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(サッカー)2024.4.13_J1_東京ヴェルディ×FC東京@味スタ


introduction

京王稲田堤駅で14時すぎに起きた人身事故の影響で、京王線は全線で遅延が発生していた。何もこんな日に起きなくても・・・と思ってしまうが、都心方面から飛田給へのアクセスに直結しない京王相模原線での事故だったのは不幸中の幸いだろう。人身事故の報せを受けて早めに家を出た自分も、なんだかんだでいつもより早めに飛田給に着くことができた。特急電車から一斉に吐き出された乗客が一斉に押し寄せる改札口には、「いつもどおり」、我らがFC東京を応援する大きな横断幕が掛かっていた。駅舎を出てスタジアムに向かう通りの街灯にも、「いつもどおり」、FC東京の応援フラッグが取り付けられている。ただ、これは今日に関しては異様な光景かもしれない。我らがFC東京は味スタの南側、アウェイサイドに陣取るからだ。本日のリーグ戦の対戦相手は東京ヴェルディ。今季1回目となるダービーマッチは、ヴェルディのホームゲームとしての開催である。

メインスタンドの入場ゲートを抜け、いつもとは逆方向の右側へ。チケットの席種はメインスタンド上層のSS席。7,000円を超える比較的高額の席種で、ライバルチームの売上に貢献するのも如何なものか?と考えなくもなかったが(笑)、なにせ久しぶりのリーグ戦でのダービーマッチであるし、家からの交通費がほとんど掛からないことを思えば、多少チケットを奮発しても問題ないだろうという判断だ。スタンドに入ると、アウェイ側ゴール裏は下層はもちろん、上層もしっかりと青赤の東京ファンが入っている。ここは自分たちの「ホーム」なのだから、当たり前といえば当たり前だ。今日ホーム側に陣取るヴェルディのゴール裏もぎっしり満席という様子ではないが、バックスタンドまで含めた総数では青赤を上回っていそうな様子。観客数は31,746人で、ヴェルディのホームゲームとしては大入りの部類だ。

我らがFC東京は、リーグ戦を3勝2分2敗で迎えてのこの一戦。直近で行われた国立競技場でのホームゲーム2連戦では、浦和レッズと鹿島アントラーズを立て続けに破っており、この勢いをダービーマッチに持ち込みたいところだろう。一方、今節からはU-23日本代表に選出された松木・荒木・野澤の3人がチームを離れて不在。いずれも欠かせない戦力であるだけに、当面の間チームへの影響は避けられないと思うが、そこでどこまで踏ん張れるかが重要となる。発表されたメンバーには、今季移籍加入した小柏が初めてのスタメン入り。おそらくトップ下での起用となりそうだ。

一方の東京ヴェルディは、ここまでのリーグ戦で1勝4分2敗。東京を勝点4ポイント差で追う状況である。2008年シーズン以来16年ぶりにJ1に復帰したヴェルディにとって、今季は大きな冒険のシーズンとなっているが、ここまではJ1残留ラインよりも上の勝点を確保しており、まずまずといったところ。内容面では、試合終盤に得失点の両面でスコアが動く試合が多く、東京にとっては気をつけなければならない反面、付け入る隙を窺いたい。メンバーは若手を主体としたフレッシュな構成。こちらもU-23日本代表に選出された山田を欠いている。プレースキックで脅威となる山田の不在は東京にとってはありがたい材料だが、やはり油断は出来ない相手だ。また2022年シーズンの途中からヴェルディの指揮官に就任し、わずか1年半でチームをJ1に引き上げた城福監督にとっては、かつての古巣との因縁対決となる。

両チームの公式戦での激突は、直近では昨年の7月。天皇杯3回戦で対戦しており、1-1の末にPK戦で東京が9-8とヴェルディを下している。しかしリーグ戦に限れば両チームがJ2にいた2011年が直近の対戦であり、更にJ1での最後の対戦となれば、2008年まで遡らなければならない。両チームのファンの中には、そんな昔の出来事など覚えていないか、あるいは知らないという人も多いだろう。ただ、東京がヴェルディに「90分間」で勝ったのは、2008年4月12日のリーグ戦、羽生のゴラッソと長友が誘発したオウンゴールで逆転勝利したあの日が最後であり、個人的にはそれから久しくヴェルディに勝てていないという認識だ。今日の試合はなんとしても勝ってもらいたい。昼間の暖かさが和らぎ、日陰では若干の肌寒さを覚えはじめた夕刻16時、新たな因縁の始まりを告げるキックオフのホイッスルが吹かれた。

1st half

東京は事前の予想どおり、松木が不在のトップ下には小柏が入る4-2-1-3のシステム。3トップの頂点には前節に引き続き仲川が入っている。仲川は中盤に下りてきて組み立てにも関与する一方、小柏が前線に残って裏のスペースを窺う位置取りをしているため、実質的には2トップに近い並びだ。一方のヴェルディは今季のベースとなっている4-4-2のシステムで、ブロックを築きながらも高めの位置から強めのプレスをかけてくる。東京にとっては面食らうというほどではないが、うまく味方へパスを繋ぐことができず、立ち上がりはポゼッションが行ったり来たりする落ち着かない展開だ。

最初のチャンスは11分、仲川がヴェルディの陣内でパスカットをして奪い返すと、サポートに入った小柏がシュートへ持ち込むがヴェルディの選手がブロック。15分には再び中盤での攻守交替からバングーナガンデがグラウンダーのクロスを送り込み、こぼれ球を拾った仲川がフリーでパワーシュートを狙うがGKの正面。17分には俵積田がドリブルで左サイドを切り裂き、ハーフスペースから折り返すが中で味方に合わず。徐々に東京がチャンスを作るようになるが、ヴェルディのゴールをこじ開けることができない。

26分、ヴェルディは左サイド裏のスペースに出たロングボールをFWの染野が流れて引き受け、帰陣した白井と1対1の勝負。染野が白井の股下を抜くパスを出すと、内側のレーンに走り込んだ見木がボックスに侵入する。ここでスプリントで帰陣した安斎が見木の足を引っ掛けて倒してしまい、小屋主審はPKの判定。勢い余って倒してしまったのかは分からないが、安斎にとっては不用意なファウルだった。ファウルを受けた見木がそのままキッカーを務め、ゴール右隅にPKを沈めて1-0。ここまで少し押され気味だったヴェルディが大きな先制点をゲットする。

望外の形で先制したヴェルディにとって、ここからは引き続き守備を頑張りさえすれば勝点3が転がり込んでくる状況。そのためか、守備の出足がますます良くなる。33分、ヴェルディが東京ゴール前にラフなボールを入れて押し込むと、こぼれ球を拾ったエンリケはクリアではなく左サイドで攻め上がる構えを見せたバングーナガンデへのパスを選択。しかしこれを狙っていたのは対面の宮原だ。読み切っていたかのような動き出しでパスをインターセプトすると、そのまま右サイドをドリブルで攻め上がってクロス。ゴール正面に入ってきたボールをフリーで待っていたのは染野だ。示し合わせたかのような完璧なタイミングで染野が右足のダイレクトボレーを放つと、弾丸のようなボールがゴール右隅に突き刺さり2-0。波多野が一歩も動くことのできない、圧巻のフィニッシュである。染野が東京のゴール裏に向かってどうだと言わんばかりに両腕を広げてアピールすると東京ファンから強烈なブーイングが起きるが、これは染野の技術を褒めるしかない。

1点差ならばまだしも、2点差となると苦しい東京は、前半のうちに1点だけでも返して終わりたいが、41分に左サイドをまたしてもドリブルで突破した俵積田のハーフスペースからの折り返しに、ニアへ飛び込んだ小柏のフィニッシュは枠の左に外れて仕留めることができず。すると東京に更なる試練が待っていた。42分、ミドルゾーンでのボールの競り合いで相手選手を倒した安斎が警告を受け、先ほどPKを与えたシーンでも警告を受けていたことからレッドカードが出されてしまう。東京の選手たちは抗議をするが、当事者の安斎は茫然自失といった様子でピッチを後にする。その後も主審の笛に納得のいかない東京ゴール裏からは執拗に不満を示すブーイングが飛び、騒然とした雰囲気のまま前半終了。後半、東京は1人少ない中で2点を追う、厳しいミッションを課されることとなった。ただし、ここまで悲惨な状況に追い込まれれば、逆に割り切ることも可能だ。ベンチスタートの森重や長友が積極的にスタメンの選手たちに声を掛け、ゴール裏ではより大きな応援の声を求める呼びかけが行われるなど、チームに諦める様子は無い。

2nd half

後半、東京はシステムを4-4-1に整理。1トップには小柏が入り、仲川が右サイドに立ち位置を変えてまずは守備に穴を作らないようケアする。しかし後半の立ち上がりはやはりヴェルディが攻勢。4分、染野が左サイドで受けて入れた鋭い折り返しには、中で合わせる人がおらず。12分、中央で起点になった森田が左サイドにスルーパスを出し、木村が中に入れたボールに対してゴール前でスクランブル状態が続くが、東京の選手たちが気迫の守備でボックスから掻き出す。僅かなチャンスに賭けるには、これ以上スコアを離されるわけにはいかない。

61分、両ベンチが最初の交代に動く。東京は小柏と俵積田が下がり、寺山と遠藤を投入。ヴェルディは木村と齋藤が下がり、山見と翁長が入る。どちらも攻撃的なカードであり、試合が膠着してきた時間帯でのカンフル剤投入である。そしてここから試合が動く。68分、ヴェルディは自陣から左サイドに出たパスを白井が読み切ってインターセプト。ファストブレイクが発動し、白井がドリブルで攻め上がる。そしてアタッキングゾーンに入ったところでグラウンダーのクロスを送り込むと、中央に詰めていた寺山がこれを跨いでスルー。その背後に同じタイミングで入ってきた遠藤がダイレクトでシュートを放ち、これがゴールに転がり込んで2-1。途中出場の寺山と遠藤の2人の阿吽の呼吸で、遂にヴェルディのゴールをこじ開ける。やや活気を失いつつあった青赤のゴール裏が一斉に沸き立ち、味スタの雰囲気は一変。「ヴェルディだけには負けられない」のチャントが響き渡り、普通の声量で会話するのも難しいほどの異様な熱気となってきた。

このまま飲まれるわけにはいかないヴェルディも応戦。後半の攻撃の中心は途中出場の山見だ。投入ポジションは2トップの一角のようだが、得意の左サイドでボールを受け、切れ味鋭いドリブルで東京の守備を破壊しようとしてくる。72分、その山見が左サイドのハーフスペースまで侵入し、シュート性の速いボールを中に蹴り込むが、これはポストに当たったようで枠の外に外れ、肝を冷やす。東京は人数をかけて攻撃した後に反撃を食らうと十中八九数的不利となるため、とにかく出来るのはボールに厳しく当たり、撃たせないこと。ここでやられたらゲームオーバーだ。

83分、東京は最後のベンチワークで高と小泉のボランチ2枚を下げ、原川とジャジャが入る。リスクのあるベンチワークだが、理詰めではどうにもならないこの状況下ではどこかでゲームを「壊しにいく」必要があり、それがこのタイミングでの判断となったか。数的不利ながらボールは五分以上でポゼッションできており、とにかく早く前線にボールを運ぶしかない。89分には東京のCKからヴェルディにボールを回収され、ロングカウンターから山見にフィニッシュへ持ち込まれるが、波多野がスーパーセーブを見せて勝点奪取への執念を見せる。

「4分」と掲示された後半追加タイムが進み、試合終了が迫る中、東京は土肥とエンリケを前線に上げてパワープレイを開始。波多野がロングフィードを送り込み、これをエンリケが競って仲川がボールを回収。仲川をサポートした遠藤がパスを受けてゴールと対峙した瞬間、一斉に「撃て!!」の声がスタンドから上がる。遠藤がボールをちょこんと横に持ち出してから左足を振り抜くと、地を這うようなシュートがGKの伸ばした手を掠めるようにしてゴール左隅に突き刺さった。青赤のスタンドが総立ちの歓喜と熱狂に包まれたのは言うまでもない。まさに土壇場の土壇場、AT4分に遠藤のドッペルパックが炸裂し、10人の東京が2-2の同点に追いつく。

僅かに残された時間でも東京は更に逆転を目指した。右サイドを押し込んでCKを獲得し、原川が蹴り入れたボールにエンリケが競り勝ってヘディングを放つが、これをGKのマテウスがどうにかキャッチしたところで試合終了のホイッスル。マテウスが悔しそうにボールをピッチに叩きつけた光景が印象的だった。10人の東京が2点差を追いつく執念を見せ、久々に実現したリーグ戦の東京ダービー・第1ラウンドを2-2のドローで終えている。

impressions

1年に1試合観られるかどうかのスリリングかつ劇的な試合展開で、東京がライバルチームの勝点を奪い取ったゲームだった。簡単な試合にはならないだろうという予想は立てていたが、これほどまでに苦しい一戦になるとはさすがに想像できなかった。しかし東京の選手たちは最後まで絶対に諦めずに戦い抜いた。久々に味スタの南側スタンドに陣取った青赤のファンも、ホームゲームに勝るとも劣らない声量で選手たちを後押し、絶対的に有利な立場のはずのヴェルディに圧力を掛け続けた。様々な要素が重なって、この劇的な結末に繋がったといっても過言ではないだろう。

前半はヴェルディにとって理想の試合展開だったはずだ。その要因は高い位置からのプレスを中心とした積極的な守備により、東京が思うように試合を組み立てられなくした点が大きい。東京としては、ロースコアの展開に持ち込まれて1点勝負になるのは嫌だったはず。それだけに前半で試合の大きな流れを決めてしまいたかったのではないかと想像するが、ヴェルディの守備に苦しめられ、しかもPKで先制を許す展開。更にエンリケの不用意なパスを狙い撃ちされてカウンターを浴び、前半だけで痛恨の2失点となった。この2失点は大きな課題といえる。PKを与えた安斎のファウルは軽率だったと言わざるを得ないし、相手の圧力を受ける時間帯でセカンドアタックを受けるリスクがあるグラウンダーのパスを選択したエンリケの判断も、的確だったのかは議論の余地があると思う。

安斎の退場は間違いなく痛手だった。初めてのダービーマッチで気負いすぎたのかは分からないが、激しい守備が裏目に出てしまった。しかし他方で、この退場によって逆に東京のやるべきことがシンプルになったことも確かである。後半、ベンチの判断は的確だった。仲川と小柏のポジションを整理してサイドの守備対応を明確にし、後半立ち上がりのヴェルディの攻勢を耐え、そこから寺山と遠藤を入れたのが大きなターニングポイントになった。寺山が疑似1トップの役割を果たし、左サイドに入った遠藤がFWの役割を兼ねることで、ヴェルディは守備の対応が難しくなったのではないか。そこへ手数をかけずシンプルに横から揺さぶりをかけることで生まれたのが1点目の場面だ。白井のインターセプトからの攻め上がりとクロス精度は完璧だった。これで明らかに潮目が変わった。

今季からチームに加わった遠藤はここまでチームの中で目に見える結果を残せずにいたが、この大一番で2得点と圧巻の仕事人ぶり。一躍チームの救世主となった。横浜に所属していた頃からドリブルが持ち味の印象があったが、フィニッシャーとしても高い能力を持ち合わせていることがよく分かった。特に2点目は後にDAZNでチェックしたところ、ゴールマウスの外から巻いて枠内に収める非常に難度の高いシュートだった。あの重圧が掛かる状況下でよくぞ撃ちきったものだと思う。遠藤の使い方が分かってきたという点でも、収穫の多い試合だった。

敗色濃厚な展開から巻き返し、ヴェルディの勝点を削り取ったという点で痛快な結末であったことは言うまでもないが、この試合がドロー止まりであったことも忘れてはならない。遠藤の同点ゴール後に選手たちの歓喜の輪ができた一方、下部組織育ちの寺山が全く喜ぶ素振りも見せずにボールを回収してセンターサークルへ戻した光景が象徴的だったが、ヴェルディとの試合はやはり「勝たなければ意味が無い」のも確かだ。ヴェルディとは8月の第27節のホームゲームで次の対決を予定している。観客数、試合内容、そして結果で今後こそ彼らを圧倒してもらいたい。

国立競技場での2連戦に続き、ヴェルディとのダービーマッチというテンションの高い試合が続いているが、この後も厳しい日程は続く。中3日で迎える4月17日にはルヴァンカップでJ3のY.S.C.C.横浜の挑戦を受け、更に中3日の4月21日には現在好調のFC町田ゼルビアを味スタに迎えてのリーグ戦が待っている。引き続きU-23日本代表組が不在の中で厳しいメンバーのやり繰りを強いられることになるが、幸いにしてチームの雰囲気は非常に良い。一戦一戦を丁寧に戦い、このムードを継続していくことを望みたい。

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