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『天真爛漫ミイラガール』第3話(全3話)

15. 爛子の実家・部屋(朝)

寝起きの爛子。相変わらず包帯まみれ。カーテンを開け窓の外を眺めている。そこへスマホに着信。
画面を見て慌てて姿勢を正し、一度スマホを机に置き、手を合わせ祈ってから出る。

爛子「(深呼吸して)もしもし」

三橋・声
「あ、もしもし三橋です」

爛子
「お疲れ様です」

三橋・声
「お疲れ様です遅くなってすみません、こないだの最終選考の件なんですけど」

爛子
「はい」

三橋・声
「バラシになりましたので、来週の木曜は空けちゃって大丈夫です」

爛子
「……」

三橋・声
「で、再来週の再現のオーディション、そこに入れちゃっても大丈夫ですかね、また後でメールでも詳細送りますけど……あれ、もしもし聞いてます?」

落ち込んでいる爛子。


16. 爛子の実家・キッチン

洗い物をしている爛子。溜め息。インターホンが鳴り出る。


17. 爛子の実家・居間

座っている香織(51)にお茶を出す爛子。

香織「単刀直入に言うけど、爛子ちゃんこれからどうするの?」

爛子
「はい……」

香織
「姉さんこのまま一人って訳にはいかないだろうし、ステージ2って言ってもこれからが大変なんだから」

爛子
「……え?」

香織
「姉さん保険にも入ってたから、お金は大丈夫みたいだけど」

爛子
「ちょ、ちょっと」

香織
「ん?」

爛子
「え、お母さん、癌なの?」

香織
「やだまだ聞いてなかった?」

爛子
「……」

香織
「昨日の夜に電話で聞いたからてっきり、こんな事言うのもあれだけどさ、姉さん、爛子ちゃん育てるのに一人で必死に頑張ってたんだから、女優さんとかよくわかんないけど、こんな時くらい近くに居てやらないなんて、親不孝なんじゃないの?」

黙って聞いている爛子。


18. 爛子の実家・玄関

香織「じゃ、ちゃんと話すんだよ」

出て行く香織に頷いて、見送る爛子。


19. 道路〜バス〜病院

放心状態で歩く爛子のモンタージュ。
場所が道路から、バスの乗車、病院の廊下へと変わる。


20. 病室

入ってきた爛子の暗い表情を見て、状況を悟る母。


21. 病院の屋上

母が座る車椅子を押す爛子。

「気持ちいいね」

爛子
「……お母さん、私がこっち帰ってきたら、嬉しい?」

爛子の顔を見上げる母。

「そんな顔されてたら、嬉しくないな」

爛子
「私、お母さんに親孝行とか、何にもしてない」

「爛子、お母さんが一番嬉しい事ってなんだと思う?」

爛子
「……なに? 宝クジ?」

「それはねぇ、爛子が世界で一番幸せになること、誰よりも一番、その為にお母さん頑張って来たんだから」

爛子
「……」

「お母さんのせいで、爛子がやりたい事をやれなくなるなんて、それこそ親不孝なんだから」

爛子
「うん……」

「お父さんだってお金残してくれたし、こっちには香織おばちゃんも居るから」

後から母に抱きつく爛子。


22. 爛子の実家・居間

仏壇前で遺影を見つめる爛子。


23. 爛子の実家・部屋

賞状やアルバムを片付けている爛子。相変わらず包帯にまみれている。
思い付いたようにスマホを取り出し、電話をかける。


24. 町内会ホール・座席

中央に木下先生が座っており、後ろから爛子が近づく。

爛子「木下先生!」

時間経過。二人で横に座って話ている。

木下先生「そう、それがいいわね」

爛子
「3時間もあれば、直ぐに電車で来れますし」

木下先生
「そうね」

爛子
「どこまでやれるかわかりませんが、私もう少し、頑張ってみようと思います」

その言葉を聞いて考え込む木下先生。

爛子「なんかすみません! 急に来てこんな話、ありがとうございました」

何も言わない先生に対し、その場を去ろうと立ち上がり頭を下げる爛子。

木下先生「……爛子さあ」

爛子
「はい」

木下先生
「……私は、無理だと思う」

爛子
「え?」

木下先生
「何年かやってみて身に沁みたと思うけど、そんな甘い世界じゃないし、あなたのレベルじゃ通用する世界じゃないわ」

その言葉に動揺する爛子。先生も立ち上がり、爛子の方を向く。

木下先生「才能ある人なんて世の中ごまんといる、あなたじゃ無理よ」

カメラを切り返すと、そこには制服姿で卒業証書の筒を手に持つ爛子が居る。先生の言葉にショックを受け、固まり目を伏せている。
再びカメラを切り返すと5年前の木下先生。

5年前の木下先生「頑張れば報われるなんて思わない方が良い、あなただって何年かしたら戻ってくる事になるだけよ」

先生は、そう言いながらも拳を強く握り、言葉を捻り出している。

現在の木下先生「諦めるなら早い方が怪我は少ないわ」

現在の木下先生も、拳を強く握り締めて言葉を絞り出している。

木下先生「どこまでやれるかわからないとか、もう少し頑張ってみる程度でどうにかなる世界じゃないのは身を持って分かったでしょ! やるならとことんやるしか意味ない、それが出来ないなら行くだけ無駄よ」

現在の爛子がゆっくりと木下先生を見る。
高校生の爛子が卒業証書の筒を握り潰す。
現在の爛子の口元に笑みが出る。

爛子「できます!」

木下先生も爛子の言葉を聞きニヤリと笑い、もう一度強く言い返す。

木下先生「あなたじゃ無理よ!」

爛子
「絶対にできます!」

食い気味に否定する爛子の言葉に、笑い合う二人。

木下先生「絶対にあなたじゃ無理よ!」

爛子
「絶対に絶対できます!」

笑顔の二人。


25. 爛子の実家・部屋

ベッドの上に賞状、その横にメダルが入っていた空の小箱。


26. 湖のほとり(夕方)

夕陽が水面に反射している。そこを歩く爛子。持っている鞄には金メダルが付いている。電話をしている。

爛子「来週の木曜、大丈夫です、あと、明日には東京戻るので、明後日のオーディションって、やっぱり出られませんかね?」

電話をしながら力強い足取りで歩く爛子。
スルスルと全身を覆っていた包帯が取れて、風に飛ばされていく。


『天真爛漫ミイラガール』終わり

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