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作り手の熱意は伝わるが何かが足りない 『リボルバー・リリー』

8月11日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 明治の終わり頃。台湾に設立された日本の諜報機関の一員として、数々の暗殺事件に関わった少女工作員がいた。愛用の大型回転式拳銃から「リボルバー・リリー」の異名を持つ彼女は、その後忽然と姿を消す。

 大正13年の東京・玉の井。リリーこと小曽根百合は、東京屈指の私娼街で銘酒屋の女主人になっていた。彼女は台湾時代の同僚だった国松が、秩父で一家皆殺しの重大事件を起こして死んだことを知る。事件の真相を探るため、百合は秩父へ。そこで偶然助けたのが、事件のただ一人の生き残りである少年・細見慎太だった。

 慎太の家族や国松を殺したのは陸軍の軍人たちだった。彼等は慎太が持ち去った書類と慎太の身柄を追っている。慎太は父から「何かあったら、玉の井の小曽根百合を頼れ」と言われていたという。

 陸軍は目の色変えて何を追っていたのか? 百合は慎太を守るため、10年の歳月を経て、封印していたリボルバーを再び握りしめるのだった。

■感想・レビュー

 綾瀬はるか主演のアクション映画。関東大震災によってそれまでの「大正デモクラシー」の世界が瓦解し、軍の勢力が台頭して少しずつ戦争への道を歩んでいく大正末期の日本が舞台だ。

 リリーがいる「玉の井」は現在の墨田区東向島で、永井荷風の小説「濹東奇譚」の舞台としても知られる私娼窟。大震災のあとは吉原遊郭からここに移転してくる遊郭も多く、あっと言う間に東京の一大歓楽街へと発展したという。荷風が玉の井通いをするのは昭和11年頃なので、『リボルバー・リリー』に描かれた時代の10数年後だ。「玉の井」は戦争で消失するが、その様子は滝田ゆうの「寺島町奇譚」に描かれる。

 中年ヒロインが少年を守って巨大な暴力組織相手に大暴れという筋立ては、ジョン・カサベテスの『グロリア』(1980)と同じだ。綾瀬はるかが中年女性というのは「違うだろ!」と言われそうだが、物語の設定としてはそれで間違いない。彼女は10年前に亡くした自分の子供の面影を、軍に追われる少年に重ね合わせて銃を握るのだ。

 素材としては面白くなりそうな設定の映画だが、残念ながら僕はあまりノレなかった。まず話の前提が入り組みすぎていて、活劇映画を動かす前提条件としては回りくどい。活劇はもっと単純でいいのだ。『グロリア』はもっと単純だし、同じ映画を下敷きにした『レオン』(1994)だって単純ではないか。

 主人公の行動が少しずつクライマックスへと移動して行く中で、彼女の過去の因縁話などが差し挟まれると物語のスピードが落ちてしまう。

 最後の濃霧の中の死闘は十分にスタイリッシュだと思うが、降りしきる弾丸の雨の中、兵士の撃つ銃はことごとくはずれ、リリーの撃つ弾丸は百発百中というのは少し興醒め。彼女が最後まで生き残るのはわかっているのだから、せめてもう少しハラハラさせてほしかった。シシド・カフカと古川琴音が合流するくだりも、より高揚する演出にならないものか。

丸の内TOEI 1にて 
配給:東映 
2023年|2時間19分|日本|カラー 
公式HP: https://revolver-lily.com/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt26744484/

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