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(2)〝デジ力〟の前に〝読書の筋力〟ー「よく読む子」に育つ5歳頃からの本好き大作戦 ~本に期待する心~

 つづきです。
 「本好き大作戦」の具体的な内容に触れる前に、いくつかお伝えしておきたい・・・と思うことがあります。
 大きく分けて5つあるので、「早く本題に入って・・・」とジリジリしてしまうかもしれませんが、「なぜそれをやるのか」の理由にこの前振りがどうしても必要なので、読んでいただけたら嬉しいです。
 

〈1.「よく読む子」に育つうえで、大前提として「順序が大事」〉

 絶対、とは言いません。・・・でも順番が違うと、本好きへのハードルがどんどん上がっていくのではと思います。
 
 長女が産まれた時から、私はずっとこう考えていました。
 「ゲームやスマホ(動画)にハマる前に、本の魅力を伝えたい・・・」
 
 長女が赤ちゃんの頃なので10年以上前ですが、もちろん当時既にスマホもゲームも生活に浸透していました。
 子育て番組を見ていても時々「園児の我が子がゲームばかり・・・」「小学生の子にスマホを与えたらトラブル続発・・・」というパパ、ママからの相談を目にしたりもしていました。
 
 そんな時、思ったのです。
 「そうだよなぁ、子どもにあんな楽しいものを与えたら、絶対夢中になるよね・・・。わかる、親と子、どちらの気持ちもわかるけど、子どもにとって『いちばん楽しいものはゲーム』みたいになるのはちょっと寂しいな」
 
 ―デジタルを否定はしません。現代ではライフラインです。
 ゲームはおもしろいし、大抵の子どもはいずれスマホを使いこなしてSNSで自分を表現していくようになるでしょう。
 でも、子どもには年齢に応じて「出会うべきもの、出会うべき時」がある。まっさらな状態でこの世に産まれた子どもにとっては、絵本や音の出るおもちゃ、シールや折り紙だってすごい発明品だと思うのです。
 
 あまりにも駆け足で「デジタル力」を身に付けていくより、先に本の魅力や言葉への感受性を身に付けたり、「文章を読んでおもしろいと感じる心」を育てたらいいんじゃないかな・・・と思います。
 その後(例えば10歳くらいから)でデジタル力を鍛えるとして、遅いということはあるのか? と思ってしまうのです。
 
 「同時進行で習得じゃダメなの?」と思う方もいるかもしれません。
 ですが「今、おもしろいと思うことに真っ先に食いつく」という特性を持つ子どもだからこそ、同時に・・・は難しいのではと思います。
 
 「デジタル力」の前に「読書の筋力」。
 私は、自分の子育てではそうしようと考えました。
  というわけで我が家はまず『いちばん楽しいものは本』という環境を、成長に応じて用意することにしよう・・・ということに。
 
 とはいえこの時はまだ、「親が本好きで、家に本がたくさんあって、ゲームや動画を与えなければ自然と本好きに育つだろう」・・・くらいに思っていたのです。
 
 ところが現代の子育ては、そんなに甘くありません。
 

〈2.「本好き人間」の子育てまで「デジタル漬け」になる現実〉

 子どもを本好きにする―それは、「家に本がたくさんある」程度で自然となるものではないと痛感した出来事があります。
 
 長女が幼稚園の年長さん、次女が1歳の時、私の子育てはテンヤワンヤのピークを迎えていました。そしてある時、気付いたら私は長女をパソコンデスクの前に座らせ、ユーチューブを見せていたのです
 「ほらほら、これでも見てて・・・」とほとんど無意識に。
 
 好みがそれぞれに違う(それぞれに我の強い)姉妹。次女にはテレビでEテレ、長女にはパソコンでアンパンマンやオモチャの紹介動画を・・・これでよし。

 ところが何日か続けているうちに、長女は私が選んだ動画だけでは満足しなくなり、ディスプレイの端に表示されている動画を「これも!これも!」とせがむようになりました。
 仕方なく「もう少しだけだよ・・・」と見せているうちに、とうとう子ども向けとは到底思えないような見せたくない動画にたどりついてしまい、「もうおしまい!」と言ったら泣かれてしまうように。
 
 ―我に返った時、私がいちばんショックを受けました
 
 確かに、見ている間は家事がはかどります。ラクです。
 でも全体としては「こうしたかった育児像」からはどんどん離れ、私は前にも増してイライラし、子どもは「見たい!」と癇癪を起している…。
 これまで、外出先でもスマホ以外のもので子ども達をなだめてきて、長女は絵本も大好きだったのに、ほんの数日ですぐに「パソコン見た~い」と言う子になってしまいました。
 
 ―毎日の家事・育児が大変で、私は「子どもに本の魅力を伝えたい」と思っていたことすら忘れていたのです。
 
 デジタルがない時代はみんな、いろいろ工夫して育児をしてきたのでしょう。
 けれどデジタルという選択肢が目の前に簡単にある時代で、それを「まだやらない」と避けて通るのは至難の業
 
 それで、決心しました。
 なんとなく自然にそうなる・・・は(少なくとも我が家では)無理。
 
 ―やるなら本腰を入れて、ちゃんとやらなければ。
  

〈3.なぜ「本好き大作戦」は5歳からなのか?〉

 しつこいようですが、あくまで私見です。
  5歳という目途は、保育園・幼稚園の年長さん、つまり小学生になる前の1年の間・・・という意味で書いています。
 この1年間は、極めて貴重な時間、タイミングだと思います
 
1.(人にもよりますが)大抵の子が平仮名を読めるようになり、文字の多い絵本を読めるようになる(児童書に少しずつ移行できる)この時期はまだ、絵本に親しんでいる子が多く、「本を読もう」という親からの呼びかけに違和感を覚えない。
 
2.パパやママと一緒に(図書館や書店へ)出かけることを嫌がらない。まだ喜んで一緒に行動してくれる時期。(子ども自身に)時間がたっぷりある。
 
3.(与えれば)簡単なゲームやパソコンの操作をある程度できる知能・能力があり、周囲でゲームを楽しむ子も多くなるので、放っておくとそちらの影響を受け始める時期。
 
4.就学すると新しい友達、多方面からの影響が増し、ゲームやスマホに触れる機会が急増する(学校で1人1台パソコンが与えられ、急速にデジタルへの興味が広がる)。生活環境が変わり、親子ともに忙しくなり、図書館通いなどをする時間をつくるのが難しくなる。
 
 これは私が、長女が5歳の時点でそう思っていたのではなく、振り返ってみるとそうだった・・・という実感です。
 
 特にですが、ここ数年で授業のデジタル化が急速に進み、長女は確か3年生の時から1人1台パソコンが与えられたのですが、昨年(令和4年に)入学した次女は、1年生の段階から1人1台パソコンが与えられ、もうすっかり学校で教えられた程度の使い方はマスターしています。
 
 パソコンを持ち帰った日、家ですらすらとパソコンのドリルを解いている様子を見ると、「本もおもしろいよ・・・」とは声かけしづらいのが親の実感。
 
 次女の場合は、こうなる前に姉の影響で既に子ども向けの小説を読む習慣がついていたので、彼女の頭の中で「本は本、パソコンはパソコン」という楽しみ方が「別名で保存」されていた様子。
 ・・・けれど、そうでなければ、難しかったかもしれません
 
 ちなみに、もちろん「4歳から」でもダメではないですし、もともと子どもと図書館や書店通いをしていたり、読書に力を入れていご家庭も多いと思います。
 ただ、あまり早いと「児童書に少しずつ移行する」のが難しいので、その目安として「5歳かな」と感じました。
 
 よく「小1の壁」と言われますが、入学すると本当にその生活に慣れるまで親も子も気ぜわしく、気付くと夏休みだった…ということになりかねません
 私自身、子どもの幼児期最後の1年間(5歳)は、振り返るととても貴重な時間だったな…と今でも思うのです。
 
 パパもママもフルタイムで働いていると、子どもが何歳の時であっても常に「そんな時間はない」と感じてしまうかもしれません。
 それはもちろん、本当にそうだと思います。
 
 ただ、視点を変えて「子ども自身の時間はどうか」と考えた時、本を読む時間がたっぷりあるのは幼児期なのだと思います。
 
 本を読んで、いえ、もっと言えば「文字だけ、文章だけ」を読んで「おもしろい」と感じられる心が育つには一定の時間がかかります。絵や映像を「おもしろい」と感じる感性とはまったく別物。
(漫画もおもしろいのですが、「文字、文章を読んで理解する」ことをここでは重視していますので、漫画は別物ととらえています)。

 なので、クドいようですが読書の筋力を鍛えるには「子ども自身に時間がある」ことが重要なんです。
 

〈4.読書の筋力とは「本に期待する心」を鍛えること〉

 
 さて、タイトルにもなっている、「読書の筋力」ってなんでしょう。
もちろん、図鑑のように重い本を手にする筋力そのものではありませんよ。
 
 私が思う「読書の筋力」とは、まず「一冊の本を自分のペースで読み切る」チカラのこと。
 
 「本を読んでおもしろかった」という体験は、大抵の子にあると思います。問題はそれが継続できるかどうか、小学生になっても続いていくかどうかーもっと言えば大人になっても継続した本の読み手になるかどうか・・・ということなんです。
 
 読書を継続するには、読書の筋力が必要。
 
 ―もう少し噛み砕きます。
  本を楽しむには「おもしろいと思う心」や「豊かな感受性」が必要だということは誰でも想像できますが、実はそこにいきつくには体に染み付いた一定のチカラ 慣れや瞬発力― が必要になると思います。
 
 この「慣れや瞬発力」を鍛えるために、子どもの頃に一定期間訓練をしましょう・・・というのが、この文章、「本好き大作戦」の大テーマ。
 
 いやいや、訓練って何? 大変な努力が必要なの?
 ・・・と思うかもしれませんが、何のことはない、「楽しいと思える本(文章)を何冊も読む」・・・幼少期にこれを繰り返すことなんです。
 
 子どもは素直な生き物。おもしろければ自分から取り組みます。

 ではなぜ積極的に読書に取り組む子は、ゲーム派に比べて少数なのでしょう? ―それは、本をおもしろいと感じていないから
  単純ですみません・・・。
 でも、ゲームやアニメは短い体験時間でも「おもしろい!」と感じられるのに対して、読書のおもしろさを感じるのは「本の選定と自分の体に染み込む時間」が必要なので、令和の世では「お手軽」ではありません。

 でも、本はおもしろいんです。
 それを感じてほしいのです。
 
 「本はおもしろい」という経験を自分自身の心で何度も重ねれば、「本にワクワクできる」自分の心に期待するようになります。
 
 もっと言えば、メディアで取り上げられているような「子どもにお勧めの本」・・・いわゆる「良書」を大人が手にして、「おもしろいんだって!」と声をかけても「ふ~ん」とか「う~ん」とか反応がイマイチな子は、そもそも「本を読んでワクワクする」自分の心に出会ったことがないんです。
 まず「その段階」がすっ飛ばされているんだと思います。
 
 「本と子どもを物理的につなげる」だけでは足りない。
 「自分に合った本(文章)を見つけて読んでみたら、心がワクワクすることに自分で気づいた」という体験こそが必要です。
 
(もちろん、一冊の本との出会いから読書沼にハマる子もいますし、良書と言われる本は素晴らしいものが多いですよ・・・念のため)
  
 

〈5.読書の筋力とは、自転車に乗るような感覚を鍛えること〉


 (4)の続きのような内容です。
 前段階はこれで最後なので、もう少しおつきあいくださいね。
 
 本を読む、長めの文章を読む・・・という行為は、例えて言うと自転車を漕ぐことに似ています
 
 自転車の補助輪をはずす練習をする時は、何日か練習して、体に馴染んでくるとある瞬間、急に乗れるようになりますよね。「あっ、乗れた!」という感覚は気持ちの良いもので、大人になっても体の感覚は簡単には薄れません。
 
 読書の筋力もそれに似ています。「あっ、乗れた!」と瞬間的に掴む感覚とは違い、いつの間にかそうなっているところは違いますが、「一度体得すると忘れない」という点は近いです。
 
 この、「体得するまでに何度も漕ぐ」のと同様に、「体得するまでに何冊も読む(特にある程度の長さのある文章を読む)」―ことが読書の筋力になるのですが、子どもが「楽しみながら何冊も読む」ためには、「読みやすい文字の大きさや文字数」「絵と文章量のバランス」「楽しいと思える物語のジャンル・傾向」・・・を、その子に合わせて見つけてあげる必要があると思うのです。
 
 子どもに初めての自転車を買ってあげる時は大抵、「この大きさはどう? 乗ってみて」とか「どんなデザインが好き?」なんていいながら大人が一緒に選んであげますよね。
 そうして子どもは乗りやすい自転車、しっくりくる自転車を手に入れてから乗る練習を始めますが、読書にもこれをしてあげたらいいなと思います。
 
 体に合った自転車を何度も漕ぐうちに上手になり、「乗る」ことそのものに大変さを感じなくなった時、子どもは初めて行きたい場所へ気軽に行き、変わる景色を楽しみ、風を感じたり友達と遊んだりできるようになります。
 
 本もそれと同じで、「文章を読む」ことが体になじんでいない段階で「おもしろい物語」を読んでも、読んでいるだけで疲れてしまい、「おもしろい」という段階までいきつけません。
 
 ちなみに我が家の次女にある時「赤毛のアン」を勧めてみたところ、数ページ読んで「これ・・・読んでみたんだけど、人のことがよくわからないの」と返されました。
 私はショックを受け、「これ名作だよ。こんなに絵もたくさんあるのに! 低学年向けに短く編集されているのに!」と詰め寄ったのですが(・・・すみません)、よくよく考えると、次女にとってアンの世界の時代背景や外国人の名前は馴染みがないもの。特にマシューとマリラが同居している初老の兄妹・・・というのがうまくイメージできなかったそうなのです。
 
 それもそうだよね・・・ということで、日本の小学生の女の子が学校で活躍する児童文庫を勧めたところ、喜んで読んでいました。
 
 今の次女に必要なのは、乗りやすい自転車、彼女にとって読みやすい文章で綴られた本。
 世界的名作本は、読書の筋力がついてから読めばいいのでしょう。その時は懲りずにまたいろいろお勧めする予定です。
 
 ・・・というわけで、1人ひとりの子どもに合った本を見つけるための「本好き大作戦」、本題に入りたいと思います。
 
 前振りですが、簡単に言うとこの作戦は、「子どもと一緒に何度か図書館に通い、お気に入りを見つける」というシンプルなものです。
 
 なんだそんなこと・・・と思うかもしれませんが、本の借り方、家での過ごし方にちょっとしたコツがいります。
 
つづきます。
 
 
 

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