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解築 -"解体"と"建設"を組む動的な建材ネットワーク-

2020年度卒業設計にて、建築における”解体”と”建設”をシームレスにつなぐことを構法的視点から描きました。

↓作品ボード
明治大学理工学部建築学科|2020卒業設計 公開講評会|12選作品ギャラリー|20210131 Sun. – Conceptboard

自分の作品の内容について、もしよければ一読して頂けると嬉しいです。

目次
ー背景
ー仮設
 (1)Application フリマアプリ的な社会構想
 (2)Network 絶えず動き、場所性を獲得していく建材ネットワーク
 (3)Resource 部品取りとしての空き家活用
ー取り組み
 step1 範囲
 step2 組む
 step3 使い切る
ー設計内容
ー最後に


ー背景ー

皆さんは解体をどのように考えているでしょうか?
”建物を壊して捨てること”でしょうか?
多くの解体の場合、「解く」という字は使われながらも、重機によって「壊す」という選択がされています。

「壊体」が正しいのでは?

ところで皆さんはフリマアプリを使ったことがあるでしょうか?
近年フリマアプリが普及し、自分はいらないモノでも新たにそれを使ってくるれる人へと繋げていく、モノの二次流通が注目されるようになりました。

こうした二次流通を建築でも考えることはできないでしょうか?




ー仮説ー

本設計では3つの仮設を立てます。

(1)Application フリマアプリ的な建材循環

解体物件の解体工程計画出得る建材の情報を事前にオンライン上に公開し、それらを閲覧した人物が情報を基に必要なタイミングで必要な材料を得ます。販売店を通さず、現場と現場が直接つながり、絶えず動き続ける動的な流通経路が確立します。

今まではお金をかけて捨てていた解体材が売れるなら素敵ですよね。

(2)Network 絶えず動き、場所性を獲得していく建材ネットワーク

建材を履歴やプロセスを内在したアクターと捉えるネットワークに乗せることによって大量生産品ですら場所性を獲得します

大量生産品ってコピー&ペースト的につくられていて、場所の文化とかを無視したものとしてデザイナーには嫌われがちでしたが、こういう流通の中なら場所の個性を内在していくのかもしれないです、、

(3)Resource 部品取りとしての空き家活用

使われなくなった建物に資源価値を与え、建材をストックしている”都市鉱山”と捉えることで使われなくなった建物をポジティブに考える社会が形成されます。

空き家を残しながら使い方を考える提案は多くありますが、こうした解体をクリエイティブな行為として考えるやり方も空き家の活用の仕方としてあっていいのかもしれないです。






ー取り組みー

step1 建材転用が適応出来得る範囲を算出する
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step2 解体と建設を組む
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step3 step2で使い切れなかった材料をさらに使い切る


step1 範囲​

建材を転用する際に材料に選択肢がある状態を考え、「1カ月に3軒の解体が起こっている」を基準とし”時間””距離”について範囲(スケール)を明示します。

『時間範囲』・・・
一般的な建設工期を考え 3カ月 を設計対象範囲として設定します。設定した基準から3カ月の中で9軒の解体物件を想定します。

『距離範囲』・・・
国土交通省 「建築物滅失統計調査 2020年6月 都道府県別表」を参照し、以下の式より「1カ月に3軒の解体がおこっている」範囲を一都六県で算出します。

県面積 ÷ (一カ月の滅失数/3) = 3軒の解体が同時に起こる範囲(適応可能範囲)


各県がどのくらい建物を消費しているのかが見えます。

本設計では神奈川県北東部の川崎市:麻生区/多摩区/宮前区、横浜市:青葉区/都筑区を含む 4.91km四方 の範囲を対照としました。


step2 組む

step1で設定した範囲から、9軒の解体物件の解体工程と建設工程を時間的に組み合わせながら建材を転用させ、新築×2、改修×2、構築物×2を設計しました。

接続関係は、フリマアプリのような二次流通の関係を考え、一般的な倉庫での保管を経由する古材回収とは差別化して、現場と現場を直接的につなぐ接続関係を考えています。

step3 使い切る

step2で使い切ることのできなかった材料をさらに使い切る提案を行いました。






ー設計内容ー

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明治大学理工学部建築学科|2020卒業設計 公開講評会|12選作品ギャラリー|20210131 Sun. – Conceptboard

一部を紹介します。

01.ずれの家

ずれの家は、工業化される段階で採用されてきたモジュールから考える、建材の転用時の工夫が特徴的な設計です。
スケール内における位置関係は以下の通りです。


01-1『支持架構_モジュールずれ』

規格化されてきた建築の中で使われるモジュールが異なるモノが、転用によってキメラ的に組み合わさる中で現れる寸法体系のずれの空間を表現することに取り組みました。
犬走に現れる木架構に腰掛け一息つくことのできる場所ができました。

これまでの建材がつくる側の都合に合わせて切断される、いらない部分は捨てられる、という 建設論理>建材 の関係とは逆転した関係性の中でそこにデザインのキッカケが生まれていることが建材との付き合い方として好きだなと感じてます。


01-2『出窓_サイディング割付』

サイディングを効率的に使うことを目的に窓に合わせて加工済みのサイディングも使いたいので、窓とサイディングをセットで転用していきます。
そうすると、サイディングの規格寸法に合わせた割付から窓位置を決定していくことになり、窓が柱位置と干渉しました。これを出窓にして対策することで、外界と緩やかな境界が生まれ、ちょっとした居場所になったり、モノを置いたりする豊かさになるのではと考えました。

01-3-a『サイディング保温BOX』

また、施工時に調整で切断された断熱材を含んでいるサイディングの端材をデリバリーなどを受け取る保温ボックスとして使ってみました。

こうしたことを含めて01では8480kgの材料を転用しました。



02.重なりの家

重なりの家は、建材転用時の材の移動過程におけるプロセスから現れる特徴を重ねていくことが特徴的な設計出す。
スケール内における位置関係は以下の通りです。


02-1『段々屋根_トラックサイズ屋根組』

屋根組を単位として取り出す解体方法で転用を考えます。この際、輸送手段としたトラックの荷台のサイズに合わせた切断を行います。
このトラックサイズの単位が現れる三段屋根を構成しました。

移動における履歴やプロセスがデザインになっていくのが面白いです。


02-2『トラス架構_2100㎜柱』02-2『基礎空間_2100㎜柱』

02-1の単位解体時、屋根組と接合する仕口(柱頭部)を切断する必要があります。これにより柱の長さは短くなり2100㎜の長さになりました。これを転用時に上(02-2)と下(02-3)で補います


上では間柱やツーバイフォー材などの転用材で加工を組み、高さを補うことで、トラス架構の現れた象徴的空間になりました。

下では床を下げ、基礎の立ち上がりで高さを補うことで基礎に囲われた空間になりました。

不都合をポジティブに考えるとデザインにつながりました。

02-3-a『継手・仕口輪留め』

また、屋根組解体時に切断した柱頭部を輪留めとして利用すると、街中に職人の加工技術が現れた木材が転がるという面白いことも起こります。笑

こうしたこと含め、02では6397㎏の材料を転用しました。

以上は新築の提案ですが、ほかにも改修×2、構築物×2の提案をさせていただきました。
よければそちらも見てください。

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明治大学理工学部建築学科|2020卒業設計 公開講評会|12選作品ギャラリー|20210131 Sun. – Conceptboard

結果
本設計では全体を通して、20.4tの材料を転用しました。
また新築に限ると、全体の24.5%を転用材で構成しました。
この割合を全国の新築住宅数に適応させると、681,600tの材料を転用できます。


建築家像
日本では建設業が2番目に廃棄物を出す業界であるという不名誉をどう考えますか?
環境負荷の高い建材を使用しない。二次流通材をできるだけ使用する。
建材の一生の中で、建築家はそれらの流れをデザインできる立場にいます。
建築家が消費者としてふるまえば建材流通のデザインは醜悪なものになる可能性をはらみ、建築家がプラットフォーマーとしてふるまえば建材流通のデザインは好転します。
本設計では、プラットフォーマーとしての建築家の可能性を見ました。



ー最後にー


自分は、建築をつくり方から考えるプラットフォームの可能性を考え、リサーチとデザインを融合させることを目標に卒業設計に取り組みました。

研究的取り組みとして建築作品に捉えてもらえないことも多いのですが、環境のために空間性を捨てるべきだという主張ではありません。あくまで、これらを建築の空間性をつくるときに考えるコンテクストに加えてほしいということです。

建設業が産業廃棄物量ワースト2位という問題に関して、建築家は当事者だと思います。

自分の作品を発信することで少しでも多く人が、”質量のあるモノをつくること””それらを支える生産や廃棄処理のこと”を大切に考えてくれると嬉しいです。


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