたGKの小野関は戻りきれず、無人のゴールに鮮やかな弧を描いたシュートが決まって0-5。浅間の選手たちの気持ちを折るには充分すぎるほどの一撃だ。

その後も浅間の組み立てをしっかりと寸断し、シュートまで持ち込ませない沖縄。ATには左サイドからエリア内まで侵入した大城のグラウンダーの折返しを途中出場の儀保が押し込んで0-6とし、派手なゴールショーを締め括った。大会初戦にして6点もの大量ゴールを挙げた沖縄が、最高の滑り出しを見せている。

impressions

スコアが示すとおり、沖縄の完勝だった。6点もの得失点差が生まれるほどの力量差があったとは思わないが、前半のうちに浅間のウィークポイントを淡々と突き、後半にセットプレイでの加点で浅間の選手たちの心が折れたところを更に畳み掛けたことで、このスコアが生まれたものと見る。

大量得点が示すように、攻撃力の違いが明瞭だった。4-2-3-1の両翼を担う一木と安在の破壊力は抜群。一木は右サイドアタッカーのポジションながら、ほぼ中央寄りのポジショニングで浅間の守備の混乱を招き、前半のうちに勝利を決定づける2得点。東京大学出身のプレイヤーということで、Jリーグ入りを果たしたときは少し話題になったのを覚えているが、こんな万能型の選手だったのかと新鮮な驚きを得た。左アタッカーの安在はヴェルディ時代はサイドバックの選手だったと記憶しているが、一木と違い、縦の突破でサイドの押し上げに貢献。3点目のゴールも見事だったし、後半の4点目に繋がるCKの精度は、チームの勝利を決定づける見事なものだった。

また、中盤のボール回収能力にも違いがあった。特に沖縄で目立っていたのはボランチの荒井。浅間の縦パスの崩しに対して素早くプレスをかけて潰すなど、守備面で大きく貢献していた。それだけでも充分だが、後半には相手の隙を突いてロングシュートを沈め、ゴールでもチームに貢献。ボランチの働きは「地味に良い仕事をする」みたいな切り口で語られがちだが、荒井の仕事ぶりは良い意味で「派手目」で、ピッチ上でも一際映えていた。

試合終盤には監督の髙原が自らピッチに立つなど、レギュラー組の体力温存にも貢献。3日連続で試合が行われる1次ラウンドでは選手のプレイタイムをいかにシェアするかも大切な要素となってくるだけに、得失点差稼ぎと体力温存の両方を実現できたのは、沖縄にとって大きなアドバンテージとなるのではないだろうか。

浅間は試合への入り方は間違っていなかった。しかしカウンターからあっさり先制点を許してしまうと、その後はただただサイドを蹂躙されるだけになってしまった。中盤から縦パスで楔を入れ、ポスト役の選手がダイレクトで落としてアタッキングゾーンを崩す足がかりを作ろうという狙いは伝わってきたし、最終盤までこだわりを捨てなかったところは評価したいが、沖縄もそれに対応し、楔を入れてからの次の手を断ち切ってきた。今日の浅間にはその手段が封じられてからの「プランB」が無かったように思う。

タイムアップの整列後、浅間の選手・スタッフはピッチ上ですぐさまミーティングを行っていた。初戦からショッキングな敗戦を喫し、決勝ラウンド進出の可能性には早くも黄色信号が灯ったといって間違いないだろう。しかしまだワイルドカードでの進出を含め、残り2試合で連勝すれば望みはある。切り替えは難しいかもしれないが、北信越リーグ王者としてこんな形では追われないだろうし、Bグループを掻き回す意味でも、明日以降の浅間のカムバックを期待したい。

この記事が参加している募集

スポーツ観戦記

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?