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感動を見つけ、共有すること。


「きりのなかのはりねずみ」
作:ユーリー・ノルシュテイン&セルゲイ・コズロフ
絵:フランチェスカ・ヤールブソワ
訳:こじま ひろこ
福音館書店刊

 日常に存在する感動を見つけ、人と共有することは容易なことです。

この絵本は、ロシアのアニメーション監督であるユーリー・ノルシュテインさんと、同国の児童文学作家であるセルゲイ・コズロフさんによる作品です。

主人公のはりねずみの現実と幻想のはざまを行き来する姿が、カザフスタンのフランチェスカ・ヤールブソワさんにより、淡く、繊細なタッチで美しく描かれています。
 
ある夕暮れ、はりねずみが、二人でお茶を飲みながら、星を数えるために、こぐまの家へと向かいます。
満点の空に星が、瞬いています。
途中、はりねずみは星が映った水たまりを覗いたり、井戸の中に呼びかけたりしながら進みます。

しばらく進むと、霧の中に白馬の姿が浮かんでいます。
はりねずみは、その霧の中に入って行き、白馬を探しますが、見つかりません。
大きな樫の木に驚いたり、暗闇で恐ろしい化け物たちに襲われたりしているうちに、こぐまの自分を呼ぶ声が聞こえてきます。
その声に向かって、はりねずみは、駆け出しますが、足を滑らせて、川に落ちてしまいます。
はりねずみは、川に沈んでしまいそうになります。
するとその時、誰かの声が聞こえ・・・。
 
現実であるこぐまとの交流と、姿は見えるけれど、触れることのできない幻想的な白馬への思いを対比させながら、物語はゆったりと流れていきます。
好奇心旺盛で、優しく純粋な心で物事を見つめるはりねずみにとって、出会う物事の総てが、新鮮で感動的です。

どんなに身近で日常的な事であっても、純粋な心で見つめてみれば、それらは常に新しい感動を与えてくれると、はりねずみは私たちに教えてくれているのではないでしょうか。
 
物や情報があふれ、人間の新しさへの欲望は、留まることを知りません。
確かに、そこには今まで経験したことのない感動が存在しているのでしょう。

はりねずみと、こぐまが楽しみにしている星を数えること。
同じようで決して同じではない日々繰り返される星空の出来事。
通いなれたこぐまの家への道ですら、新しい発見は必ずあるはずです。

子どもたちが、毎日、歩く通学路にも、四季折々の姿があり、新しい出会い、発見、感動が何かしらあるはずです。
 日々、同じであるという先入観がそれらを阻害しているだけではないでしょうか。

はりねずみのように、純粋な心で見つめれば、目に入ってくる情景の一つ一つが人の心を豊かにしてくれるはずです。

物質、情報が豊かな社会が、必ずしも心豊かに導いてくれる社会とは限りません。
はりねずみは、自然と共生し、友と語らいます。
決して、失ってはいけないものを、私たちに教示してくれているのです。
 

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