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第24回絵本まるごと研究会

2021年1月30日に第24回目となる絵本まるごと研究会を開催しました。今回は2021年に刊行された新刊絵本の中からお薦めの一冊を紹介する毎年恒例の企画です。今年度より開催を12月から1月へと移動し、2021年に刊行されたすべての作品を対象としました。

『子どもの本で平和をつくる』(小学館 2021)
文:キャシー・スティンソン
絵:マリー・ラフランス
訳:さくまゆみこ

「この混乱した世界を正すことを、子どもたちからはじめましょう。そうすれば、子どもたちがおとなたちに、すすむべき道を示してくれるでしょう」イエラ・レップマン 1945年「すぐれた子どもの本は世界の子どもたちがおたがいを理解しあい、つながりを感じるのに役立つ」というイエラの思いが第二次世界大戦後のドイツを舞台に、戦争で荒れ果てた町で、図書館に来る子どもたちへ読み聞かせする姿を通して伝わってきます。のちにイエラは、国際児童図書評議会(JBBY)を創設し、世界初であり世界最大の子どもの本の図書館、ミュンヘン国際児童図書館を作りました。(図書館司書 野村さん)

『お月さんのシャーベット』(ブロンズ新社 2021)
作:ペク・ヒナ
訳:長谷川義史

とても暑くて寝苦しい夏の夜、とあるアパートで起こった不思議なお話で す。(あらすじ紹介)。 韓国でも有名な作家のペクさんは、もともとアニメーションを手掛けられてい たこともあり、絵本に関してもセット・照明・撮影など全てご自身でやってい る、とあるインタビューを目にしたことがあります。ペーパークラフトを駆使し、 アパートに住む住人の生活感や月の雫がほんのり光る場面・キャラクターの 影の落とし方など、作者のこだわりが随所に見られ、独自の世界観が楽しめ ます。 ファンタジーでありながら、「もしかしたらこの現実の世界でも、こんな事がお こってるかも?」と思わせてくれるようなところが面白く、お月さまに馳せる思 いは国は違えど同じなのだ、という親近感も持ちました。 ペクさんの不思議な世界と、長谷川さんの訳が優しく広がる、穏やかな眠り を誘うお休み前に是非読んでいただきたい一冊です。(司会 中河原さん)

『地球のことをおしえてあげる』(鈴木出版 2021)
作・絵:ソフィー・ブラッコール
訳:横山和江

作者がユニセフとセーブ・ザ・チルドレンの活動を通して、世界中の子どもたちと触れ合いながらアイデアを育 てた、わが故郷である地球を紹介する絵本。紹介するということは、理解することでもあり、改めて地球という星 を考えるきっかけになります。地球を過大評価するわけでもなく、過小評価するわけでもなく、淡々と事実だけを 紹介するという姿勢に好感が持てます。
地球のことを知らないであろう宇宙のお客さんに宛てて手紙を書いているという構成になっていて、最後に追伸 があり、「ところで、きみにおしえてほしいことがあるんだ。目はいくつある? 体は大きい、小さい? ペット を飼ってる? 誕生日はいつ? すんでるところは、いつも暗いの? 地球にはいつきてくれる? ぼくも友だち もしりたいんだ。」と締めくくられています。そこまで読んで、おもむろにカバーを外すと、本体の表紙にはカバーと違った絵が描かれています。子どもたち が考えた宇宙人です。聞き手にちょっとした衝撃を与えて、読み聞かせを終えることができました。(出版社 波賀さん)

『アパートのひとたち』(光村教育図書 2021)
作: エイナット・ツァルファティ
訳: 青山 南

主人公が住むアパートは、7階建て。ある雨上がりの帰り道、主人公は、各階の玄関周りの様子から、どんな人が住んでいるのか想像を膨らませていきます。
本書はイスラエル出身の作家による作品で、鮮やかでエキゾチックな絵が印象的です。慌ただしい現代では、想像を楽しむことなんて忘れがち。本書で主人公と一緒にアパートの人たちを想像してみてはいかがでしょうか。文を読むと数分で終わってしまう作品ですが、絵も読み込むと、その何倍もの時間を楽しめます。雨の日が待ち遠しく、「扉の向こう」を想像することが癖になりそうな一冊です。(財団職員 矢阪)

『二平方メートルの世界で』(小学館 2021)
文:前田海音
絵:はたこうしろう

治療で入退院を繰り返している小学生が書いた作文がもとになった絵本です。家族のことを思い、入院し治療している他の子どもたちのことを思い、自分の気持ちを出さずにいる主人公。そんな主人公が、ベッドに備え付けられている机の裏に書かれている言葉に思わず涙します。顔も知らない“誰か”が、同じ気持ちでここに居たのだということ、書かれた言葉だけではなく同じ気持ちの誰かの存在が、彼女をまた支えている…そんな気がしました。“机のうら”のような存在の誰かが、どうかすべての人のそばにいますように…と願います。(小学校教員 村田さん)

『しましましましょ』(小学館 2021)
作・絵:北村人

絵本の表紙カバーに「いっしょにしましましませんか」と書かれていて、つい手に取りました。実際に3歳児から5歳児が合同の場で保育を行っている保育所でこの絵本を読んだ際、「しましましましょ」という箇所が何回も出てくるので、子ども達も一緒に声を揃えて「しましましましょ」と言っていました。一方で、くるまやきしゃやふね、とうだいがしましま模様になるシーンでは子どもから「ちがう」「だめ」という声が上がり、聞き手の子どもの感性と作り手や読み手の大人の感性の違いも浮き彫りになった絵本です。(保育者養成校 教員 相沢さん)

『しりとり』(福音館書店 2021)
作・絵:安野 光雅

最初のページから一つ言葉を選び、次のページへとしりとりで続く絵本です。驚きなのは、誰がどの言葉を選んでもちゃんと次のページには繋がる言葉があって。ひとりでも、何人でも同時にしりとりができる魔法の絵本です。最後だけ、んに繋がる言葉がなかった人は、最初のページにもどって、最後の「ん」で終わる言葉に繋がったら、ゴールです。帯に「字の読めない小さな子から100歳(!?)まで幅広い世代が楽しめる」とかいてあるように、本当にみんなで楽しめる絵本です。
音韻処理や読字の苦手な子どもにしりとりが有効と言われています。遊びながら、言葉や文字に親しみ、どんどん読みが得意になると嬉しいですね。わいわいいいながら遊んでほしい絵本です。(大学専門研究員・嘱託講師 森さん)

『る』(PHP研究所 2021)
作・絵: さいとう しのぶ

しりとりをテーマにした言葉遊び絵本。しりとり博士がしりとりで「る」からはじまる言葉探しをします。いつもは苦戦する「る」のつくものが、絵の中にも隠れています。よく見て見つけてみてください。遊び心がうれしい言葉の世界が広がる絵本です。違う文字でオリジナルな絵本をつくってみてはいかがでしょうか。低学年の国語の教材としても活用できると思います。(大学教員 德永さん)

『ありがとう』(講談社 2021)
詩:谷川俊太郎 
絵:えがしらみちこ 

『子どもたちの遺言』(谷川俊太郎・詩 田淵章三・写真 佼成出版社 2009)に収録された詩「ありがとう」を絵本化。谷川さんの心の奥から発せられる子どもの言葉をつむいで書かれた詩を、えがしらみちこさんは優しさにあふれる晴れやかな卒業式の場面として描いています。未来への希望に輝いている、少女のまなざしが印象的です。
はなむけのメッセージとしておすすめの絵本ですが、「自己肯定感を育むとは?」という問いの答えをシンプルに教えてくれました。
日々の生活の中でも、「ありがとう」身の回りのことに感謝の心を持てること、そして自分が自分に感謝できること、今、ここにいる自分の存在を大切に思えることが、幸せへの第一歩だと気づかせてくれます。(図書館勤務 舘向さん)

『おねぼうさんはだあれ?』(学研プラス 2021)
文:片山令子
絵:あずみ虫

この絵本は春の幼稚園実習に向けての模擬保育で多くの学生が取り上げていた絵本でした。うさぎのミミナちゃんは冬ごもりの友達が起きるのを待ちきれません。「はるになったよ」と優しく声をかけては、春のお花を置いていきます。冬を越えて友達との再会を喜ぶ愛らしい動物たちと、ページをめくるたびに広がる様々な春の植物や生き物のイラストは見るだけで心が明るく、幸せに包まれます。残念ながら2018年に文を書かれた片山令子さんは絵本の完成を見ずに亡くなられました。イラストのあずみ虫さんは、片山令子さんの世界観を表現するために、アラスカや山梨の森を取材し、ぎりぎりまでイラストの修正を重ねたそうです。温かな気持ちにしてくれるお日様のような絵本です。春に是非読んで頂きたい一冊です。(保育士養成教員 野見山さん)


『とっています』(世界文化社 2021)
作:市原淳

雨と飴、花と鼻、橋と箸。ひらがなで書けば同じ音なのに、それぞれ表す意味が違う同音異義語が日本語にはたくさんあります。子供たちに同音異義語を、もっと楽しく伝えられる絵本はないかなとずっと探していました。その思いが通じたのか、昨年、『とっています』が出版され、2021年のおすすめの本として、私が皆様にご紹介したい1冊となりました。
鮮やかな黄色い表紙の中で、大きなお相撲さんがすもうをとっています。熱い戦いのさなか土俵の中にちょうちょが舞い込んできて、お相撲さんがちょうちょをとっています。でも取り組みは続いていて、相手が足をとっています。そして、バランス、かつら、写真、休憩、なんと宅配までとって、ちょっとふとっています。
同じ「とっています」という言葉を、お相撲さんの動きで、それぞれに意味が違うことを楽しく伝えてくれます。そして、ダジャレもきいていて、つい笑ってしまいます。何度も手に取りたくなってしまうのは、背景が黄色という色にも秘訣があるのかもしれません。(学校司書 増田さん)


絵本専門士による絵本まるごと研究会は、絵本・応援プロジェクトに参加しています。





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