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山田太一『想い出づくり』(里山社、2016年)

1981年このTBS TV金曜ドラマの放映を見逃した私は、多分に人生を損した思いで今ごろ脚本を手にした。若き日の柴田恭兵さんや古手川祐子さん、田中裕子さん、森昌子さんの面影を想像しながら読み進めるのは意外と楽しい作業だったが、老眼には上下2段組はややきつい。それでもあっという間に読み進めてしまったのは、脚本のもつ力の素晴らしさゆえと思う。

あらすじはドラマサイトに譲るとして、このドラマ放映当時の時代背景を山田太一氏が「復刊によせて」で綴っておられる箇所をご覧いただきたい。

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山田太一『想い出づくり』(里山社、2016年)

今の人は「三十五年前の日本は、そんな風だったのか」と少し驚くのではないかと思いますが、「女性とクリスマスケーキは二十四を過ぎると値が落ちてしまう」というギャグが、事もなげにテレビで笑いの種になっていたのです。・・・今は、いい時代になったというべきなのでしょうか?

忘却の彼方に押しやられていた当時の圧迫感が甦り、女性だけが商品と同じ扱いを受けるという理不尽さに屈するしかなかったことを思い起こした。「結婚適齢期」は「出産適齢期」から弾き出されおり、確かに高齢出産にリスクは付き物だけれども、「売れ残り」とか「オールドミス」などという言葉が当たり前のように用いられていた時代。結婚にはどこか諦念に似た感覚があり、その前に遊べるだけ遊びたいという友人たちがいたのも事実。

もしも当時、このドラマを観ていたら、自分は少しは何かに抗おうとしたのだろうか。それとも結局、想い出だけを胸に今と同じ道を選んだのか。また、今の若い人たちはこんな圧力を感じることなく、主体的に人生の選択をしているのだろうか。さまざまなことを思ったひとときだった。