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『天真爛漫ミイラガール』第1話(全3話)

1. 都会の道路

道行く人々とすれ違いながら、颯爽と歩いている爛子(23)
全身の7割が淡いピンクの包帯でぐるぐる巻き、左目は包帯で隠れ、左腕もギプスで固められ三角巾で吊るされている。
異様な風貌の彼女だが、道行く人々は誰も彼女に目を止める事もなく、爛子も真っ赤なスーツケースを引きながら軽快に歩いている。

タイトル「天真爛漫ミイラガール」


2. 田舎の駅前の駐車場

改札を出て駅から駐車場へ歩いてくる爛子。
駐車場で待つ恵(23)曽太郎(23)を発見し、大きく手を振り回しながら駆け寄る。全身包帯の姿に、二人も何のリアクションは無い。

爛子「二人ともありがとー」

「変わんないね爛子は」

曽太郎「相変わらず元気そうだな」


3. 走行中の車内

曽太郎が運転し、助手席に恵。恵は妊娠しておりお腹を抱えている。
後部座席にはベビー用品の箱が積まれており、爛子はその横でアメリカンドッグを満面の笑みで頬張っている。

爛子「うぅ美味しいよホットドッグ、これ部活帰りみんなで食べたよね」

曽太郎「そうだっけ? 記憶ねえ」

「食べてたの爛子だけでしょ、ちなみにそれアメリカンドッグね」

爛子
「ん? ふぁにが?」

曽太郎
「でも良かったよ、お母さんの事心配で落ちてんじゃないかと思って」

爛子
「そりゃ心配だけど、なんか、大丈夫そうだって言ってた」

曽太郎
「てか良いのか? 女優がそんなジャンキーなもん食べてて、ほらダイエット的な事とか……」

爛子
「あー私もう全然! ここんとこオーディション続きで、バイト行けなくて全っ然ご飯食べれてなくて」

「あ、そうだ、こないだテレビで爛子観たよ」

曽太郎
「あれな!」

「なんだっけ、サプリメントのCMだったかな?」

爛子
「あぁ、あれはもう、ただ後ろでお肉食べてただけだから、あぁ、あの時のお肉美味しかったなぁ」

「急に映ったからビックリしたもん、出るなら教えてよ」

爛子
「いやぁ、テレビはもう、こないだの再現ドラマも全カットだったし、結構頑張ったんだけどね……」

落ち込む爛子の
を察してフォローする曽太郎。

曽太郎「まあ! テレビは、なんかそういうもんなんじゃないの?」

爛子
「あ、餃子食べたい」

曽太郎
「なんだよ急に」


4. 道の駅の駐車場

車から降りる曽太郎。

曽太郎 「あぁっ、漏れる漏れる!」

車内には爛子と恵。
爛子はどこか寂しげに窓の外の景色を眺め、開いた窓から入ってくる風に包帯がなびいている。その姿を横目で見つめる恵。

「爛子、なんかあった?」

爛子
「え?」

「お母さんも心配だろうけど、なんかちょっと、この一年で雰囲気変わったんじゃない?」

爛子
「そう〜? 色気でたかな〜?」

真剣な表情の恵。

爛子「あーあ、やっぱ部長にはバレバレなんですかねぇ」

「ご飯、食べれてないの?」

爛子
「それはまあ大丈夫なんだけど、なんか色々、積もり積もってって感じかな」

「……高校演劇とは違う世界か」

爛子
「まあでも(作り笑顔で)判ってた事だから! 頑張るよ!」

「うん」

爛子
「にしても恵と曽太郎の子供かー!」

「ふふっ」


5. 病院の正面玄関

車内から顔を出す曽太郎と恵。既に降りている爛子と話している。

「じゃ私達、買い物してるから」

爛子
「うん」

曽太郎
「爛子ママに宜しく!」

爛子
「おうよ」

発進する車。見送る爛子。


6. 病室

コンコココンと軽妙なリズムでドアがノックされる。

「はーい」

ドアから包帯姿の爛子がひょっこりと顔を出し、入ってくる。

爛子「お母さーん?」

「爛子ー」

恐る恐る母(55)に近づく爛子。

「ごめんねー忙しいのに」

爛子「ううん全然平気」

「なんか香織おばちゃんが爛子も呼べって、大丈夫なのに」

爛子「……本当に、大丈夫なの?」

「(笑顔で)大丈夫!」

爛子は安堵の後、急に瞳を潤ませて母に抱きつく。
少し戸惑う母。
爛子の顔をジッと見つめ、包帯だらけの頭を優しく撫でる。

「どうしたのかな爛子ちゃん」

爛子
「うん?」

「なんかあった?」

爛子
「……なんでもない、お母さんが心配だっただけ」

「あら嬉しい、でもね、こっちは長年お母さんやってるんだから」

爛子
「……」

「……大変だったの?」

爛子
「……うん」

爛子の頭を撫でる母。

爛子「頑張っても頑張っても、最近全然、上手くいってる気がしなくて」

「そっかぁ、大変だったね」

時間経過。
母のベッドにうつ伏せでもたれ掛かりながら話す爛子。
優しく肩を擦る母。

爛子「酷いでしょ? 私の方が絶対その役にも合ってたのに、その子全然台詞も入って無いんだよ」

「ズルいね」

爛子
「ズルだよ……そんなの……」

ベッドから身体を起こしスマホを見る爛子。
すると、今までずっと左目を隠していた包帯と左腕のギプスが消え、包帯は全身の5割に減っている。

爛子「そろそろメグ達来るかな」

「そっか」

爛子
「じゃあ明日また来る、検査結果はまだなんだよね?」

「一週間はかかるって言ってたから、明日か明後日じゃないかな」

爛子
「うん、わかった」


『天真爛漫ミイラガール』第2話へ続く

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