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36年ぶり続編「トップガン」がついに公開…感想やいかに?【次に観るなら、この映画】5月28日編

 毎週土曜日にオススメの新作映画をレビューする【次に観るなら、この映画】。今週は3本ご紹介します。

①トム・クルーズを一躍スターダムに押し上げた「トップガン」の約36年越しの続編「トップガン マーヴェリック」(5月27日から映画館で公開)

②イギリスを舞台に、名家の子息と孤独なメイドの秘密の恋を描いたラブストーリー「帰らない日曜日」(5月27日から映画館で公開)

③広がり続ける経済格差が引き起こす社会秩序の崩壊を描き、77回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞したディストピアスリラー「ニューオーダー」(6月4日から映画館で公開)

 劇場へ足を運ぶ際は、体調管理・感染予防を万全にしたうえでご鑑賞ください!

「トップガン マーヴェリック」(5月27日から映画館で公開)

◇雄偉な戦闘機アクションの魂を継ぎ、放胆に拡張していく100点答案の続編!!(文:映画評論家&ライター 尾崎一男)

 慌ただしく働くクルーに先導され、ゆっくりと動き出す艦上戦闘機。そして加速と共にフェイドインしていくケニー・ロギンスの名曲「デンジャー・ゾーン」――。オリジナルを逐一なぞるような出だしだけで、背から電流が拡がり気分は高揚する。雄偉たる戦闘機映画の第2章を、この映画は本気で全うする気なのだ、と。

 我らがトム・クルーズの主演最新作は、彼をスーパースターへと一気に押し上げ、アクション映画の軌道を大きく変えた「トップガン」(86)の直接的な続編だ。

 海軍飛行兵の若き精鋭ピート“マーヴェリック”ミッチェル(クルーズ)の挫折と成長を描いた同作から約36年。かつて彼が所属したエリート訓練校出の新世代たちを、今度は自身が指導するドラマへと発展させている。そして前作から咎(とが)として残る葛藤や問題に、ホットな回答が与えられているのだ。加えて進化したジェット戦闘機の世界において、普遍ともいえるパイロットの神話を継承していくのである。

 伝説的キャラクターとの再会や、クリアすべき困難なミッション、かつての仲間の遺児との確執などが宿命的に展開し、作品は旧作を知る者や未見の若年層を問わず惹きつけていくだろう。いっぽうで現実の世界では、軍事行為は人命尊重の観点から無人化の傾向にあり、有人飛行をベースとする本作は時代遅れな印象を受けるかもしれない。だがこの映画は、戦闘機に乗って任務を遂行する者たちの姿を、ビルドゥングスロマンの観点から迷いなく捉えていく。

 ジョセフ・コジンスキーは長編監督デビュー作「トロン:レガシー」(10)のように、ポップな感触と視覚センスを持つ旧作に経年なりの格調を与えているが、それは前中半までのこと。物語は後半、90~00年代ジェリー・ブラッカイマー作品らしい過剰さを剥き出しにし、絶句と涙を同時に誘うような胸アツ展開へと転調していく。そして、なぜマーヴェリックが昇進に背を向け、今も現役に身を置くのかを渾身の力で正当づけるのだ。

 オリジナルはコクピット内描写の撮影に苦闘したが、新作はソニーと共同開発したIMAX品質のプロトタイプカメラにより最大の見せ場へと誘導。F/A-18戦闘機の緊張に満ちたスカイバトルを実現させている、ひいてはトム・クルーズの役者的成長と止まぬスタントのステージアップ、前作の監督トニー・スコットへの敬意など全方位に目配りし、本作は「トップガン」の続編として何ひとつ間違いのない、100点満点の答案を叩き出していく。コロナ禍で公開延期を余儀なくされた、おそらく最後の大型作品。うん、待っただけの価値は充分にあった。


「帰らない日曜日」(5月27日から映画館で公開)

◇イギリス映画の系譜を受け継ぐ、エレガントな官能が匂い立つラブストーリー(文:映画.com 和田隆)

 本作を見ていくうちに、1980年代後半から90年代前半に製作され、筆者が学生時代に続けて見て感銘を受けたイギリス映画を久しぶりに思い出した。ジェームズ・アイボリー監督の「眺めのいい部屋」「モーリス」「ハワーズ・エンド」「日の名残り」といったミニシアター系で公開された名作、秀作と似た光と匂い、時間の流れを持った、なんともイギリス映画らしい作品で、懐かしく感じた。

 それもそのはずで、「帰らない日曜日」はイギリスの権威ある文学賞であるブッカー賞受賞の作家グレアム・スウィフトの小説「マザリング・サンデー」を、世界各国の映画祭で注目されたエバ・ユッソン監督で映画化したラブストーリーなのだが、ブッカー賞も受賞しているノーベル賞作家のカズオ・イシグロ氏が原作小説を絶賛しているのだ。そのカズオ・イシグロ氏といえば、アンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンが共演したアイボリー監督の「日の名残り」の原作者なのである。イギリスの名門貴族に人生を捧げてきた老執事が自らの過去を回想する姿を描きベストセラーとなった。

 第1次世界大戦後のイギリスが舞台の「帰らない日曜日」は、名家の子息と孤独なメイドの秘密の恋を描いている。「日の名残り」との共通点はまず、主人公の秘かな恋(思い)、そして回想形式をとっているところ。まるで絵画のようなイギリスの風景の中で展開する「帰らない日曜日」は、当時の時代を反映してか、スローモーションのようにゆっくりとしている。昨今のエンタテインメント大作の早い展開(演出と編集のリズム)に慣れている方は最初もどかしく感じるかもしれないが、陽の光と風を意識した画づくりにより、そのリズムが次第に心地よくなってくることだろう。そして、衣装や美術、登場人物たちの所作などから当時の貴族たちの美意識や、主人公のエレガントな官能が匂い立ってくる。

 孤独なメイド、ジェーンを演じたオデッサ・ヤングは、邸宅内を裸で歩き回るシーンにも果敢に挑み、自由を求め、秘密の恋に陶酔するジェーンの心を大胆に表現。ジェーンに恋慕する名家の子息ポールには、大ヒットテレビシリーズ「ザ・クラウン」でチャールズ皇太子を演じて高い評価を得たジョシュ・オコナーが扮し、憂いある瞳が印象を残す。さらに、「英国王のスピーチ」のコリン・ファースと、「女王陛下のお気に入り」のオリビア・コールマンという、アカデミー賞受賞俳優が共演しているのも見どころのひとつで、作品をより格調高いものに引き上げている。そして、身分違いの秘密の恋とは別に、本作の根底には、戦争によって愛する家族や兄弟、子どもを失った悲しみと喪失感も流れているのが重要なテーマとなっている。

 ジェーンは孤独な人生の中で、悲しい思い出とともに、愛に満たされた1日を生涯をかけて手繰り寄せるが、映画はその1日をまるで一瞬の光の中で描いているかのようだ。思い返せば、「眺めのいい部屋」「モーリス」「ハワーズ・エンド」も身分の違いや秘めた想い、禁断の愛を美しい風景とともに描いていた。「帰らない日曜日」はそんなイギリス映画の系譜を受け継いでいる。ちょっと立ち止まって、思い出のあの日に、あの懐かしい光の中に戻りたくなるような作品だ。


「ニューオーダー」(6月4日から映画館で公開)

◇メキシコ国旗の理想、赤と緑が引き裂かれた先に浮かびあがる“警告”(文:映画.com編集顧問 髙橋直樹)

“死者だけが戦争の終わりを見た”

 冒頭に登場する一枚の絵画が伝える真実はとてつもなく重たい。バンデミック、大規模なデモ、軍事作戦の名を借りた侵略戦争など、今、世界は目を覆いたくなるような現実に直面している。法と秩序が破られ、常識が通用しなくなっていることに背筋が凍る。

 アルフォンソ・キュアロンは、自らの少年期を映画化した「ROMA ローマ」(2018)で “コーパス・クリスティの虐殺”(血の木曜日事件)を描いた。

 労力に見合わない報酬、働きたくても碌な仕事が見つからず、偏見や出生による差別が蔓延する格差社会で、弱者に対する支配層からの理不尽な要求が続く。出口のないトンネルにいるような閉塞感に苛まれ、日々蓄積した鬱憤を撥ね返そうとする。人々の憤りが極限に達して爆発し、凄まじいエネルギーが街路を覆い尽くす。キュアロンは、家具店の窓をスクリーンに見立て、日常が雲散霧消する蜂起の瞬間を圧巻の映像でとらえた。

 豊かさってなんだ。人間の誇りは何処に行った。協調や寛容、許容し共存する精神は何処にある。明日を生き延びるためのお金も、今夜をよく眠るための食事も、子どもたちの将来に対する希望もない。

 圧政やドラッグカルテルによる支配、暴力的な力で人々をねじ伏せる理不尽な社会、メキシコ映画は路上から時代を照射する作品を作り続けてきた。今回登場した作品「ニュー・オーダー」は、まさに人々の心の声に呼応した作品である。

 冒頭、入院患者がベッドから追い出され、次々と負傷者が運び込まれる。病床が逼迫した院内では初老の男が高額の医療費を迫られている。場面は一転、高級車が並ぶ広大な邸宅で結婚式が間近に迫る。この家に妻の手術費を工面するために男がやって来る。新婦マリーの母は幾ばくかを手渡すが全然足りない。何とかせねばならない。マリーは男を追ってスラム街へと車を走らせる。その時、豪邸の外壁には暴徒化した民衆が迫っていた。

 ミシェル・フランコ監督は「この映画は地獄のようなメキシコを描いているが、現実とそう変わらない。腐敗した政府は、声を上げる市民たちをいつも暴力でねじ伏せてきた」と語る。独立を象徴する緑、信仰の白、そして民族統一を願う赤。メキシコ国旗の理想を引き裂くかのように赤と緑を巧みに織り交ぜ、8人の主人公と総勢3,000人ものエキストラを起用、暴動と略奪が生み出す混沌を現出させる。

 誰にも表と裏の顔が見え隠れし、主従関係や社会的な立場は瞬く間に変わる。極限下で一瞬先にどんな運命が待つのか。そして、社会が求める“新たな秩序”を見つけるために何が必要なのか。それは誰にも分からない。ただひとつ言えるのは、命と引換に戦争を終わらせてはならないということだ。

 緊迫の86分間、この“警告”から決して目を逸らしてはならない。


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