成城石井に体を乗っ取られる寸前の女

ここのところ毎日、閉店直前の成城石井に飛び込んでいる。

そうするとどうなるか。

成城石井に体を乗っ取られることになる。

私はすでに元には戻れない体になってしまったが、まだ自我が残っている間にここに遺書を残しておく。みなさんどうか、私の二の舞にだけはならないでください。

すべての始まりは、値引きシールである。

もともと単価が高い高級スーパー成城石井において、我々一般人が手に取れるのは値引きシールがついたものくらいだろう。

それでも、時には勇気を振り絞って定価の商品も買うようにしなくてはいけない。なぜなら成城石井は、値引きシールを使って巧みにあなたの体を乗っ取ろうとしているからである。

意外かもしれないが、夜の成城石井はセール品のパラダイスである。

そして仕事後の疲れにまみれ思考停止してしまっている私のような消費者は、一歩この楽園に足を踏み入れた瞬間にすべての自我を失い、無自覚のまま値引きシールに引き寄せられていく。

気がつけば、成城石井神が言うとおりに20%オフのクロワッサン、30%オフのハンバーグ、そして20%オフのヨーロピアンチーズセレクト６をつかみ、レジへと向かっている自分がいるのだ。

値引きシールは、賞味期限が近いものに貼られていると思っている人が大半だと思うが、それは大きな勘違いである。

あれは間違いなく成城石井神によるお導きであり、邪悪なものを私たちから遠ざけ、幸福へと誘う道しるべだ。

今日だって店に入る前まではアボカドを買いたいと思っていたような気もしたけれど、今日のアボカドには値引きシールが貼られていない。

つまり神は、今日の私には今日のアボカドが相応しくないと考えていらっしゃるということ。今日は神からの許しを得られなかったので野菜は一切なしである。今日の野菜は不浄なのだ。

今夜はお導きに従ってハンバーグとチーズのみをいただき、明朝にクロワッサンを食べることにする。

このように、成城石井神ガチャによって私の体は作られている。

You are what you eat. （あなたは食べたものでできている）という言葉を信じるなら、今の私はほとんど成城石井である。

そして私は明日も、成城石井に足を運ぶことだろう。

また一歩、神に近づくために…。