見出し画像

呼吸法

ひとまず部屋をある程度片付けることが出来たら、一度窓を開けて空気を入れ替えます。そして、立ったまま一度目をつぶるといいかもしれません。気持ちを落ち着けて、部屋を巡る空気の流れを感じながら、軽く息を吸って、はあ、と吐いてみましょう。ゆっくり吐ききると、自然に空気が入ってきます。
息を吐くときは、ため息に似ていますが、ため息をつくときのようにネガティブな感情はありません。いかにも充実しているといった感じでなくてもかまいませんが、気持ちよく息を吸ってリラックスしていることが大事です。ですから無理に息を吸ってはいけません。吸おうとして力が入ってしまうと良い呼吸になりません。

呼吸は心と一体であると考えます。最初は目を閉じて自分の呼吸を意識するだけでいいでしょう。よほど疲れていなければ、背筋を伸ばして腰骨をたて、上半身をまっすぐにします。顎は少し引いて、頭のてっぺんがまっすぐ空に向いています。そして、目をつぶった状態で、鼻で呼吸し、その呼吸に意識を集中させます。とくに無理に呼吸をする必要はありません。体の力の入っている部分を探し、意識的に力を抜きます。特に首の付け根や、肩、眉間に力が入っていることが多いです。すっきりとして、明るく、伸びやかな気持ちに意識的になります。そういう自分であると思い込みます。息は吸ってから少し息を止めて充実した酸素を味わい、次に息を吐くのと一緒に様々な雑多な思いも吐いてしまい、よりすっきりとしていきます。そう思い込むのです。

鼻で呼吸するといわゆる腹式呼吸の状態になりやすくなります。吸ったときにお腹がふくれて、吐くときにお腹が凹みます。吸うより吐くことの方が重要というより、そちらが先になります。少しずつ吐き、吐ききります。そうすれば吸わないと苦しいですから息が入ってきます。体が固くならないようにたっぷりと吸います。そして十分に満ち足りた状態を味わい、また、ゆっくりと息を吐きます。

慣れてきたら、数を数えながらのエクササイズに入ります。あまり息が深くできないときは、4拍吸って4拍吐くことを繰り返します。これはウォームアップで本格的な呼吸法ではありません。呼吸が楽になってきたら、吐くほうを8拍にします。口から少しずつ均等に息を吐きます。長息は長生きといいます。吐くほうが重要なのです。さらにできるだけ長く吐き、吐ききったら空気が体に入ってくるに任せます。この時、鼻からも口からも吸ってかまいません。むしろ全身で空気を受け止める感じです。ただ吐くと苦しいので、数を数えながら吐きます。できるだけ長く吐いてください。吸うときは数えず、空気が体に入るに任せます。そのあと少し息を止め、充実感を味わいます。この充実感は生の喜びです。そしてまた息を少しずつ吐いていきます。これを何回かすると苦しくなるので、普通の呼吸をして休みます。このときまた瞑想するといいでしょう。呼吸は海の寄せては返す波に似ているようにも思えます。周囲の自然界と一体となるイメージを持つことでより大きい充実感を得ることができます。

以上で呼吸法の基本的なやり方を解説いたしました。最後にわたしと呼吸法の出会いについて少しご紹介します。呼吸法は習慣になってしまえばやっていないと気持ち悪くなりますが、最初は抵抗を感じる方もいらっしゃると思います。わたしも呼吸法など意識したことはありませんでした。そもそもやる理由がわかりませんでした。ただ、わたしには特殊な事情がありました。それはトロンボーンを吹いていたということです。トロンボーンはかなり練習しましたが、何か本質的な問題点を感じていました。それが呼吸でした。息の支えと言いますが、充実した息が体に入っていて、それがエネルギーになっているかということです。それがないと一見上手くやっていても、どこか不安定で、精神的にも弱くなってしまうのです。また、それは子どもの頃からの虚弱な体質とも結び付いていました。幼い頃、病気をして入院したことがあり、運動などは苦手でした。すぐ疲れる体質で食も細く、気持ちも暗くなりがちでした。最初は管楽器の練習のために腹式呼吸について調べたのですが、それが精神的なことに結び付いていることを知りました。
齋藤孝先生の『呼吸法』の影響をうけました。丹田呼吸法などという言葉に出会いましたし、日野原重明先生の呼吸法の本も読みました。さらに、白陰禅師の「軟酥の法」には衝撃を受けました。それから様々な健康法やヨガなど呼吸を大切にするエクササイズを調べ、体操などにも一時凝りしたが、呼吸法一本に落ち着き、次第に瞑想にも興味を持ちました。わたしの人生に決定的な影響を与えたアップルのスティーブ・ジョブズも瞑想をしていました。何より、仏陀は苦行では悟ることはなく、瞑想によって悟り、仏陀となったのです。

世の中にはままならないことがたくさんあり、心が乱れます。そのとき、心と共に呼吸も乱れています。呼吸を整えることで、心も整えることができます。何も苦しいことをする必要はありません。深い呼吸で充実した息で体を満たし、明るいゆったりとした気持ちになる。これはどんなに辛く苦しいときでも大切なことです。そんなときこそ呼吸法をしてほしいと思います。お金もかかりませんし、隙間時間でできます。
どんな生命も呼吸をしています。呼吸こそ生命の根源です。充実した呼吸をし、充実した人生を生きることが、わたしたちの幸福への構えです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?