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#8 映画『命乞いコレクター』最終回!

さて、バイオレンスコメディ映画企画『命乞いコレクター』の気まぐれ連載もいよいよ最終回となりました!

まずは、前回の命乞いシーンで助かったクズ男、冨田のその後のシーンを紹介します。彼が電話ボックスにたどり着くのは、画的に好きだからというのもありますが、ヌエたちに拉致されたとき、携帯を奪われたからです。

【山小屋からの生還】

◯山の中
  両手に札束を持った冨田が走っている。
  戸惑いと生の実感が混在した表情。
  速度を緩め、来た道を振り返り、また走りだす。
  ☓  ☓  ☓
  冨田、立ちションしている。
  傍らの茂みの上に札束が置かれている。

◯田舎の街(時間経過)
  日が落ち始めている。
  ようやく街に辿りついた冨田、くたびれた様子だ。
  シャツの一部に包んでいる札束を覗き込み、空を見上げる。

◯電話ボックス
  冨田、電話をかけている。
冨田「あんなに女がいて、覚えてんのはこの番号だけかよ・・・(相手が出る)もしもし、俺俺。いや詐欺じゃねえよ。治だよ。その、なんだ、うまいもんでもご馳走しようと思ってさ・・・」
  会話が続く中、ボックスの外からのワイドに切り替わり、冨田の声が聞こえなくなる。

たくさんの女性と同時に付き合っていることが冨田を危険に晒したわけですが、自分の無事を伝えようとした時、番号をちゃんと覚えていたのは母親だけというアイロニー。可愛いシーンかなという気もします。

そして、この連載で紹介する最後のシーンは、やはりヌエたちのシーンです。中盤のどこかに入るかも知れない。でも無くてもさほど問題はない。僕のイメージでは、そういうシーンが多い映画です。

人殺しが日常化してしまった結果、感覚が麻痺する。でも映画によく出てくるサイコパス的な麻痺の仕方は芸がなくて好きじゃない。そういうわけで、死ぬ前のターゲットと写真を撮ったり、そんな現場なのに着ぐるみを着たりするシーンを書いてみました。

【クマの着ぐるみ】

◯雑居ビルの一室
  何かの上に並んで座っているヌエと梓。
梓「(精一杯色っぽく)ねえ、お願い。いいでしょう?」
ヌエ「それが君の色仕掛けの最大出力なんだ」

  梓、ヌエの玩具の拳銃の先を舐める。
ヌエ「引くわぁ、何なら引き金も引くわぁ」
  梓、諦めてプイと態度を変え、
梓「いいじゃん1回くらい。減るもんじゃなし」
ヌエ「減るもん…じゃないけど、増えるんだよ」
梓「何が?経験値が?」
ヌエ「馬鹿。罪が」

  二人は、縛られてうつ伏せの男の上に腰掛けていた。
  縛られた男、自分の命運を握るカップルの話しを荒い息で聞いている。
梓の声「こんなゴキブリみたいな奴殺して罪になる?」
ヌエの声「ゴキブリみたいであってゴキブリではないからね」
梓の声「そんなに違う、殺虫と殺人?」

  ヌエ、携帯を取り出しながら、
ヌエ「つーか遅いね、浜崎さん」
梓「今更罪が1個増えてもなぁ」

ヌエ「殺人は罪5個分はあるんじゃない?(縛られた男を見て)こいつじゃ3個分かな」
  と、そこにドアが開く音がして、
浜崎「すんません、遅れちゃって!」
  声の方を向くヌエと梓。
  浜崎、何故かクマの着ぐるみを着ている。
  急いだのだろう、息が上がっている。
ヌエ「んー、どこの動物園から逃げて」
浜崎「(遮って)何も言わないで!察してやってください」
ヌエ「(梓に)察するのが難しいね」
梓「これが終わったら仮装パーティーなんじゃない?」
浜崎「そうです!それです!素敵でしょう?」


◯街角(カットイン)
  着ぐるみ姿の浜崎がビラ配りをしている。
浜崎「パチンコくまじろうでーす」

◯雑居ビルの一室
  ヌエ、手招きで浜崎を呼び、近くの床をさして立ち位置を指定する。
  浜崎、訳が分からないままそこに立つ。
ヌエ「(携帯を梓に渡して)ちょっと撮って」
梓「なにそれ、あたしと写るの嫌がるのに?」
ヌエ「(縛られた男を指して)こいつも入れる感じで」
梓「(カメラ構えて)√4は?」
ヌエ「(にっこり)2」

  しかし浜崎は、始めて聞いた掛け声に困惑した表情。
  その瞬間シャッターを切る梓。
  梓、撮った写真をヌエに見せに行く。
浜崎「え、なんすかそれ!」
ヌエ「こいつ変わった掛け声が好きでさ。しばらくは『タラバガニ~』が流行ってたな。(写真について)いい構図じゃん」
梓「へっへーん、黄金比だよ」

  ヌエ、梓の頭を撫でる。
ヌエ「さて、記念写真も終わったところで、浜崎さんそれ脱ぎましょうか」
浜崎「(ん?という間があり)あ、着てみますか?」
ヌエ「まさか。ほら、これから人ひとりあの世へ送り出すってのにその格好はあんまりでしょう」

  ☓  ☓  ☓
  着ぐるみを脱いだ浜崎、バットを振り上げて、
浜崎「おらあ!」
  と、手前に振り下ろす(縛られた男は映っていない)。
浜崎「さっさと吐けよ、仲間の名前をよ!死んじゃうよ」
  奥でこそこそと着ぐるみを着ようとしているヌエ。
  梓、手伝っている。
  浜崎、何度かバットで殴って、
浜崎「おい、もっと命を大切にしようぜ、な。(男が動かなくなっているので)あれ…?」
  ヌエ、状況に気付いて、
ヌエ「なにやってんのさ」
  浜崎、振り向いて初めてヌエの着ぐるみに気づく。
浜崎「ヌエさんこそ何やってんすか?」
ヌエ「見ての通りだよ」

グループ

企画意図

最高のバイオレンスコメディを作りたい。
日本には、バイオレンス・コメディ映画が少ない。
それはおそらく、暴力 シーンで笑わせることは不謹慎だという考え方が根付いているからだ。しかしこの「不謹慎」とは一体何だろう?

不謹慎だからやめなさい、迷惑だからやめなさい。
子供の頃から「人からどう思われるか」意識することを強いられるこの国 では、毎年3万人が自ら命を絶っている。どんな暴力映画よりも人が死んでいるではないか。

1本の映画で、それを変えようとか、何かしらの答えを出そうとするのは難 しいかも知れない。しかし、何を言うべきか、どう振舞うべきか、そんなことに世界一うるさいこの国の息苦しさに、風穴を空けたい。

残酷でも面白いと思ったら笑ってもいい。笑うのを我慢するより、つい笑ってしまった後の不思議な罪悪感を感じられる方が、豊かな映画体験であり、生き方である。

命乞いを集めるヌエに出会う観客は最初「なんて酷いことをするのだろ う?」と感じるかも知れない。
しかし次第に感覚が麻痺して「次はどんな命乞いを聞けるのだろう?」と思うようになり、映画を観終わってからは「自分はどんな命乞いをするだろうか?」と考える。

そのようにして、大事なことを見つめ直してもらいたい。

最後に

バイオレンスコメディ映画『命乞いコレクター』いかがでしたでしょうか?この映画に興味がある・実現に向けて手伝いたいというプロデューサーを探しています。拡散やご紹介など、何卒よろしくお願いします。

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