キリスト教の四元素

 キリスト教とは何でしょうか。その定義はいろいろとありそうですが、キリスト教をキリスト教にしている四つの要素がありそうです。これを、火・風・水・土の四元素にならって、キリスト教の四元素と呼ぶことにしましょう。

 キリスト教はすべて、これからご紹介する四つの要素でできているのです。それぞれの頭文字は、A・B・C・D。なんだか、じつに覚えやすいですね。これからそれぞれの要素を、順番に見ていくことにします。

 まずは……なぜかBから(笑)。

B:バイブル(聖書)

 まずはバイブル、聖書です。英語でBible(バイブル)ですから、頭文字は「B」。聖書は、the Book(bookだと普通の本。聖書はBが大文字になる)とか、the Book of Books(本の中の本)などと呼ばれることもあります。どれも頭文字は「B」です。

 キリスト教の聖書は、全体の四分の三ぐらいを占める旧約聖書と、四分の一ぐらいの新約聖書に分かれています。(旧約聖書のボリュームがもっと多い場合や、旧約聖書と新約聖書の間に続編や外典と呼ばれる部分がはさまった聖書もあります。)旧約聖書は、イエス・キリストの時代にユダヤ人が使っていた古代ユダヤ教の聖書。イエスの死後、最初のキリスト教徒たちが書いた文書の集まりが新約聖書です。両方合わせて、キリスト教の聖書です。

 キリスト教は聖書の宗教です。キリスト教には二千年の歴史があり、今では世界中にはさまざまなキリスト教があります。カトリックやプロテスタントは有名ですが、プロテスタントは多くのグループに分かれていますし、他にも東方正教があります。また、これらに属していないグループもあります。

 しかしそれがキリスト教である限り、信仰の拠り所となる聖典は聖書です。とにかく聖書なくしてキリスト教はありません。それだけでなく、聖書以上に権威のある聖典があると教えたり、聖書に書かれていない秘密の教えがあるなどと説くグループがあれば、それはもうキリスト教ではありません。

C:チャーチ(教会)

 キリスト教の成立に不可欠な二番目の要素は、キリスト教を信じる人たちの共同体、つまり教会です。教会は建物のことではなく、信者の集いのことです。教会は英語だとChurch(チャーチ)。頭文字は「C」になります。

 一般的には、キリスト教で礼拝や集会のために使う専用の建物を、教会と呼ぶと思います。でもそうした建物を持たない教会も、じつは少なくありません。日曜日ごとにファストフード店やファミレスで集会を行ったり、信者の自宅で集会を行うグループもあります。しかしそこにキリスト教を信じる人がいて一緒に祈るなら、それは間違いなく「教会」です。

 共同体は英語だとCommunity(コミュニティ)。教会に集う信者同士の交流を、英語ではCommunion(コミュニオン)と呼びます。頭文字はすべて「C」です。

 信者たちの共同体である教会は、二千年前にキリスト教が誕生した時から存在し、あらゆるキリスト教の母体になっています。聖書の後半にある新約聖書は、教会の中で書かれたのです。紹介の順番は逆になりましたが、聖書から教会が生まれたのではなく、教会の中から聖書が生み出されました。信者の共同体である教会なくして、キリスト教はありません。

D:ドクトリン(教義・教理)

 教義は英語でDoctrine(ドクトリン)。Dogma(ドグマ)という言い方もあります。どちらも頭文字は「D」です。

 キリスト教の信仰の基準になるのは聖書ですが、聖書の言葉をどう解釈すべきか、聖書に直接書かれていない内容をどう判断すべきかについては、教義や教理を基準にして判断します。

 キリスト教にはさまざまな信仰グループがあります。教会の運営方法や雰囲気にはそれぞれ特徴があり、場合によっては大きく異なっていることもありますが、そこで信じられている内容は基本的にどこも同じです。

 例えば、キリスト教の神は父と子と聖霊の三つの位格を持ちつつ、本質は一体でひとつの神だという三位一体説。イエス・キリストは真(まこと)の神であり、同時に真の人であったという一位両性説。こうした基本教義は、世界中のどの教会に行っても共通なのです。教義や教理とは直接関係ありませんが、クリスマスやイースター(復活祭)などの教会行事も、世界中のほぼすべての教会で同時に祝われます。

 キリスト教は誕生から数百年のうちに、基本教義や教会の暦などを決めて、あらゆる教会で共有するとにしました。現在の教会は千年以上昔の教会が決めた教義や暦を、今も忠実に守っています。これが「正統派」と呼ばれる、伝統的なキリスト教です。

 聖書を読み、信者の共同体としての教会が存在しても、古代の教会が定めた教義や教理を無視するグループが存在します。これは「異端」と呼ばれて、伝統的なキリスト教からは「キリスト教に似ているが、キリスト教ではない別の宗教」として扱われます。

 聖書を読むだけで、キリスト教はわかりません。教会に通えば、キリスト教がわかるわけでもありません。伝統的な教義や教理を通して聖書を読み、伝統的な教義や教理に沿って教会の教えを聞くことが大事です。

A:アーメン(信仰)

 キリスト教の四元素、最後のひとつは頭文字が「A」の言葉で探しました。それは「アーメン」です。英語だとAmen。頭文字は「A」。これはキリスト教徒が祈りの最後に付ける言葉ですが、ヘブライ語の「本当に」とか「まさにその通りに」という意味だとされています。

 キリスト教に隠された教えはありません。情報はすべて外部に公開されています。信仰なしに聖書を読むことも、教会に通うことも、教義・教理を学ぶことも可能です。しかしそこで学んだことや体験したことに、「アーメン」「本当です」「まさにその通りです」と言える信仰がなければ、それはキリスト教とは言えないのです。

 僕のようにキリスト教信仰を持たない者には、キリスト教は聖書と教会と教義の理解でこと足ります。しかし信仰の有無が、キリスト教の中にいる人と、外側にいる人を決定的に分けることになる。キリスト教の四元素のうち、信仰こそが最も重要と言えるかもしれません。

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