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人気シリーズがついに完結 新旧キャラ総出の「ジュラシック・ワールド」などおすすめ新作【次に観るなら、この映画】7月30日編

 毎週土曜日にオススメの新作映画をレビューする【次に観るなら、この映画】。今週は3本ご紹介します。

①メガヒット作「ジュラシック・パーク」シリーズの最終章「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」(7月29日から劇場で公開中)

②社会から隔絶された高地にふたりきりで暮らす老夫婦の姿を描いた人間ドラマ「アンデス、ふたりぼっち」(7月30日から劇場で公開中)

③フランス発のヒューマンドラマ「アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台」(7月29日から劇場で公開中)

 劇場へ足を運ぶ際は、体調管理・感染予防を万全にしたうえでご鑑賞ください!


「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」(7月29日から劇場で公開中)

◇新旧キャラ総出で再考する、共存世界への意識(文:尾崎一男)

 恐竜テーマパーク崩壊後の野生化したクローン恐竜をめぐり、彼らの生存権に迫った前作「ジュラシック・ワールド 炎の王国」(2018)。奇しくも同作はシリーズ第2作「ロスト・ワールド ジュラシック・パーク」(97)を反復するドラマとして、旧3部作の存在をいみじくも感じさせるものだった。それだけにクリス・プラットが主要キャラクターとなる「ジュラシック・ワールド」編と、クラシックとして同シリーズを先導した「ジュラシック・パーク」編との融合は、手段を問わず必然といえるのではないか? 前者の掉尾を飾るといわれている今回のフランチャイズ通算6作目は、旧3部作の主要キャラとの運命的な出会いをはたす。

 古生物学者グラント(サム・ニール)ら「ジュラシック・パーク」編キャラクターは今回、大量発生した巨大イナゴの調査を経て、バイオテクノロジーが悪用されている可能性へと至る。いっぽう恐竜トレーナーのオーウェン(プラット)は誘拐されたクローン少女メイジー(イザベラ・サーモン)とラプトルの子を救出するため、恐竜の売買をしている地下マーケットに潜入する。どちらも陰で糸を引くのは、恐竜保護区を設立したジェネティクス企業バイオシン社の存在。クローン恐竜に留まらないDNA操作の闇が、ここにきて明るみとなるのだ。

(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

 映画はこの2本のストーリーラインを一本化し、恐竜版「ワイルド・スピード」あるいは「ミッション:インポッシブル」とでも呼ぶべき、ワールドワイドなダイナソーライドの様相を呈していく。そしてラプトルとのバイクチェイスや新種の襲撃など、幾多の危機的状況を新旧キャラたちは共にし、結束を固めていくのだ。それをもって「盛り込みすぎ」などと言及する海外レビューもあるが、両者を均等に立てて偏りのない構成は場当たり的なものではなく、緊密に練られた成果だと感心を誘うだろう。「ジュラシック・パーク」編を自覚的に連想させるシチュエーションを随所に盛り込み、オールドファンをヒートアップさせる作りも悪くない。

(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

 だがなにより、人類が恐竜との共生を余儀なくされ、その環境に適応しなければならない事態は、新型コロナウイルス感染拡大の脅威にさらされた現代においてリアルな質感をまとっている。新旧キャラ総出で再考の機会を得た、生命コントロールの脆弱性と共存世界への意識。そこまで深刻ぶるにはやや狂騒的な内容だが、CG恐竜でビジュアル革命を起こしてから、およそ30年。かつてマイケル・クライトンとスティーブン・スピルバーグが映画にもたらしたコンセプトは、ここまで遠大で奥行きのあるサーガへと発展したのだ。


「アンデス、ふたりぼっち」(7月30日から劇場で公開中)

◇生きることの切実。静謐な描写に複雑な感情が沸き上がる佳作(文:髙橋直樹)

 「アンデス、ふたりぼっち」は、ペルーで初めて先住民言語“アイマラ語”で撮影された作品だ。

 ウィルカを演じたビセンテ・カルコラは監督の実祖父、妻のパクシには友人の推薦でローサ・ニーナが起用された。映画を観たことがないというふたりは、儀礼を重んじるアイマラ族だ。

 どこまでも自然な老夫婦の日常を活写するために、脚本、撮影も担当したオスカル・カタコラ監督は、カメラを固定しワンシーン・ワンカットで老夫婦の暮らしを綴っていく。

(C)2017 CINE AYMARA STUDIOS.

 標高5000メートルのアンデス山脈のどこか、川が流れるその場所には気持ちばかり垣根があり、石を積み上げて作った家がふたつ。広い方に住人である老夫婦が暮らす。背後の庭には、リャマが一頭、羊が五頭飼われ、狐に襲われないよう番犬が見張っている。

 「母なる大地」を意味する“パチャママ”に日々の糧を祈る。質素な毎日、ふたりは互いに声を掛け合って生活している。でも歳には敵わない。命の終わりを意識し始めた両親が気にかけるのは、都会に奪われた息子のことばかり。母のパクシはいつも思う。都会に出て行ってしまった息子が居てくれたらどんなに助かることだろう。父のウィルカは静かに願う。きっと、いつか、帰ってきてくれる。でも、叶わないと分かっている。

(C)2017 CINE AYMARA STUDIOS.

 ふたりの暮らしを支えているのは自然の恵みだ。山から湧き上がる水、火を灯す木々、畑で採れたジャガイモ、疲れを癒してくれるコカの葉、屋根に敷き詰められ藁が雨漏りを防ぎ、大地の草を食んだ羊の毛を巻き上げた糸でポンチョを織る。

 慎ましく生きるふたりにとって文明の利器はマッチとランプだけ。火を切らすと、粥を作ることも、薬草を飲むお湯を沸かすことも、家を暖めることもできなくなってしまう。マッチが残り少なくなったある日、意を決したウィルカはリャマを道連れに遠い村へと向かうが…。

 真の豊かさとは何か。未開の大地に生きるふたりの日常とささやかな願いが問いかけるのは、 “生きる”ことの切実さ。大切な人と阿吽の呼吸で分かり合える言葉、胃袋を満たす日々の糧、寒さをしのぐポンチョと家があれば充分ではないか。自然に逆らうことなく、毎日を精一杯生きるのだ。

 毅然としたふたりの姿を通して、豊かさに惑わされて足元すら見えなくなっている“自分の今”を省みる86分間。静謐な描写に複雑な感情が沸き上がる佳作を撮り上げたオスカル・カタコラ監督は、2021年、新作の撮影中に34歳の若さで急逝。その魂は、今もアンデスのどこかで人々を愛おしく見守っている。


「アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台」(7月29日から映画館で公開中)

◇演じる囚人たちと売れない俳優のきらめきが胸を打つ、深くコミカルな人間ドラマ(文:若林ゆり)

 ワケありの囚人たちが、演劇を体験することで成長を見せ、奮闘の末に成功を収める。こんなストーリーの映画は、もう見たような気がするだろう。でも、実話を元にしたこのフランス映画は、想像の遙か上を行く。とくに後半は「こうなるだろう」というありきたりな予想を見事に裏切って、オォー! と驚く感動をもたらしてくれるのだ。

 仕事にあぶれた舞台俳優・エチエンヌが得たのは、囚人たちに演技のワークショップを体験させる講師の仕事。囚人たちのために彼が選んだのは、なんとサミュエル・ベケットの不条理劇「ゴドーを待ちながら」だった。これはふたりの放浪者が「ゴドーを待っている」ということ以外はめちゃくちゃな展開と設定で、読めば「ワケわからん」となって当たり前な戯曲だ。なのに、なぜ多くの人が引き込まれ、面白いと感じ、傑作として世界中で上演され続けているのか。それは、わからないなりにいろいろな解釈ができる面白さがあり、不条理な状況がユーモアと「覚えがある」という感覚を生むからであり、誰もが「人生とは希望を待ち続けることだ」と自覚し共感できるからだと思う。演劇初心者の囚人にこんな難解作をあてがうなんて無茶と思うかもしれないが、「待つこと」がすべてとも言える囚人ほどこの作品を理解できる人間はいないはず、というエチエンヌのひらめきは大正解なのである。

(C)2020 - AGAT Films & Cie - Les Productions du Ch’timi / ReallyLikeFilms - Photo (C)Carole Bethuel

 かくして難解なセリフと、格闘する無軌道な囚人たちとを重ねるように見せながら、映画は彼らの絆と輝きを描き出していく。彼らの指導に執念を燃やしてのめり込んでいくエチエンヌに、観客も共鳴必至だ。エチエンヌは刑務所長に「彼らの演技はリアルだ。彼ら自身をリアルに見せたい」と語るが、これは監督自身が抱いた思いそのままだろう。俳優たちのエチュードを追ったドキュメンタリーのようなタッチにワクワクできるのは、監督が舞台俳優出身で、俳優の力を信じているからこそ。とくに5人の中でもめざましい成長を遂げるジョルダンの、なんと魅力的なこと! 字すら読めなかった野性的で短気でやんちゃな彼が、演じることで魂を解放する過程に胸がふるふる。でも彼らは「グリーン・フィンガーズ」のコリンや「レ・ミゼラブル」のジャン・バルジャンのような善人ではなく、愛すべき小悪党。そこにもスリルがいっぱいだ。

(C)2020 - AGAT Films & Cie - Les Productions du Ch’timi / ReallyLikeFilms - Photo (C)Carole Bethuel

 そしてこの物語は、誰よりも承認欲求をもてあまして「待っていた」エチエンヌの人生にもスポットを当てる。クライマックスできらめくようなフランスのエスプリには、うなるしかない。一筋縄ではいかない深くコミカルな人間ドラマに、拍手喝采を。

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