“映人仲間”第六回『加藤菊役 三輪晴香さん』
映画『初めての女』の原作『俳人仲間』(新潮社)になぞらえて、本作の監督・小平哲兵が撮影当時のキャスト陣とスタッフ陣を振り返ります。
ド根性のある役者さん
9回目は、鶴昇・菊役の三輪さんについて振り返っていこうと思います。
三輪さんは「都会的な端正な顔立ちだが、性格は牧歌的で、何よりど根性のある役者さん」だ。
三輪さんとも、芋生さんや高橋くんと同じで役が決まってからの東京での稽古、そして高山での一週間の前のりでしっかりと役作りをして頂いた。
前のりでは、朝から夕方までお芝居の稽古をし、合間を縫っては三味線の稽古もし、夕食を済ませては、また三味線の稽古、脚本の更なる読み込みをして頂いた。
疲れなぞ見せずに作品の為、鶴昇・菊の為に一所懸命に打ち込んで下さっていた。
心が折れそうに……
しかし、ある日の晩に三味線の稽古が上手く進まない事に、涙を流し心折れそうになっていた(此方の準備不足が主な要因)
だが、持ち前のど根性で次の日にはケロっとし、お芝居、三味線の稽古、脚本の研究により一層邁進してくださった。
きっと、一人の時に迫りくる時間に追われながら、悩み苦しみ、迷いもあったと思うが「役になる」為に立ち向かって下さったのだと思う。
勿論、それまでも真摯に役に向き合っていたが、尚更に全身全霊でその瞬間に懸けてくれていたように思う。
行き場のないどこか哀しい人ばかり
この作品は、行き場の無いどこか哀しい人ばかりが出ていて大変だったと思う。
それは鶴昇・菊も、だ。
芸者の鶴昇を演じる時は、心の中には普通の女性の菊がいて、
菊の時の心の中の鶴昇も同様に演じ分けをしていた。
哀しい人ばかりだがそれぞれの役は作中でちゃんと、そんな自分にも自分の人生にもケジメをつけて去っていった。
彼女らしいケジメ
菊が孝作にケジメを告げるシーンでは三輪さんと菊が重なりあった。
苦慮しながらも役になっていった、芯の通ったド根性のある、彼女らしいケジメのつけ方だった。
彼女の頑張りたくて流した涙も、幾度も真摯に作品と向き合う姿勢も、役とのケジメの付け方もとても素晴らしく、作品に溶け込んでいた様に思う。
きっと鶴昇・菊さんも喜んでありがとうと言っていることだろう。
そして、私もありがとうと伝えたい。
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