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『成仏(フィナーレ)は劇場で』最終話(全6話)

24. 廃劇場

   歌手子が走ってくる。トニーが追いか
   けて入ってくる。

トニー「藤川!あぶないぞ!」

歌手子「村松さん!イオリさん!」

トニー「藤川!」

歌手子「トニーさん、私、オーディションの
 ために、ここで特訓してもらったんです」

トニー「ここで?誰に?」

歌手子「イオリさんと…ベルナルド村松さん」

トニー「おい、悪い冗談はよせ」

歌手子「冗談じゃないんです。ほんとなんで
 す。いるんです!ベルナルド村松は!ここ
 に!村松さん!イオリさん!」

   イオリが出てくる。

イオリ「歌手子ちゃん!公演はうまくいったの?」

歌手子「イオリさん!はい、おかげさまで…
 村松さんは?」

村 松「いるぞー」

   へとへとの村松も出てくる。

歌手子「村松さん!」

トニー「おい、ひとりで何言ってるんだ藤川」

村 松「はは、トニーじゃねぇか。おいトニ
 ー!ここを取り壊そうったって無駄だぞ。
 おれがいる限りな。歌手子、トニーに伝え
 ろ」

歌手子「トニーさん、ここを取り壊そうった
 って無駄だって、村松さんが…」

トニー「何言ってるんだよほんとに」

歌手子「ここにいるんです、村松さんが」

トニー「(ため息)じゃあ、ここにいるとしよ
 う、村松が。じゃあおれの声も聞こえるん
 だよな?あいつに」

歌手子「聞こえます」

トニー「ベルナルド!聞こえるか!勘違いす 
 るな!ただ取り壊すんじゃない!新しく劇
 場としてリニューアルするんだよ!覚えて
 るか?おれたちの勝負!おれの勝ちだ!ト
 ニー劇場をつくるんだよ!」

   歌手子、村松、イオリ、きょとん。

三 人「…へ?」

歌手子「そうだったんですか?」

トニー「全公演が終わったらお前に話そうと
 思ってたんだけどな。若手が舞台に立てる
 劇場にしようと思ってる。だからお前もこ
 こで、定期的に歌わないか」

歌手子「え…あ、はい!ありがとうございま
 す!そんな…」

イオリ「よかったじゃない歌手子ちゃん!」

村 松「な、なーんだなんだ、そういうこと 
 だったのか!さすがトニーだ!死ぬ気で抵
 抗して損したわ!」

イオリ「オッサンね、ポルターガイストで業
 者を撃退しちゃったの…」

歌手子「ポルターガイストで…撃退…」

トニー「今日の工事が中止になったのは、村
 松の仕業ってことか?ははは、信じられん
 が、辻褄は合うな。おいベルナルド!また
 無駄なことしやがって!悪いがここは…」

   しゃべってる裏で村松が歌手子にのり
   うつる。

村&歌「トニー劇場。やりやがったなトニー」

トニー「村松…?」

村&歌「ああ。よく勝負のこと覚えてたな。
 お前の勝ちだ。全部な。孔雀の女王も、劇
 場のことも。全部、おれの負けだ。まいっ
 たよ」

トニー「いや…まだだ」

村&歌「まだって、おれ死んだんだぞ」

トニー「劇場の名前はな…トニー、&ベルナ
 ルドだ。共演者は、最後まで付き合うんだ
 ろ?名前だけでも、最後までおれの夢に付
 き合え」

村&歌「はっはっは。ほんとに、お前には負
 けるぜ…地獄で見守ってやらあ」

   村松、トニーに握手を求める。トニー、
   応じる。

村&歌「まかせたぞ」

トニー「まかしとけ」

   村松、歌手子から離れる。

村 松「お、お、お…なんか体がおかしいぞ」

イオリ「オッサン…」

村 松「なんじゃこりゃ!体が軽くなってく」

イオリ「成仏だよ」

村 松「まじか…」

イオリ「歌手子ちゃん、またね」

歌手子「成仏…村松さん!イオリさん!ほん
 とにありがとうございました!ふたりのお
 かげで、わたし!」

イオリ「がんばってね!」

村 松「がんばれよ!お前が死んだらあの世
 でまた特訓してやる!」

歌手子「お願いします!トニーさん!村松さ
 んが成仏しちゃう!」

トニー「おうおうおう急だな。ベルナルド!
 元気でな!」

村 松「元気なわけあるかい!トニー!」

   トニー、聞こえている様子。

村 松「さらば、孔雀の女王!」

   村松とイオリ、消えて行く。
   残された歌手子とトニー。

歌手子「トニーさん、村松さんが…」

トニー「聞こえたよ」

歌手子「え…」

トニー「行こう。明日も公演がある。寝坊す
 るなよ?」

歌手子「はい…」

   去り際、地面に落ちたウエストサイド
   物語のチラシを拾うトニー。

トニー「またな、ベルナルド」

   チラシを持って去って行くトニーと歌
   手子。


〜『成仏(フィナーレ)は劇場で』終〜


※本作は2016年2月、funnyBの公演として田中あいみさんの演出で上演されました。前半の劇中曲の歌詞はやまだゆりこさんによるものです。

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