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第28回絵本まるごと研究会

『ももたろう』
文:松居 直  画:赤羽 末吉
(福音館書店 1965年)

昔話のなかでは有名なももたろうですが、調べてみるとたくさんのお話があります。中でも、このももたろうは、鬼退治に出掛ける理由がしっかりとかかれています。また、さいご、鬼を許す場面で、多くのももたろうは宝をもって帰ってくるお話であるのにたいして、このももたろうは「たからはいらん、姫を返せ」ということで、姫を嫁にもらって帰ってくるという最後になっています。嫁にもらうときに相手のお父さんに戦いを挑むような比喩が込められているのかもしれません。犬サル雉のお供は、鬼が方位の丑寅の反対の方角に申と戌と酉があるということからなのかもしれません。色々調べると興味深いことがたくさんあります。(大学専門研究員・嘱託講師 森さん)

『だごだごころころ』
再話:石黒 渼子・梶山 俊夫 絵:梶山 俊夫
(福音館書店 1993年)

『だごだごころころ』は富山出身の石黒涛子さんが幼いころに祖父から聞いたおはなしを再話されたもので、複数の昔話らしい要素が含まれています。 ひとつは動物報恩譚と言われる動物による「恩返し」。国内外の昔話によくある展開ではありますが、赤とんぼによる恩返しは今回調べたところこれしか見当たりませんでした。
 もうひとつは異世界(ここでは鬼の世界)に行きそこから帰ってくる、という話の流れ。このおはなしのように何か異世界のものを持って帰ってくるというものもいくつか思い当たります。
  その後の皆さんのお話を聞きながら、赤とんぼが赤くなった経緯に触れることも『ふるやのもり』のサルのしっぽが短いわけと同じ形であると気づきました。 
 また、今回このおはなしと酷似したおはなしが高知、愛媛あたりにも伝わっていて絵本になっていることも知りました。『おだんごころころ』は主人公は女の子。赤とんぼは出てきませんが落ちた団子を追いかけて鬼の世界に行き、というその後の話の運びはほぼ同じでした。 
 ただ、この2つが別の地域の伝承話であることは結びの文句、富山で使う「かたってそうろうかたらいでそうろう」と四国地方で使う「とんとんそれまでと」で示されています。これら結びのことばでもそのおはなしがどこの地域のものかを知ることができると改めて知り、もっと調べてみたくなりました。 
また、丸いものが転がるという展開も他にも見られるという話も出て、こちらもまた探してみたくなりました。(子育て支援室スタッフ 石坂さん)

『はしれ!カボチャ』
作:エバ・メフ ト  絵:アンドレ・レトリア  訳:宇野 美和
(小学館 2008年)

ポルトガルの昔話。孫娘の結婚式に出かけて行ったおばあさんが、オオカミ、クマ、ライオンに次々に食べられそうになります。おばあさんは、「これから結婚式に行くから、帰りにはもっと太ってくるよ」と、その場を切り抜けます。孫娘の花嫁姿を見て、楽しいパーティーを過ごし、さて家に帰る時間がやってくると、おばあさんは、オオカミたちのことを思い出して震えてしまいます。そんなおばあさんの姿を見て、孫娘は、畑から大きな
カボチャを持ってきて、その中におばあさんに押し込んで家に向かって転がします。さて、おばあさんは無事に家にたどり着けるのでしょうか。
 リズミカルな言葉の繰り返しが楽しく、昔話ならではの、どこかで聞いたことがあるような懐かしさと、おばあさんをカボチャに入れて転がして助ける孫の大胆さに、ドキドキワクワクがいっぱいの「行きて帰りし物語」。読み聞かせをすると、子どもたちからも、何度もリクエストがある1冊です。(学校司書 増田さん)

『きんたろう』
文:さねとうあきら 絵:田島征三
(教育画劇 1996年)

選書の理由は5月に子育て支援の仕事の一環で金太郎ゆかりの地
神奈川県南足柄を訪れたことがきっかけ。
ご当地で「きんたろう」にちなんだワークショップを行うにあたり、その歴史を調べていく中で実在するとされる人物・頼光四天王の一人、坂田金時の幼少時代を基に語り手や時代の流れの中で様々に脚色され受け継がれてきたことが伺えた。
また地元の方々と対話する中で、老若男女問わずに「きんたろう」にとても親しみを持ち、今も変わらずに愛され、親から子へと受け継がれていることを肌で感じることができた。
仕事とはいえ、昔話に思いを馳せながら発祥の地の景色を楽しむことができ、今後各地の昔話発祥の地を訪れてみたいと感じた。
<感想>
今回、皆さんの発表を聞く中で、お一人お一人が一つの昔話について幅広く情報を集め、学びを深められていたことに感銘を受け、大変参考になりました。
こうして毎回絵本の広がりを学べる場があることにとても感謝しています。(司会・育児コンシェルジュ 中河原さん)

『ねずみのよめいり』
再話:田中尚人 絵:アンヴィル奈宝子
(玉川大学出版部 2021年)

『ねずみのよめいり』は、インドの「パンチャタントラ」やギリシアの「イソップ」など世界各地で親しまれているようで……。
本書は、インドの昔話。鷹に襲われたねずみを仙人が助けるところからお話が始まります。日本の昔話に馴染みのある方には、驚きもあり、新感覚で楽しめる作品です。
また、『ねずみのおよめいり』(文:モニカ・チャン 絵:レスリー・リョウ 訳:高佩玲 河出書房新社1994年)は、台湾の昔話。こちらも前半のストーリーは、私たちの知るそれとは異なります。残念ながら重版未定となっていますが、異国情緒あふれる絵も魅力なので、機会があればぜひ手に取って欲しい一冊です。
日本では「鼠の婿選び」というタイトルでも伝承されているようで、絵本では、『ねずみのむこさがし』(再話:おざわとしお・おおふねめぐみ 絵:おぼまこと くもん出版2006年)が作品化されています。
絵本を軸に昔話作品を眺め直してみると、同じ場面の表現を見比べる楽しさもあると気づき、昔話絵本ならではの魅力を考えるきっかけをいただきました。(財団職員 矢阪)

『ももたろう』
文:松居 直  画:赤羽 末吉
(福音館書店 1965年)

今回「昔話」のテーマで 紹介させて貰った「ももたろう」。「ももたろう」には「桃を食べて若返ったおばあさんから生まれる」「力だめしをするために鬼ヶ島へ行く」等、諸説があり、絵本でも様々な「ももたろう」が描かれています。「ももたろう」に限らず、昔話の絵本は、はじめから絵本として制作されていたわけではなく、伝承されてきたものが絵本として出版されていること、そのために、伝わり方やその地域、時代が反映されてい
ることを、今回、改めて学ぶことができました。どの時代のどの国の絵本を読むにしても、目の前の一冊だけにとらわれること無く、昔話に込められた人々の願いや想い、大切にされてきたことを捉えるという視点を持って広く読んでいきたいと思いました。同時に、「昔話という絵本」の在り方についても考えていきたいと思いました。(小学校教員 村田さん)

『空とぶ馬と七人のきょうだい モンゴルの北斗七星のおはなし』
文:イチンノロブ・ガンバートル 絵:バーサンスレン・ボロルマー  訳:津田紀子
(あかつき教育図書 2021年)

モンゴル民話を下敷きにした、北斗七星と北極星がどのようにできたのか、モンゴルの人々の星への思いを形にした昔話絵本です。埼玉県在住のモンゴルのご夫婦の作品。「モンゴルの草原でくらす、七人のうつくしい王女が鳥の王ハンガリドにさらわれた。王さまは、七人きょうだいに王女をつれもどすよう命じる。七人それぞれは、得意を生かして力を合わせて……。」中国イ族の昔話『王さまと九人のきょうだい』を思い出すかも…。絵は柔らかく繊細で色鮮やか、雄大なモンゴルの自然を思わせるおおらかさとどこか懐かしさも感じられます。あとがきにあるエピソードも興味深いです。(大学教員 德永さん)

『ふるやのもり』
再話:瀬田貞二 絵:田島征三
(福音館書店 1969年)

田島さんの新刊「た」に衝撃を受け、1965年「こどものとも」第一号であり彼のデビュー作でもある「ふるやのもり」を、「静と動」に注目して読み直しました。
冒頭、囲炉裏と馬小屋の3組の描写から=静、どろぼうがオオカミの上に落ちたことで一気に疾走感溢れる展開へ=動。尻尾の綱引きでエネルギーを溜めに溜め=動、プツン!と切れてエネルギー放出。同時に読み手の緊張感も切られ、最後は「サルの尻尾が短く顔が赤い理由」とすとんと現実へ=静。
まるでファンタジーのような緩急ある展開と力強い泥絵の具の絵。時代を経てもなお変わらない人気の秘密がわかった気がします。
前半、同じ屋根の下にいながらお互いの存在を知らない3組を、背景色の描き分けにより見開き1場面で表現するのは、まるで舞台セットの様です。
宮城県立美術館は、1600万円かけてこの作品の原画を補修しました。いつかぜひ、本物を見に行きたいです。(中高図書室司書 坂本さん)

『おおきなかぶ』
再話:トルストイ  絵 ニーアム・シャーキー 訳:中井 貴惠
(ブロンズ新社 1999年)

『おおきなかぶ(福音館書店/A.トルストイ再話/内田莉莎子訳/佐藤忠良画/1962年)』は累計発行部数322万部を超え、幼稚園での読み聞かせや劇、小学校の教科書でも取り上げられるほど有名で、老若男女誰もが楽しめ、絵本を学ぶうえで欠かせないベストセラー。
 今回私が出会ったのは同じトルストイの再話で、1999年に英国マザーグース賞を受賞した絵本。かぶはオレンジ色、登場するのはおじいさんおばあさんと動物たち。1頭の大きな茶色いウシ、2匹のころりんと太ったブタ、3匹の黒いネコ、4羽のまだらもようのメンドリ、5羽の白いガチョウ、6羽の黄色いカナリア、ちいさなはらぺこネズミが順番に登場し、力を合わせていくのですが、登場する度に足し算が行われ、最後には24の力が合わさって「うんとこしょ! あ そーれ どっこいしょ!」抜けたときには「ばひょ~んんん!」みんなで大笑いし、一緒にシチューを食べます。マザーグースらしい表現方法がふんだんに使われ、大胆なイラストレーションに踊ったような文字を使い、ユーモラスに描かれており、同じ昔話が全く違った印象を受けます。
 「おおきなかぶ」の原点に興味を持って、調べてみると『「おおきなかぶ」のおはなし~文学教育の視点から』(田中泰子著/東洋書店/2008年)という冊子に出会いました。「おおきなかぶ」には4つの原話があり、助っ人に「足」が登場するものもありました。日本でも大正時代から昭和初期まで「足」が登場する筋書きだったそうです。童歌集の中にもおさめられていました。原話そのものにリズミカルで楽しく、動作を伴って演じるという遊びの要素がありました。トルストイ再話には「うんとこしょ どっこいしょ」などの掛け声はありませんが、原文を見てみると原題は「リュープカ(かぶを愛らしく表現した言葉)」で、使われている単語の語尾が「カ」(おじいさん=ヂェトカ、おばあさん=バーブカ、孫娘=ヴヌーチカ、ネズミ=ムイシカ)で、韻を踏んで心地よいリズムになっていて、ロシア語で朗読をするときは、読み手はだんだんと早口になり、子どもたちは大喜びで、体を動かし、踊りだしたりするそうです。
 昔話の原点や別の国の出版物に触れると、その国の文化や大切にしていることなどたくさんのことを知る機会になり、伝承文学の魅力を感じます。国際子ども図書館で2013年に行われた企画展示では42冊が紹介されています。(図書館勤務 舘向さん)

絵本専門士による絵本まるごと研究会は、絵本・応援プロジェクトに参加しています。


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